最後にいなくなった、君は

松山秋ノブ

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第1章「失敗」③

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    翌日も特に仕事がなく、僕は気ままに午前中を過ごした。たまに入る連絡もイベントキャンセルの連絡か、若しくは逆にキャンセルになったアイドルやアーティストの事務所からイベントに呼んでくれないか、という営業のものばかりだ。正直、この状況では開催するだけ損しかないので、ある程度は鎮静化するまで待つしかない。幸い数ヶ月くらいなら待つことは可能だ。唯一抱えているタレントも普通に仕事をしていて、副業としての契約だからそんなに切羽詰まった状況でもない。午後になっても同じような感じで、今日も夜ご飯に何を食べようかと考えているときに、その連絡はきた。スマートフォンの画面に映し出されたのは見慣れない名前。登録した名前が出てくるのだから間違い電話ではなさそうだ。こんな名前の知り合いがいただろうか、それともどこかで仕事をした人だろうか、とりあえず出てみると、電話口からは同世代の男の声がした。
「すみません、望月唯人さんの電話でよろしいですか」
と本名で尋ねてくるということは仕事関係ではなさそうだ。よく分からないまま僕は、そうですよ、と答えると、相手は急に親しげな口調で
「よかった、まだ番号変わってなくて。
    オレのこと覚えてる?」
と訊いてきた。僕はちょっと言葉に詰まってしまうと、
「なんだよ、オレだよ、高校の同級生の近野だよ、
    近野誠一」
と少し不機嫌そうに答えた。名前だけでは思い出せなかったけれど、そこまで言われてようやく思い出した。高2からの2年間、同じクラスにいた近野という男だった。あー、近野かとおどけてみせると、久しぶりの挨拶もそこそこに本題を切り出してきた。
「今度、高2のクラスで同窓会やるんだけど、
    望月も来るだろ?」
まるでドーナツ屋でドーナツを注文するかのように当たり前だろ、という口調だった。僕は慌てて、日時も場所も分からないのに決められない、と返答した。近野はまた少し不機嫌そうな口調で、
「そうだよな、わかった、詳細を送るよ。
    節目の年だから二つ返事でOKすると
    思ったんだけどな」
と言った。僕には何が節目なのかも分からないし、こちらは至極真っ当な返答をしているのに、不機嫌にされる筋合いはない。問い詰めてやろうかという気持ちになったが、一瞬で消えてしまう。長く話すのが面倒で、やりすごした方が得策だ。それから、相手に電話番号からLINEを検索してもらい、詳細を送ってくれることで話がまとまった。話がまとまると、仕事を理由に僕は電話を終えた。
 近野からの連絡はそれからすぐにきた。近野誠一とそのままの名前で送られてきたので間違えようがなかった。アイコンには2人の小さな子供が写っている。近野の子供だろうか。おそらく近野と似ているのだろうけれど、僕自身が近野の顔をうろ覚えしているので、それが正しいのかどうかという判断はできなかった。

  >近野誠一
   望月唯人さんのアカウントで大丈夫ですか?

そっか、と自分のアカウントを思い出して納得する。

  >望月フミノ
   合ってるよ
  >近野誠一
   良かった、電話番号で検索したから
             大丈夫と思ったけど
   名前が違ったからさ
  >望月フミノ
   悪い。仕事上の名前なんだ。

説明しないと不自然だったけれど、送った後で後悔をした。

  >近野誠一
   仕事上?
   今、なんの仕事してんの?

不安は的中した。説明するのが面倒だけど、ここで変にはぐらかしても余計に面倒だし、何より名前で検索すればきっとすぐに分かる。

  >望月フミノ
   イベンターの真似事みたいなこと
  >近野誠一
   イベントって、何の?

こうなると長い。僕は端的に説明すると、また仕事だからと説明を終わらせ、とにかくスケジュールを確認するから、早く詳細を送るように言った。近野はまとめてから今日中に送る、と言った。

 次に近野から連絡が来たのは夜だった。

  >近野誠一
   真似事っていうけど、
            ちゃんとした会社の社長じゃん!

面倒だな、と思いながら、夜で他にやることもないし、暇つぶしにはちょうどいいと思って今度は付き合うことにした。

  >望月フミノ
   ちゃんとはしてないよ
  >近野誠一
   演劇の公演もやってるじゃん、
             脚本まで書いて
   高校時代演劇部だったもんな
  >望月フミノ
   よく覚えてるな
  >近野誠一
   なんか賞もらってたじゃん、
             なんちゃら脚本賞って表彰されて
   それでなんとなく覚えてたんだよ
  >望月フミノ
   そんなこともあったな
  >近野誠一
   それにちゃんとタレントまでいるじゃん
  >望月フミノ
   まぁいるけど
  >近野誠一
   なんかテレビかCMかやってんの?
  >望月フミノ
   いや、弱小事務所だし、
            インデーズアイドルだからな

それから近野はインデーズアイドルという響きに興味を持って、僕に矢継ぎ早に質問を送ってきた。僕もそれに応えるように返答すると、説明が終わるころには、近野が僕に対して「色々と大変なんだな」と同情するまでになっていた。

  >近野誠一
   もう遅いから今日は寝るわ
   遅くまでありがとうな、
             同窓会の詳細はこれだから

というメッセージの後に同窓会の詳しい内容が送られてきた。

  >近野誠一
   有明みなと高校 2年9組同窓会のお知らせ
   日時:3月20日(金) 18時~
   場所:Dining Bar「ARIAKE」(地図)

地図をクリックすると地元にある店だった。名前から何となく察しはついていたけれど、おい、僕は東京で仕事をしてるんだぞ、と当たり前のように出席を求めてきた近野にツッコミを入れる。

  >近野誠一
   会費:4000円(コース・飲み放題)
   2年9組を過ごした17歳から早20年
   みんなで久しぶりに盛り上がりましょう!

そうか、これを近野は節目と言っていたのか、と納得した。けれど、卒業して20年ならまだしも、2年生から20年なんて分かりっこない。僕は前向きに検討するという文言とともに、「この節目は思い出せない」という旨の嫌味を加えて返答した。

  >近野誠一
   節目なのはそれだけじゃねーよ
   今年で恵美ちゃんが亡くなって20年だろ

僕は近野の返信を見て、一初めて見るような名前と「亡くなった」という文言で一瞬にして頭が混乱し始めた。恵美という人物は誰なのか、この流れだとクラスメイトであるように思えるけれど、それは誰だったのか。そしてその人が亡くなっていて、そこから20 年ということは、当時のクラスメイトが在学中に亡くなったということである。果たして、そんなことがあっただろうか。僕は失礼を承知で、言葉に気を付けながら近野に問うた。

  >望月フミノ
   ごめん・・・恵美さんというのは
             クラスメイトのことだよな?

すると、近野からすぐに返信が来た。けれど、その答えは僕を尚更迷宮へと引きずり込んできたのだった。

  >近野誠一
   当たり前だろ? 
            冗談でもそんなことを言うもんじゃないぞ
   ましてやお前ら、付き合ってたんだし

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