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しおりを挟む「お前がアイツを同性愛者に育てたんだろう」
「誰が好き好んで我が子をホモなんかに育てますか」
両親がリビングで言い合っている声。たしか中学の時だった気がする。
父は僕が高校一年にあがってすぐの四月に脳出血で亡くなった。
悲しくはあったたが、それ以上に心のつかえが取れた。
ざまあみろと、伯母の代わりに弔辞で言ってやりたかった。
「ホモなんか」と侮蔑した母にも、同情の余地はなかった。
僕は母を見捨てた。
だから、架が悪いわけじゃない。
むしろ、架が死んでくれたから、僕は死に対しての恐怖感が、良かれ悪しかれ、少なくなった。
ただ、地獄への水先案内人が父だったのには、いや、父に瓜二つの鬼だったのには、心が揺さぶられた。
死んでも父に会わなけれいけないのかという気持ちと、父が鬼になっていたという喜びがあって、架に会える気持ちと相まって、僕は死んでよかったのだと、あの時は思った。
それから、カキと初めて会った時。
僕は何も話せないままに、カキに刻まれた。
今にして思えば、もっと早くカキに寄り添えたんだろう。
カキにわがままを言えたのかもしれない。
ジキは悪い奴じゃないと、初めから思っていたが、あんなに人間を愛する奴だとは思わなかったし、ショウもショウで、あんなにふしだらな子供だと思っていなかった。
もちろん、僕が言える立場じゃないけど。
架。僕は君と幸せになりたかった。
けど、今の僕はカキを好きになってしまった。
許してほしい。許さないなら、今、こう漂ってる間に、僕を殺してほしい。
僕の意識を完全に消してほしい。
ごめん。架。
ごめん。僕はあまりにも自分が好きすぎた。
そして、君に似た鬼を心の底から好きになってしまった。
ごめんなさい。
コウタ。ヨスガコウタ。
聞こえる。架。
いや、カキの声か。
カキ。ここだ。
僕はここにいる。
「ヨスガ」
目を開けると、天井の片隅にカキの笑顔があった。本当に甦ったのか。
僕はカキを抱き寄せた。
「よかった」
耳元で囁く声。どっちでも良い。
僕はたまらなくなって、カキにキスした。
「カキ。ありがとう」
「俺は呼んだだけだ」
「それが嬉しいんだよ」
見ると、カキの瞳に映る自分の姿に慄然とした。
肌がカキのように赤茶色い。
「僕は、鬼に」
「そうみたいだ」
周りを見ると、ジキの傍らに眠るショウもまた、鬼の姿をしている。
「カキ。君は」
言葉を噤んだ。僕のなかに、まだ架がいる。あれだけ、さよならと言ったのに。
僕が目を落とすと、カキが顔を撫でた。
「本当によかった」
あれ。なんで泣いてるんだろう。嗚咽が止まらなくなってくる。
僕の両手はカキの肩にかかっていた。
カキはずっと僕の頬を撫でてくる。
岩屋の地床に涙が沁み込んでいく。
僕の涙は拭われていく。
少しだけ気分が落ち着いて、またカキを抱き寄せた。
そうすると、また出てくる。
後ろで何かが動く気配がして、涙が収まった。
「お前たちには邪淫の疑いがある。ついてこい」
カキは僕の脇を抱いて、立ち上がった。
少し震えた声でカキは、その声に応えた。
「俺らはただ、戯れていただけです」
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