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第4章「好きじゃない」⑥
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「名前を見ただけでは判断できなかった。けど、もし緑川恵美という名前に引きずられて、あなたが所属しているのだとしたら・・・そう思うと私はいてもたってもいられなくった。そして私はあなたたちのライブを観に行った」
「そしてあなたの歌声を聴いて、佇まいを見て、それを見る望月君を見て確信した」
「望月君は意識の奥では恵美のことを忘れてなかったって」
「私の最初で最後のおまじないは失敗に終わったの」
私はところどころで相槌を打ちながらも、静かに淡々と話す彼女の話を聞いていた。ほとんどが私の知らない話だったけれど、眼前で望月さんが動いているような気がした。そして今日ゆっくりと話したばかりの彼女も私の脳内で動いているのだった。
「だからね、もし望月君が恵美のことを思い出しそうになったら、『気のせいですよ』って誤魔化してほしいの。もちろん、できる範囲で構わないから」
思い出しそうなんですか、と私は彼女に引きずられるように静かに訊いた。彼女は悲しそうに笑って言った。その表情は、思い出すと、あのライブの日に彼女が私に望月さんとのことを言い放った時と同じのような気がした。
「そうね。同窓会を企画した人に協力をお願いして先に手を打ったんだけど、ダメね。恵美のことを知っている人が来てしまったみたいだし」
「望月さんは『用事がある』って言ってまだ向こうに留まっているみたいです」
「そう。大方、思い出の場所なんかを巡っているんでしょうね。きっとたくさんのヒントを得て帰ってくるわ。彼、忘れっぽいくせに、変に勘が鋭いところがあったから」
だから、時間の問題なのよ、と彼女は改めて言った。時間稼ぎくらいにしかならないことくらい、わかっているつもりよ、と言うと、彼女は時計を見た。
「随分長い時間付き合わせてしまったわね、ごめんなさい。あなたはまだゆっくりしていていいわ。大丈夫、ここは私が持つと言ったはずよ」
と言うと、彼女は立ち上がって帰り支度を始めた。
「色々言っちゃったけど、あなたの歌声が素敵だと言ったことは本当よ。次のライブは配信なんでしょ。私、その電子チケット買ったから、楽しみにしているわよ」
そしてゆっくりと入り口にあるレジに向かって行った。
私はその背中を追いながら、なんだかこのまま彼女を帰らせてしまったら、とんでもない後悔をしてしまうのではないか、と考えていた。その考えのもとにある正体も、なんとなくではあるけれど形になろうとしている。もう少し、言葉にするにはもう少し足りない。
私は彼女が語った話を思い出す。それは彼女が語っただけで真実であるとは限らない。真実であるというのは彼女がそうであると言ったことだけが根拠だ。そして私は、あの日のことを思い出す。彼女の言葉が真実であるならば、私のライブを観に来たのは「望月さんが恵美さんのことを思い出していないか」を確かめるためだ。そして結果は「緑芽以を観て、心の奥で忘れていないと思った」だ。そして彼女は一方的に私に望月さんと離れるよう忠告して帰っていった。
どうしてその場で望月さんに訊かなかったのだろう。それで済んだ話だと思う。それをせずに彼女は帰って行った。結果として望月さんが追いかけて行って、そこで初めて彼女は望月さんがまだ思い出してはいないことを知っている。どうして? 同窓会を企画した友達から聞いたのだろうか。それならあり得るかもしれない。
ただ私はその時の悲しい顔が、そしてさっきの悲しい顔が頭に引っ掛かっている。
そうだ。私は、私ならどう思うだろうか。どう思えば私はそんな顔をするだろうか。
「待ってください!」
ほとんど反射的に私は彼女を呼び止めた。過去を話していた中に彼女の名前があった気がしたのだけれど、それがすぐには浮かんでこなくて、私はとにかく大きな声で呼び止めるしかなかった。
「本当に、本当にそれだけですか!」
「本当に望月さんの記憶が気になっていただけで私のライブを観に来たんですか!」
「本当は望月さんのことがまだ好きなんじゃないんですか!」
彼女は頷きも否定もしなかった、そして私の方を見ることもしなかった。
ただ黙って立ち止まった。
「そうじゃないと、あなたの表情の理由がつかないんです。望月さんのことを話す時にするその嬉しそうな顔、優しい顔、そして、悲しそうな顔の!」
「私、考えていたんです。私ならどうするだろう、って、私ならどう思うだろう、って」
「今から話すのは私が、私の考えで話すものです、推測です」
