わがまま妃はもう止まらない

26

「クリス？どうしたの？政務は？」
こんな時間にクリストファーと会う事がない。廊下で呼び止められてミルアージュは少し驚いたようにきいた。

「ちょっと時間ができたからな。会いにきた。」
クリスの様子が少しおかしい？
ミルアージュはクリストファーの様子に違和感を覚えた。

「部屋に戻る？」

仲違いをしている事になっているのだ。
誰が見ているともわからない廊下で話す事はできない。

別々に部屋に向かい、二人の部屋の間の扉を開いた。
そのまま、クリストファーはミルアージュに抱きついた。

「クリス？」

「もう少しだけこのままでいてくれ。」

ミルアージュの耳元でクリストファーはささやく。

しばらく沈黙の時が流れたが、クリストファーが口を開く。
「私はミアを幸せにできているか？」

「ええ、とても幸せよ。」

「優秀だ、賢王になるなど言われていながらミア一人を守ることもできない愚か者だ。」
吐き捨てるように言う。

私に絡んで何かがあったのだとミルアージュは思った。

ミルアージュはギューと抱きしめ返した。

「あなたは私を助けようと頑張ってくれているのでしょう。ありがとう。でも私は大丈夫。打たれ強いの。だから、気にしなくていいわ。」

そのミルアージュの返答にクリストファーは傷ついたような顔をする。

「ミアはいつでもそうだ。一人で解決しようとする。私にもっと甘えてくれ。できることならする。ミアの居場所を作りたいんだ。」

クリストファーのその想いはもう十年以上変わっていない。
アンロックで人形のように感情を捨てたミルアージュを見て心に決めていた。
ミアを幸せにすると。

クリストファーが庇えば庇うほどミルアージュの立場は悪くなっていく。
ミルアージュ自身、クリストファーの助けなど求めていない。
それはわかっているのだが…何とかしたいと思うのは悪いことか？
アンロックの連中と結局やっている事はなにも変わらない自分の愚かさに腹がたつ。

ミルアージュは困った顔をした。

「クリス、ごめんなさい。もっと甘え上手な可愛らしい妻の方が良いわよね…」

「違う、そう言うことを言っているんじゃない。」
クリストファーはミルアージュを強く抱きしめる。

二人の想いは噛み合わない。

「ミア、私は…」

トントン

部屋のドアがノックされる。
ドアの方をチラッと見てクリストファーはため息をつく。

「時間切れのようだ。」
クリストファーの補佐官が迎えに来たのだ。
一時間ぴったりで邪魔しにくるなんて奴しかいない。

「また、ゆっくり話そう。」

だが、そこからクリストファーとミルアージュは多忙を極め、ゆっくりと話す機会がなかった。


二人の想いがすれ違ったまま…

レンラグス王国の第二王女がルーマンに留学という名目でルーマンを訪れる。

この王女の登場によりルーマンは国を揺るがす事態に発展していく。