わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

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ダミアンも証明書の存在を知らなかった。
領主が落としたその証明書の内容を見て目を大きく開けた。

「これは…」

「私の家門に入るか聞きましたよね。あなたが受け入れたので証明書を発行しただけですよ。」
シラっとアビーナルはダミアンに言う。

「貴族の権限をくれると言うから…まさかこんな高貴な貴族の家門だなんて思わないだろう。」
ダミアンはただ領主と話し合う権限が欲しかったのだ。
平民は貴族の許可なければ発言すら許されないのだから。

アビーナルから自分の家門の人間にならないかと声をかけられた。
貴族である自分の家門の人間ならば領主と話ができると言われ何も考えず即答していた。

貴族社会に詳しくないダミアンですらその名を知っているくらい有名な家門だ。
一生会う事はない雲の上の人達。
それなのにその家門の一員になるなんて…到底考えられない事だった。

「嘘は言っていません。今あなたがするべき事は私を問い詰める事ではないはずです。」
アビーナルにそう促されてダミアンは領主を見た。

「どうしてこのような事をしたのですか?」
再度ダミアンは領主に聞いた。

先ほどのように領主は平民だと断れない。
自分よりも身分が高い家門の者だから。
バックには王太子も付いている。

領主は冷や汗を流していた。
チラッと後ろに立っているキュラミールの使いの者も見たが目を合わせない。

「さっさと答えろ。いつまでも話が進まないだろう。」
しびれを切らしたクリストファーが領主に言った。

「…領民が暴動を起こすとの情報が入りましたので…」
領主はそう答えるのが精一杯だった。
国に対しそう報告しているのだから別の言い訳を言えるはずもなかった。

その言葉を聞き、ダミアンを始め領民側はざわついた。

「そんな報告はしていません。今年は収入も多く税もきちんと払えていましたし、領民たちに不満もなかったはずです。」
ダミアンはすぐさま反論した。

「それは私達も証明します。」
アビーナルが付け足しミルアージュも頷いた。

「なぜ人の領地で勝手な事を…王族とはいえそんな勝手なことが許されるわけない。」
領主は震えた唇からミルアージュへの非難を口にした。

「領主のあなたに断りを入れなかったのは申し訳なかったわ。ほら、色々あって旅をしていた途中でこの街の状態を見てしまったから…ちょっと街の復興を助けるくらい問題はないかなと思って。問題があったかしら?」
ミルアージュはニコニコと笑いながら言っている。

領主ができていなかった事を代わりにしてあげたのだから感謝しなさい。
そう、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら圧をかけていた。

「いえ、そんな事は…」
しどろもどろで領主で答える。

「素敵な街ね。みんな勤勉で真面目で。この街はもっと栄えるわ。領主様のお陰かしら。」
ミルアージュは殺気を隠さず最大級の嫌味を言った。

領主はオロオロと周囲を見渡し落ち着かない様子だった。

ダミアン達はその様子を見て今までこんな者に苦しめられてきたのかと悔しくなった。

「ここにいる者達はあなたがもっとしっかりしていれば優秀な者達よ。どうして裏切ったの?」

ミルアージュは領主がきちんとこの地を治めていれば、ここまでこの地の者達が追い詰められる事はなかった事を知っている。
だからこそ、悔しくて仕方がなかったし領主を許す気などなかった。

ミルアージュに問い詰められ領主は観念した。
「私はこんな領地の領主などではなくもっと豊かな地の領主が良かったんだ。貧乏くじもいいところだ。お前らみたいなのを相手にするのはもう嫌だったんだ。」

領主はクソっと怒鳴り我慢していたものが噴き出した。

「この地は国を守る上で大切な地だと言われて育ったが、だからって国が何をしてくれた?こんな何もない地にしがみつくしかなかった私が可哀想だろう?もっと違う地に生まれていれば活躍する場などいくらでもあった。こんな地などなくなればいいんだ。」
ダミアン達領民に向かい領主として言ってはいけない言葉を吐き出していた。

全てはこの地とお前達が悪い。
そう言う領主にダミアン達は唖然としていた。
この領地に興味もなくずっと王都で暮らしていた領主。
何かをしてもらった事などなく税だけをむしり取っていく領主。
それなのに…

領主はまだいい足りないのかダミアン達に向か暴言をいい続けている。

「黙りなさい。領民達は住む場所と領主を選べないのよ。あなたには領主としてこの者達を守る義務があった。あなたにこの街を変える力がなかっただけ、能力の無さの言い訳を人のせいにしないで。」
ミルアージュは静かに言った。

領主がミルアージュの一番嫌いな言葉を言った…
こういう時のミルアージュはマジギレしている。
クリストファー、アビーナルにはわかっていたため、飛び火が恐れて見守りに徹する事にした。
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