ラピスラズリ物語

兎衣

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第一章 ロシアンブルーとの出会い

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 ありえない…まるで夢。いや、最初は夢だと思っていた。
けれどあの奇跡のような出会いが彼女を一人の人として、女として成長させた。
自信、勇気、想いを形にする力、そして…愛。希望という名の未来を手にすることができると。
そして誰かを愛することの本当の意味を知る。彼女は、運命によって選ばれた。
強い力を持つパワーストーンと強い想いに導かれて始まった物語である。


 一瑠「あ、バス間に合わない。」一瑠は急いで家を飛び出した。
今日はお気に入りの雑貨屋さんに行くとずっと決めていた。
一瑠の趣味は、雑貨屋さん巡りなのだ。好きなことをしているときの嬉しさは表情からすぐ読み取れる。

そうそう、彼女がこの物語の主人公。一瑠-いちる-
外見は人目をひくミルクティー色のふわふわしたロングヘア、空色の瞳をした24歳の女の子。
どこにでもいる一人暮らしの社会人だ。何にでも好奇心旺盛で、誰にでも全てに思いやりの心を持っている。
一つ変わっていることがあるとすれば見た目とは裏腹に実家は武闘の名門であること。
幼い頃から剣道、空手の全国優勝を総なめにした実力。…外見に騙された男は何人いたのだろう。

 一瑠「暑いなぁ。はやくお店入ろう」バスから降りると真夏の日差しを浴びて額から出る汗をハンカチで拭った。
一瑠は足早にショッピングモールの中に入っていった。
お気に入りの雑貨屋さんに立ち入ろうとした時だ。


…リーン。

近くで鈴の音が聴こえた気がした。一瑠は、辺りを見渡した。
他のお客さんは、まるで音なんてしなかったかのような様子で気にも止めていない。
一瑠「んー、気のせいかな」そう言って雑貨屋さんに意識を戻そうとすると、

…リーン、リーン。

今度は、はっきりと聴こえた。一瑠は、音がした方を見ると、そこにはロシアンブルーのとても綺麗な猫がこちらを見ている。
見るからに育ちも頭もよさそうな猫である。一瑠はまた、周囲を見回した。
だが、誰も聴こえても見えてもいないようである。
不思議そうにまた猫の方に視点を戻した。一瑠「(綺麗…ロシアンブルーだ!好きな種類なんだよね。)」

 …リーン

猫は鈴の音を鳴らして非常口の方へ走ってはこちらをみている。まるで招いているように。
好奇心旺盛な一瑠にとっては店に猫がいるという事実だけでそれを追いかける選択肢以外なかった。

一瑠「あっ、待って猫ちゃん!」猫を追いかけ、非常口のドアノブを回した。
 ドアを開くとそこには色とりどりの屋根が階段のように並んだ街並みの風景。
そして周りは海で囲まれている。あまりの美しさにしばらく立ち止まっていた。

一瑠「綺麗…じゃなかった!猫ちゃんどこいったんだろ。見失っちゃったかな?」
一瑠が猫を探そうと歩き出した瞬間白いフードを被った男が少しだけ離れたところに見えた。
一瑠「(怪しい格好…不審者?…早く離れよう)」一瑠がその場から離れようと片足が浮いた瞬間…
その男は首から提げた白っぽい石のネックレスを持ちなにかを唱え出した。

フードの男「ムーンストーン・リフティング。ラピスタを示せ」
男は呪文のような言葉を発すると光に反射してキラキラ輝くコンパスが現れ、しかも宙に浮いているではないか。
一瑠はなにが起きているのか分からずただ眺めているしかできなかった。
だが、そんな一瑠の心境など露知らず先程のコンパスから照射された光の線が彼女を指している。
とっさに眩しくなり一瑠が両腕で光から顔を隠した。

フードの男「ムーンストーンがシラーを!アルバイト王のお告げは本当だったのですね。」男は驚いたように固まった。
だが、すぐにハッとしてまた呪文のようなものを唱えた。

フードの男「ムーン・スペース」すると男が一瑠の元へ宙を浮いて向かってきた。
いくら好奇心旺盛な一瑠でも目の前で起きた事全てを飲み込めずにいた。

一瑠「これ…は、これは…、そっか…夢、夢だ!!まだ家のベッドから起きてないんだよ!だからバスに乗ったのも、ネックレス買いに来たのも、猫にあったのもこの男の人の事も…夢!夢だよ!きっと覚める!覚める!!」

一瑠は願うように目をつむった…もう数秒はたった、なのに何も起こらない。
恐る恐る目を開けるとそこには…フードの男が一瑠の前で膝をつき、まるで童話の中の王子様のような姿勢をしている。

一瑠「…」一瑠が何も言えずに棒立ちしていると男はフードをバサッと脱いだ。
そこに現れたのは…耳までかかった白銀の髪碧い瞳、世に言う美少年だ。
あまりの美しさに一瑠は少年の瞳に吸い込まれそうなくくらいに見惚れた。
少年は膝をついたまま一瑠の右手を自分の右手にのせそっと口付けた。

一瑠「…え?えぇぇえ、なっ何してるんですか!?ていうかあなた誰ですかっ!」一瑠は、一瞬何をされたのか考えた後に顔を真っ赤にして少年を問いただした。

少年「私の名前はマナ。この国の勇者の一人です。あなたのお名前をお聞きしても?」あまりにも丁寧な口調や態度だったので一瑠も思わず答えていた。

一瑠「いっ、一瑠です。数字の一に、瑠璃の瑠で一瑠」そう名前を告げると愛という少年はより一層愛おしそうにそして切なそうな表情で
一瑠の名前をそっと呼んだ。

愛「…一瑠様。ずっと…ずっと…お待ちしておりました」一瑠は訳が分からず首を傾げた。
一瑠「ずっと?どういう事?そっ、それにさっきの光とか宙を飛んでた事も、勇者って何?あとは…そう!猫!!猫よ!あの猫はどこ?私、猫を追いかけてきたの」
焦ったように思いつくものを並べて尋ねた。すると愛は表情一つ乱さずに落ち着いて答え出した。

愛「一瑠様、大丈夫です。私は貴方様の味方。ですが、テンポラルから来た一瑠様の疑問も当然の事。これから全てお教えいたします、オーソクレース城で。」

  第一章 ロシアンブルーとの出会い 完
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