最後にいなくなった、君は

松山秋ノブ

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第2章「錯乱」②

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 少し微睡んでいたのだろうか、気が付くと手元のスマホが鳴っている。LINE通話の呼び出し音、画面を見ると近野だった。時間は同窓会の時刻になっている。慌てて僕は通話に出た。電話の向こうで、おう、望月か、と声がした。僕は向こうが言い終わると同時に
「すまない、今から向かうから少し遅刻する」
と答えた。近野は、遅刻?、と不思議そうな声を出す。いや、もう開始時刻だろ、と答えると、近野は、何の開始時刻だよ、と怪訝そうに言った。会話がかみ合わない。
「いや、同窓会だよ、18時からだろ」
近野は、まさか、という声を漏らして大声で笑った。
「いやいや、同窓会は明日だよ。20日って言ったろ?」
ハッとしてホテルの部屋を見回す。ベッドに付いている時計は19日を表している。
「え、いや、だって今日は金曜だろ」
「おいおい、今日は木曜だぞ」
え、だって明日は休日…と言いかけて、そうか、と僕は顔を歪めた。しまった、と思った。同窓会が金曜とは覚えていた。けれど、その金曜が三連休の初日だということは忘れていた。もう一度ちゃんと日付を見れば防げたミスだった。
「もしかして、もうこっちに来てるのか」
まだ笑い調子の残る近野に僕は自分に呆れるように言った。
「そのまさかだ。まぁ幸い明後日まで
     ホテルは取ってあるけれど」
「そうか、それは良かった…と言いたいけど、
    まだ悪い話がある」
僕が日程を間違える以上に何の悪い話があるのか、と思ったら
「明日の店から臨時休業の知らせがきた。
    同窓会は中止だ」
その可能性は考えていなかった。いや、世の中のことを思えば、考えなければならなかったのに見逃していた、という方が正しい。ライブイベントまで中止に追い込まれているというのに、全ての飲食店が普段通りに営業できるわけがない。忘れっぽいうえに見逃し癖まであるのか、と自分自身が情けなくなる。同窓会が無いとなると、僕が故郷に戻った意味さえなくなってしまう。無駄足という言葉がこんなに当てはまるシチュエーションは他にない。
「でもそうか、こっちに来てるんだよな…」
近野は少し考え込んでいるようだった。近野にとっては今日すでに僕がここにいることが想定外だったようである。
「分かった、明日メンバー集めて飯に行こう」
近野は何人か直接連絡をとって、近くに住んでいるメンバーを集めてくれるという。同窓会がなくなってどうしようかと思っていた僕にとっては渡りに船であった。申し訳ない気持ちもあったけれど、ここは近野の言葉に甘えよう。僕は駅近くのホテルに宿泊していることと、詩仕事は直近に詰まってはいないから、明日が無理ならもう少しだけ先でもいい、と言った。多分ホテルも容易に延長できるだろう。次の芽以のライブは22日の夜に予定されている。その日の午前中にこっちを出れば間に合うし、これも岡村主催のライブだから何とでもなる、と見越してのことだった。近野は、店と時間が決まったら連絡する、と言って通話は終わった。色々な誤算はあったけれど、何とか明日旧友と会うことができそうである。
 明日、僕はクラスメイトに訊かなくちゃいけない。恵美さんがどんな人だったのか。クラスの中ではどんな風に過ごしていたのか、みんなは恵美さんをどう思っていたのか、どう覚えているのか。それが分かれば、僕がどうして恵美さんのことを忘れているかが分かる気がした。出来ることなら、恵美さんはクラスとの繋がりが薄く、僕はおろかみんな忘れてしまってもおかしくないような人であってほしかった。故人に対してとても薄情ではあるが、それであれば、自分が薄情な人間ではないことが証明できる。矛盾しているかもしれないが。
 けれど、だとしたらやはりどうして真奈は僕に同窓会に行かないように言ったのだろうか。これまで何回か同窓会のお知らせは来た。まぁ僕はそのどれも断ってはいたけれど、今回に限って真奈が言いに来たのはなぜだろうか。理由が見つからなかった。見つからないものはとても不安で、色々なものにもっともな答えをつけたくなる。答えを探すのではなくて、探した結果、そうであってほしいと思うものが答えなのだ。真奈の言葉は恵美さんになにか関係があるのだろうか。あるような気がしてならなかった。けれど、そうであってほしくない、という思いが強かった。どうしてそうであってほしくないんだろうか、これも何度巡らせても分からなかった。真奈はかつての恋人で、恵美さんはそうではない。近野が一度勘違いをしたせいでろうか。もしかすると恵美さんのことを深く考えることに真奈に対して後ろめたさを感じているのかもしれなかった。いくら勘違いがあったとはいえ、どうしてそんな後ろめたさを感じているか分からなかった。
 分からないことだらけで、ベッドに仰向けになってみても分からない。もっともな答えさえ見つからない。「そうでなければいい」という希望だけが目の前で手招きをしている。
 
僕はそんな想像をかき消すかのようにまた眠りに落ちた。

 目が覚めたのは夜中だった。窓の外を眺める。窓から繁華街が見える。地方の中では有数の繁華街で夜に開いているお店も多く、眠らない街で知られるその街もひっそり閑としているのが窓越しでも分かる。眠っているようだった。いや、というよりも、眠るふりをしてじっとその時を待っているようであった。何とも言えない奇妙な気配に圧されて、僕は少し伸びをして冷蔵庫にあるビールに手を伸ばす。ホテルの備え付けは割高だけど、そんなことどうでもよくて、とにかくこの気持ちを落ち着けるにはビールが一番だった。喉を通るときにキュッと音が鳴る。その音の分だけ心臓が落ち着いていく。スマホに手を伸ばすと、近野から連絡が来ていた。見ると、明日の店と時間が書いてある。高2のクラスメイトが5、6人集まってくれるらしい。良かった、これくらいいれば、きっと恵美さんのことが少しくらいは分かるだろう。近野に感謝をしながら、僕は2本目のビールに手を伸ばす。こんな時に誰か話し相手はいないものかと思ったけれど、誰に連絡していいのか分からなかった。ふと芽以の顔が浮かんだ。芽以は明日のライブで何を歌うのだろうか。新曲の歌詞はどうするのだろうか。話したいことが浮かんできてスマホを手に取ってみたが、それで止めた。今は夜中である、送ったところで返信など来やしない。スマホを手に取ったまま、僕は少しふらつく足でまた窓の外を見た。改めて見た街は眠っているように見えた。

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