ポインセチアの咲く頃に

白石華

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結局クリスマスを満喫する二人

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 チチチチ……チュンチュン。

「うう……。」

 俺は意識が目覚めると朝チュン状態になったのを久しぶりに経験した。

「おはようございます。正さん。」
「ああ……おはよう、ミズキ。吸い取りすぎだって。」
「私も久しぶりで、つい。」
「うん……ミズキが意外とそういうところあるのは知ってるけど。
 あっ、そうだ。メリークリスマス、ミズキ。」
「メリークリスマスです、正さん。」
「クリスマスの挨拶も済ませたし、ミズキはどこか、行きたいところはある?」
「そうですね。今は日中でも寒いので、暖かいところが。」

 ミズキは相変わらず寒がりだった。

「うーん。それだとどこがいいかな。」

 またいつもの神社周辺だろうか。あの辺りは屋外ではあるが、見て回る店は結構あるはずだ。それに神社前で甘酒を買うのもいいだろうが。

「後は……ちょっと歩くけど丘に美術館とレストランと。
 ちょっとした陶芸と食べ物が食べられるところがあるくらいかな。」
「ほうほう。」
「そこまでいかなくても神社周辺でも食べられるところはあるし。どうする?」
「正さん。クリスマスは二連休なんですよね?」
「正確には今日だけど、明日も一日遅れで祝ってくれるところはありそうだね。
 ってそうか。二日に分けて行けばいいんだ。」
「はいっ。」

 というわけで、ネットでクリスマスを祝ってくれそうなところと、クリスマス後でも延長でそういうことをやってくれている店を探して。どっち側に行くか決めることにした。

「今日は丘からか。」
「行きましょう正さん。」

 丘の方へ歩いていくことにした俺たちだが。去年、見なかった新しい場所に行けるからかミズキも嬉しそうである。普段ずっと植物に宿る妖精で人の暮らしを眺めるだけだったからみたいか、随分とミーハーな妖精さんになっていた。

「栗とかありますか、正さん。」
「うーん、そうだね。生栗は売っていないだろうけど。」

 ミズキは昨日から栗が気になっているようだ。丘のあたりまで歩くのは結構な運動になるし、その先にも手前にもレストランやパン屋、カフェがあるため目的地までの小休止を兼ねて、そこで食べてしまってもいいかもしれない。

「ミズキは栗が食べたいんだっけ。」
「そうですね。ここの栗は、とても美味しかったです。」

 ミズキが美味しかったのを思い出すようにうっとりとしている。

「ふんふん。ランチかケーキだったら、どこか……。あ、そのものズバリがあった。」
「何ですか正さん。」
「栗ぜんざいだって。カフェで抹茶も出してくれる。
 クリスマスなのに渋いよね。」

 俺はスマホを片手にレストラン検索したら、あっさりヒットした。

「カフェ……なら栗が食べられるんですね。」
「そうだね。行ってみようか。」

 というわけで、今回のクリスマスは外食となり。

「正さん。こんなにケーキがいっぱい。パンもありますし大福もあります。」

 ミズキがカフェに入った途端、目を輝かせてレジ前のショーケースを眺めている。カフェだからケーキセットやランチセットなどで中で食べられるし、持ち帰りも可能なのだった。今は衛生もあるから、手に触れたらまずいのは中に入れておくのか。

「ミズキは他に食べたいのはある?」
「目移りしますが、ランチメニューを見てからにしないと胃袋が後悔しそうです。」
「へー。」

 妖精さんにも腹八分目で止めておくって事があるんだ。

「胃袋……というよりも私、霊威をそんなに貯めておけないし。
 お供えも大量には処分が。」
「そっちの方なんだ。」

 ミズキの霊威の問題だったようだ。植木鉢とかの花にお供え物をするのは……酔っぱらった俺ぐらいだったのか。というかあれ、お供えにカウントされるんだろうか。

「とりあえずメニューを見るために中に入ろうか。」
「はいっ。」

 というわけで店員さんに席を案内され中に入ると。カフェと言ってもここは農業の発達した市、稲里市である。カフェも地元産野菜を扱うところは扱っている。野菜を多く食べられるカフェは健康志向もあってか若い女性客の受けがいいようだ。ミズキと二人で来てよかった。
 ほかにも地元の有名店からのコーヒーに、紅茶に、ジュースも国産のものは国産で用意しているようだ。あとは地酒も置いてあるな。ここは米どころでもあるため何気に酒屋も多かった。お酒を扱っているためか、料理も酒に合いそうな料理もあって。サラダを添えた燻製に、マスタードをたっぷり付けた肉のオーブン焼きに、ローストビーフのサラダもある。他に変わりどころと言ったら、卵かけご飯と、おかかご飯があるくらいだろうか。卵かけご飯って家でも食べられるのに、こういうところだと美味しそうに見えるから困る。卵は卵で、飼料にこだわっている有名農家さんもいるんだけど。名前付きでお店に卸しているからよく覚えている。

「メニューが……目移りしますね。」

 テーブルも木をそのまま切って、黒いニスで加工したような大ぶりの台に、同じ素材の背もたれのある椅子がついている。ここはテラスとそこから眺められる庭もあって庭にも見かけたような花がガラスのグラスに活けられていた。店の中も断熱加工はしているんだろうけど現代的な木の素材そのままを見せるような外見になっていた。モダンなつくりを意識した自然派っぽいと言えば伝わるだろうか。

「最初はそうだよね。食後は栗ぜんざいと抹茶にするとして。ミズキは何食べる?」
「正さんお先にどうぞ。」

 ミズキは目移りしたままだった。

「俺は……そうだね。お酒飲んでいい?
 それでグリルポークのマスタードソースプレート。」
「早すぎです正さん。」

 俺が酒とそのつまみに合いそうな料理を速攻で決めたためミズキが圧倒されている。

「ミズキも、クリスマスっぽい料理、頼みなよ。」
「ええと、そうですね。わ、私もお酒を。それで、プレートって種類ありますが。
 どういうのがお酒と合います?」
「グリルだったらほとんどそうかな。あとはローストビーフサラダもかな。」
「……。」

 ミズキが、ぐぬぬぬ……と料理を眺めている。こんなミズキを見るのは珍しかった。ミズキって普段表情を表に出さないだけで、ミーハーだし、こういう表情もするんだよな。

「で、では。燻製盛り合わせグリルで!」
「お、いいの選んだね。」

 ここの燻製は、どこで買っているのかは分からないが結構おいしい。ハムと、ソーセージと、粗挽きが肉の角切りが入っていてジューシーなハムもあって焼き立てで来るとうまい。と、ミズキに説明したら目をキラキラさせていた。

「この後は栗ぜんざいに抹茶……心が弾みます。」
「うんうん。」

 もちろん、サラダも刻み玉ねぎが入った和風醤油ソースで野菜も美味しい。サラダのうまさってドレッシングで決まるから、生の野菜が苦手でもまずは好きなドレッシングが見つかれば違うんじゃないかなと思う。

「お待たせしました。」
「わー。来たね、ミズキ。」
「これは……。」

 プレートを頼んだのだがミズキが自分のところに来たメニューで目をキラキラさせている。

「とても綺麗な盛りですが、食べていいんですか?」
「うん。俺も食べよう。」
「あっあっ。」

 俺が来たと同時に箸に手を付けたため、もったいなさそうに眺めていたミズキが慌てている。

「ん。さすが火加減がいい。」

 筋までしっかり火が通っていてやわらかく香ばしく焼けていて、マスタードにも合う。

「私も食べ……美味しい。」

 ミズキはいきなり粗挽きハムを野菜と食べたみたいだが美味しいものを食べられたらしく、うっとりしていた。

「付け合わせのポテトサラダも、半熟卵も美味しいです。」
「うんうん。美味しいよね。」

 俺は日本酒をちびちび舐めながらミズキと話していた。

「日本酒も……キレのある味ですね。」
「ここの日本酒も美味しいんだ。料理と合うように作っているんだって。」

 店の前には扱っている日本酒のパンフレットが置かれていたのを見せる。

「ほう……。ソーセージも皮がパリッとしていますね。」
「美味しいソーセージって皮まで美味しいよねー。」

 こんな感じでミズキと料理を食べた後。

「ぜんざい……小豆がふっくらで美味しい。」
「小豆って柔らかく煮るの難しいらしいからね。」

 砂糖を入れるタイミングと量を誤ると、ゴリゴリの小豆になるからか、ここは今に合わせて薄甘の味付けにしてあるみたいだし、大丈夫なようだ。ここまで美味しい料理を出してくれるのだから心配ご無用だが。

「ほらミズキ。栗も入ってる。」
「美味しい……美味しいです。何から何まで美味しい。」

 こんな調子で喜んでいるミズキを見られたし。今年もミズキにクリスマスを見せてあげられてよかったと思った。

 その頃、稲里駅前では―

「クリスマスもここに来られたんですか。」
「はい。結局、ここに入り浸っちゃいそうな感じですね。」
「雷蔵お爺さんに見つからなければいいだけですから。
 戸籍の問題はまだ決められていないんでしょう?」
「ええと。ビスケットの美味しい店ってあります?」
「ビスケット。任せてください。」
「そちらの問題はどうなったんです。」
「どうって。まあ……もう少し、と言ったところですね。」

 観光客として来ていた青年と桜の妖精、それとガイド役の青年が来ていたのは、俺はまだ、知らなかった。妖精でも条件が揃えば恋人同士になれるのも―
 会うのはまだ、もう少し過ぎてからのことだった―
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