「あなたは高校時代も望月さんが好きじゃなかったと言いましたね」
「どのタイミングでかはわかりません。でも、少なくとも、あなたが望月さんと別れた時、その時には望月さんのことが好きだったんじゃないですか」
「あなたは望月さんが嫌いで別れたわけじゃなかった」
「あなたは『恵美さんに自分が乗っ取られるのが怖かった、利用されるのが嫌だった』と言いましたね、それは多分そうだと思います。でもそれだけじゃなかった」
「好きな人と想い出を積み重ねていくのはとても素敵なことです。嬉しいことです。でもそれが、その想い出が自分と相手のものでなかったとしたら、想い出が積み重なる度に、自分ではなく、恵美さんとの想い出が強固になっていくような気がしたら」
「私にはとてもじゃないけれど堪えられません」
「好きな人と一緒にいるのに、自分を見てくれていないような感覚なんて続けていけるものじゃない。あなたは、『自分を』奪われるんじゃなくて、『望月さんを』奪われることが嫌だったんですよね。だから別れた。今ならまだ自分たちの思い出のままで終われると思ったから。別れることで思い出を守ろうとしたんですよね」
まとまっていない気持ちだったのに、話せば話すほど言葉が生まれてくる。私に空いた小さな穴から湧き水のように流れ出た気持ちは、そこから決壊するダムのようになっていた。
「だとしたわかります。あなたがわざわざライブを観に来て確認したかったのは、好きな人と離れてまで守りたかった自分たちの思い出を失ってしまうのが嫌だったから」
「いや、そんなことじゃ済まない。もし思い出せば、自分との思い出は上塗りされたただの嘘になってしまう。それが怖かったんですよね」
彼女はなおも何も言わずに立っていた。答え合わせができないまま、私の言葉は続く。
「でも、それならどうしてあのライブの日に直接望月さんに確認しなかったんでしょう。本人に確認すればわざわざ私を観る必要もなかったし、今日観に来る必要もなかった。あなたが心の底から『記憶をなくしたままでいてほしい』と思っているのなら」
「それどころかあなたは引越しまでしている。そんなの普通じゃない」
「だから私は思ったんです。『本当は望月さんに全部思い出してほしいんじゃないか』って」
「そんな馬鹿な、と思うでしょう。もしかしたら自分でもまだ気付いていないのかもしれません。でも、このままでは何も始まらないですよね。だって忘れたまま、また関係を始めようとしても、きっとまた同じ苦しみが待っている。たとえ大人になっていたとしても、それを乗り越えられる確証はない」
「なら、いっそのこと、全部思い出して、一回全部無しにし、0にして、もしかしたらもっとマイナスからのスタートになるかもしれないけれど、そこからまた新しい関係を築いていきたいと思っているんじゃないですか」
「もう一度訊きます。あなたは望月さんのことが好きなんですよね、大好きなんですよね」
「だから、私はあなたの頼みを引き受けることができません、ごめんなさい」
そこまで言うと、私は深々と頭を下げた。間違ったことを言ったかもしれない。正しいとしても踏み込んではいけないところに土足で上がり込んだのかもしれない、そういう謝罪を込める意味もあった。店内を静寂が包んだ。私と彼女だけの世界だった。唯一他にいるとしたら、それはそこにはいない望月さんだった。
どれくらいの時間が経っただろうか、数時間にも数分にも数秒にも感じられる時間だった。どの時間を言われても私は納得をしていたと思う。
ようやく彼女が口を開いた。こちらを見ずに前を向いたまま。
「前言撤回するわ。あなたは恵美には似ていない。恵美よりも・・・ごめんなさい」
そしてこちらを向いて深くお辞儀をした。
「でもね・・・」
頭を上げた彼女は瞬時にまた身体を反対に向けた。一瞬見えた彼女の顔は笑っていて、そして泣いていた。
「好きじゃないわ、望月君のことは」
そしてまた入り口に向かって歩き出す。
その時、私は決意した。
「待ってください!」
掠れた声で、今度は何、と問われる。
「次のライブ、必ず観てください。絶対に観てください!」
彼女は、わかったわ、と言った。私は深く呼吸をした。少し安心した心持ちだった。
ふと、私の中で急に何かが動いた。
どうしてかはわからない。もう言いたいことは全て言ったはずなのに。
その上で思いついたことがあった。
それを思いついた時に、私は「そんなはずはない」ということと同時に、もしそうなら、と思うと全身の毛が逆立つような感情を覚えた。
口にせずにはいられなかった。
「すみません、もう1つだけ確認させてください!」
私の声に彼女がピクリとして止まる。言わないでおくこともできた。でももう止まらない。私の心が波を打って全ての仮定を歌詞という物語に落とし混んでいく。
「間違いだったらすみません。もしかして・・・」
その問いを聞くと、彼女は大きく目を見開いて、どうしてそれを知っているのか、と私の方を改めて振り向いた。
「そしてあなたの歌声を聴いて、佇まいを見て、それを見る望月君を見て確信した」
「望月君は意識の奥では恵美のことを忘れてなかったって」
「私の最初で最後のおまじないは失敗に終わったの」
私はところどころで相槌を打ちながらも、静かに淡々と話す彼女の話を聞いていた。ほとんどが私の知らない話だったけれど、眼前で望月さんが動いているような気がした。そして今日ゆっくりと話したばかりの彼女も私の脳内で動いているのだった。
「だからね、もし望月君が恵美のことを思い出しそうになったら、『気のせいですよ』って誤魔化してほしいの。もちろん、できる範囲で構わないから」
思い出しそうなんですか、と私は彼女に引きずられるように静かに訊いた。彼女は悲しそうに笑って言った。その表情は、思い出すと、あのライブの日に彼女が私に望月さんとのことを言い放った時と同じのような気がした。
「そうね。同窓会を企画した人に協力をお願いして先に手を打ったんだけど、ダメね。恵美のことを知っている人が来てしまったみたいだし」
「望月さんは『用事がある』って言ってまだ向こうに留まっているみたいです」
「そう。大方、思い出の場所なんかを巡っているんでしょうね。きっとたくさんのヒントを得て帰ってくるわ。彼、忘れっぽいくせに、変に勘が鋭いところがあったから」
だから、時間の問題なのよ、と彼女は改めて言った。時間稼ぎくらいにしかならないことくらい、わかっているつもりよ、と言うと、彼女は時計を見た。
「随分長い時間付き合わせてしまったわね、ごめんなさい。あなたはまだゆっくりしていていいわ。大丈夫、ここは私が持つと言ったはずよ」
と言うと、彼女は立ち上がって帰り支度を始めた。
「色々言っちゃったけど、あなたの歌声が素敵だと言ったことは本当よ。次のライブは配信なんでしょ。私、その電子チケット買ったから、楽しみにしているわよ」
そしてゆっくりと入り口にあるレジに向かって行った。
私はその背中を追いながら、なんだかこのまま彼女を帰らせてしまったら、とんでもない後悔をしてしまうのではないか、と考えていた。その考えのもとにある正体も、なんとなくではあるけれど形になろうとしている。もう少し、言葉にするにはもう少し足りない。
私は彼女が語った話を思い出す。それは彼女が語っただけで真実であるとは限らない。真実であるというのは彼女がそうであると言ったことだけが根拠だ。そして私は、あの日のことを思い出す。彼女の言葉が真実であるならば、私のライブを観に来たのは「望月さんが恵美さんのことを思い出していないか」を確かめるためだ。そして結果は「緑芽以を観て、心の奥で忘れていないと思った」だ。そして彼女は一方的に私に望月さんと離れるよう忠告して帰っていった。
どうしてその場で望月さんに訊かなかったのだろう。それで済んだ話だと思う。それをせずに彼女は帰って行った。結果として望月さんが追いかけて行って、そこで初めて彼女は望月さんがまだ思い出してはいないことを知っている。どうして? 同窓会を企画した友達から聞いたのだろうか。それならあり得るかもしれない。
ただ私はその時の悲しい顔が、そしてさっきの悲しい顔が頭に引っ掛かっている。
そうだ。私は、私ならどう思うだろうか。どう思えば私はそんな顔をするだろうか。
「待ってください!」
ほとんど反射的に私は彼女を呼び止めた。過去を話していた中に彼女の名前があった気がしたのだけれど、それがすぐには浮かんでこなくて、私はとにかく大きな声で呼び止めるしかなかった。
「本当に、本当にそれだけですか!」
「本当に望月さんの記憶が気になっていただけで私のライブを観に来たんですか!」
「本当は望月さんのことがまだ好きなんじゃないんですか!」
彼女は頷きも否定もしなかった、そして私の方を見ることもしなかった。
ただ黙って立ち止まった。
「そうじゃないと、あなたの表情の理由がつかないんです。望月さんのことを話す時にするその嬉しそうな顔、優しい顔、そして、悲しそうな顔の!」
「私、考えていたんです。私ならどうするだろう、って、私ならどう思うだろう、って」
「今から話すのは私が、私の考えで話すものです、推測です」
「あなたは高校時代も望月さんが好きじゃなかったと言いましたね」
「どのタイミングでかはわかりません。でも、少なくとも、あなたが望月さんと別れた時、その時には望月さんのことが好きだったんじゃないですか」
