88 / 245
88
しおりを挟む
「では、私たちも行こうか。」
マカラックはそういい、ミルアージュを見ると浮かない顔をしているのに気づいた。
「何か気になることがあるのかな?」
マカラックはミルアージュに聞く。
「マカラック様を巻き込むのが良いことなのか未だにわかりません。アムーラ教の教祖であるあなたをこんな戦に連れ出すなんて…」
アムーラ教は暴力で解決する事を良しとはしない宗教だ。
その教えの中にマカラックの強い思いが感じられる。
「ああ、そうだね。争いから悲しみが生まれ、憎しみに変わる。そして、憎しみが更なる悲しみを生む。その繰り返しは本当に悲しいと思うよ。」
マカラックは長い間、生きていた。
誰よりも人間の影の部分を見てきた。それと同時に人間が救いを求めていたのを知っていた。
「国の政治が綺麗ごとだけではできないこともわかっているよ。私はその現実を目の当たりにして国を滅ぼしてしまったのだから。」
マカラックは辛そうに笑う。
「申し訳ありません。」
ミルアージュは深々と頭を下げた。
「いや、もう遠い昔の事だ。その当時を知る者は誰もいない。」
アムーラ教の物語として語り継がれる昔話。
今となっては親から子に語られる昔話だが、マカラックにとっては辛い過去なのだろう。
ミルアージュはそれを思い出させた自分の発言を申し訳なく感じていた。
マカラックは1000年は生きていると言っている。マカラックはどんな思いで生きているのだろうかと思うと心がチクリと痛んだ。
「構わないよ。だから、私が手伝えるのは国王の救出までだ。じゃあ、ミルアージュ殿、復習してみて。あなたが私の力を上手に使えるかがポイントだから。」
マカラックはミルアージュの両手に自分の手を重ねた。
「はい。」
ミルアージュが目をつぶり祈りを捧げるとマカラックが重ねた手から半透明となり、それが全身に広がった。
あたたかいものが身体中を回る。
泣きたくなるような…安心するような何とも言えない気持ちになった。
ミルアージュは、何度この練習をしてもその感覚になれることはできなかった。
その感覚は怖いと本能的に感じてしまっていたから。
「うまくできているよ。そんな顔をしてどうしたのかな?」
マカラックがミルアージュの顔を覗き込んだ。
「この満たされるような感覚に溺れてしまいそうで怖いです。今までに感じたことがないものなので…」
「そう、感じたことがない…」
マカラックの顔色が少し変わった。
ミルアージュを哀れむような慈しむようなアムーラ教の教祖としての顔だった。
「それは幸福という感情だよ。幸せだと感じる時の感覚だ。本来、人間が皆持つべき感情なのだよ?」
「幸福ですか?」
「そうだ。だから、その感情を恐れなくてもいい。ミルアージュ殿が今まで頑張ってきたから、その感情を持つ人間は増えたはずだ。たまには自分の感情にも目を向けてやれ。そうしなければ行き場を失った感情に潰されてしまう。」
マカラックは力を使う時、あえて授けた幸福の力を使った。
幸福の感情を実感させ、どれだけ自分の幸せを考えずに生きてきたのかを教えるために。
それなのに…感じたことがないなんて。
皆、自身や親しい者の幸福を望む。
アムーラ教に助けを求め幸福を授かる。
人に頼っても手に入れたいもの。
ミルアージュはそれを自ら手放して生きている。
マカラックはミルアージュがその感情を受け入れることを心から願った。
「さあ、復習はもう終わりだ。アルト準備はいいかな?」
ミルアージュの後ろに立っているアルトに声をかける。
「はい、いつでも構いません。もう準備は整っております。」
「お前に敬語を使われると気持ちが悪いな。」
マカラックはブハッと笑い出した。
マカラックはそういい、ミルアージュを見ると浮かない顔をしているのに気づいた。
「何か気になることがあるのかな?」
マカラックはミルアージュに聞く。
「マカラック様を巻き込むのが良いことなのか未だにわかりません。アムーラ教の教祖であるあなたをこんな戦に連れ出すなんて…」
アムーラ教は暴力で解決する事を良しとはしない宗教だ。
その教えの中にマカラックの強い思いが感じられる。
「ああ、そうだね。争いから悲しみが生まれ、憎しみに変わる。そして、憎しみが更なる悲しみを生む。その繰り返しは本当に悲しいと思うよ。」
マカラックは長い間、生きていた。
誰よりも人間の影の部分を見てきた。それと同時に人間が救いを求めていたのを知っていた。
「国の政治が綺麗ごとだけではできないこともわかっているよ。私はその現実を目の当たりにして国を滅ぼしてしまったのだから。」
マカラックは辛そうに笑う。
「申し訳ありません。」
ミルアージュは深々と頭を下げた。
「いや、もう遠い昔の事だ。その当時を知る者は誰もいない。」
アムーラ教の物語として語り継がれる昔話。
今となっては親から子に語られる昔話だが、マカラックにとっては辛い過去なのだろう。
ミルアージュはそれを思い出させた自分の発言を申し訳なく感じていた。
マカラックは1000年は生きていると言っている。マカラックはどんな思いで生きているのだろうかと思うと心がチクリと痛んだ。
「構わないよ。だから、私が手伝えるのは国王の救出までだ。じゃあ、ミルアージュ殿、復習してみて。あなたが私の力を上手に使えるかがポイントだから。」
マカラックはミルアージュの両手に自分の手を重ねた。
「はい。」
ミルアージュが目をつぶり祈りを捧げるとマカラックが重ねた手から半透明となり、それが全身に広がった。
あたたかいものが身体中を回る。
泣きたくなるような…安心するような何とも言えない気持ちになった。
ミルアージュは、何度この練習をしてもその感覚になれることはできなかった。
その感覚は怖いと本能的に感じてしまっていたから。
「うまくできているよ。そんな顔をしてどうしたのかな?」
マカラックがミルアージュの顔を覗き込んだ。
「この満たされるような感覚に溺れてしまいそうで怖いです。今までに感じたことがないものなので…」
「そう、感じたことがない…」
マカラックの顔色が少し変わった。
ミルアージュを哀れむような慈しむようなアムーラ教の教祖としての顔だった。
「それは幸福という感情だよ。幸せだと感じる時の感覚だ。本来、人間が皆持つべき感情なのだよ?」
「幸福ですか?」
「そうだ。だから、その感情を恐れなくてもいい。ミルアージュ殿が今まで頑張ってきたから、その感情を持つ人間は増えたはずだ。たまには自分の感情にも目を向けてやれ。そうしなければ行き場を失った感情に潰されてしまう。」
マカラックは力を使う時、あえて授けた幸福の力を使った。
幸福の感情を実感させ、どれだけ自分の幸せを考えずに生きてきたのかを教えるために。
それなのに…感じたことがないなんて。
皆、自身や親しい者の幸福を望む。
アムーラ教に助けを求め幸福を授かる。
人に頼っても手に入れたいもの。
ミルアージュはそれを自ら手放して生きている。
マカラックはミルアージュがその感情を受け入れることを心から願った。
「さあ、復習はもう終わりだ。アルト準備はいいかな?」
ミルアージュの後ろに立っているアルトに声をかける。
「はい、いつでも構いません。もう準備は整っております。」
「お前に敬語を使われると気持ちが悪いな。」
マカラックはブハッと笑い出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
234
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる