君と桜が咲く頃に

白石華

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君と桜が咲く頃に

出会った頃も桜の咲く季節だった

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桜の咲き乱れる季節。それはまだ、俺が大学に入ったばかりで、どっかの面白そうなサークルに入ろうと思っていたときのこと―

「ちわーっす。」
「あ、来た来たー。見ない顔だけど新人入部君?」
「あ、ハイ。まだ見学ですけど。」
「丁度いいやー。私この詩を読むから、君はここ、読んで。追っかけて読んでくれればいいから。」
「え、ええ?」
「間は私が作るから、合わせてくれればいいよ。
 読んでけば掴めるからよさげなところで読んでいこう。
 何回もやってればなれるから。」
「ひいっ。い、いきなりですか?」
「読むだけだもん。だいじょうぶー。」

 部室棟にある部屋の一つ、朗読研究会へ見学に足を踏み入れた直後に読まされることになり、部長兼部員がその女性―リンリンだった。一人しか部員がいなかったため、常にその女性とサークルでは二人きり。しかも朗読なんてやったことなかったから、しめしめと思うどころか知らない女性と二人きりとかプレッシャーで圧される気分だったが、練習と称して朗読させて貰っていたり詩を見せて貰ったり、顧問の先生が男性だったりしたため何とかなった。

 ・・・・・・。

「はー。リンリンと出会ったときのことを思い浮かべると。
 毎回初対面から無茶振りされてヒイイッってビビったことを思い出すな。」
「あーそれ何度も聞いた。丁重に扱ったじゃーん。」
「その後、案の定、付き合ったんじゃーん。」
「そうそう。だからもういいじゃん。」
「うん。あれからよく慣れたなと思って。サークルに通うだけで彼女が作れるとか。
 都市伝説だと思ってたのが本当になるとかな。」
「そうね。今ベタベタだもの。」
「なあ。」

 あれから。読書癖の付いた俺はときどき、話題になった文庫本を読んではリンリンに後ろから抱き着かれたり、リンリンも読むために背もたれにされたりして邪魔され、今もソファで読んでいたらそうされていたりしていた。だから回想したのだが。
 あの頃のリンリンは、声がよく通って、背筋が伸びて、正面からはあまり顔が見られなかったから横に並んで本を読んで、後ろ毛が長いショートカットの背中や長くて白い首筋や本を読んでいく横顔を眺めていた気がする。詩や童話、口に出して読む本をたくさん紹介してくれた。文章はじっくり呼んで味わうものだと思っていたしそういうものもあるが、先に読んだ人とテンポを遅らせて後から読んだりリズムと読ませ方でも印象が変わると思ったものだった。

「リンリンは、会ったときからリンリンだったな。」
「会ったときからって、何が?」
「いや、全く変わらないなと。」
「うん。今だから言えるけど。
 ランランは割と平気そうだったから声かけただけよ。」
「何もしなさそうってこと?」
「えーっと、近いけど、話しやすそうって。」
「ふーん?」
「あと変なことはしなさそうって言うのはあった。」
「やっぱり何もしないのか。」
「何もしないって褒め言葉だよー。
 言うこと聞いてくれるし部活やってくれたし。」
「大体なんで、部員がリンリン一人しかいないんだよ。」
「他に来てくれる人がいなかったんだから仕方ないじゃん。」
「マイナーそうだもんな。朗読って。」
「顧問の先生の読み方もめっちゃうまいのに。
 教えるのもうまいのに不本意にも人来ない。」
「やってみようと思う人はあんまいなかったんだろうね。」
「私が卒業した後、ランラン一人だったんでしょー。
 来てあげてたよ。」
「ホントにな……。俺の卒業と同時に廃部とかな。」

 俺とリンリンの馴れ初めを回想していたのに人が来ないマイナーサークルの悲哀話になってしまっていた。
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