「あなたは望月さんが嫌いで別れたわけじゃなかった」
「あなたは『恵美さんに自分が乗っ取られるのが怖かった、利用されるのが嫌だった』と言いましたね、それは多分そうだと思います。でもそれだけじゃなかった」
「好きな人と想い出を積み重ねていくのはとても素敵なことです。嬉しいことです。でもそれが、その想い出が自分と相手のものでなかったとしたら、想い出が積み重なる度に、自分ではなく、恵美さんとの想い出が強固になっていくような気がしたら」
「私にはとてもじゃないけれど堪えられません」
「好きな人と一緒にいるのに、自分を見てくれていないような感覚なんて続けていけるものじゃない。あなたは、『自分を』奪われるんじゃなくて、『望月さんを』奪われることが嫌だったんですよね。だから別れた。今ならまだ自分たちの思い出のままで終われると思ったから。別れることで思い出を守ろうとしたんですよね」
まとまっていない気持ちだったのに、話せば話すほど言葉が生まれてくる。私に空いた小さな穴から湧き水のように流れ出た気持ちは、そこから決壊するダムのようになっていた。
「だとしたわかります。あなたがわざわざライブを観に来て確認したかったのは、好きな人と離れてまで守りたかった自分たちの思い出を失ってしまうのが嫌だったから」
「いや、そんなことじゃ済まない。もし思い出せば、自分との思い出は上塗りされたただの嘘になってしまう。それが怖かったんですよね」
彼女はなおも何も言わずに立っていた。答え合わせができないまま、私の言葉は続く。
「でも、それならどうしてあのライブの日に直接望月さんに確認しなかったんでしょう。本人に確認すればわざわざ私を観る必要もなかったし、今日観に来る必要もなかった。あなたが心の底から『記憶をなくしたままでいてほしい』と思っているのなら」
「それどころかあなたは引越しまでしている。そんなの普通じゃない」
「だから私は思ったんです。『本当は望月さんに全部思い出してほしいんじゃないか』って」
「そんな馬鹿な、と思うでしょう。もしかしたら自分でもまだ気付いていないのかもしれません。でも、このままでは何も始まらないですよね。だって忘れたまま、また関係を始めようとしても、きっとまた同じ苦しみが待っている。たとえ大人になっていたとしても、それを乗り越えられる確証はない」
「なら、いっそのこと、全部思い出して、一回全部無しにし、0にして、もしかしたらもっとマイナスからのスタートになるかもしれないけれど、そこからまた新しい関係を築いていきたいと思っているんじゃないですか」
「もう一度訊きます。あなたは望月さんのことが好きなんですよね、大好きなんですよね」
「だから、私はあなたの頼みを引き受けることができません、ごめんなさい」
そこまで言うと、私は深々と頭を下げた。間違ったことを言ったかもしれない。正しいとしても踏み込んではいけないところに土足で上がり込んだのかもしれない、そういう謝罪を込める意味もあった。店内を静寂が包んだ。私と彼女だけの世界だった。唯一他にいるとしたら、それはそこにはいない望月さんだった。
どれくらいの時間が経っただろうか、数時間にも数分にも数秒にも感じられる時間だった。どの時間を言われても私は納得をしていたと思う。
ようやく彼女が口を開いた。こちらを見ずに前を向いたまま。
「前言撤回するわ。あなたは恵美には似ていない。恵美よりも・・・ごめんなさい」
そしてこちらを向いて深くお辞儀をした。
「でもね・・・」
頭を上げた彼女は瞬時にまた身体を反対に向けた。一瞬見えた彼女の顔は笑っていて、そして泣いていた。
「好きじゃないわ、望月君のことは」
そしてまた入り口に向かって歩き出す。
その時、私は決意した。
「待ってください!」
掠れた声で、今度は何、と問われる。
「次のライブ、必ず観てください。絶対に観てください!」
彼女は、わかったわ、と言った。私は深く呼吸をした。少し安心した心持ちだった。
ふと、私の中で急に何かが動いた。
どうしてかはわからない。もう言いたいことは全て言ったはずなのに。
その上で思いついたことがあった。
それを思いついた時に、私は「そんなはずはない」ということと同時に、もしそうなら、と思うと全身の毛が逆立つような感情を覚えた。
口にせずにはいられなかった。
「すみません、もう1つだけ確認させてください!」
私の声に彼女がピクリとして止まる。言わないでおくこともできた。でももう止まらない。私の心が波を打って全ての仮定を歌詞という物語に落とし混んでいく。
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