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episode.18(2007/4/16)
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2007年4月16日
大学に来るのは2週間ぶりであった。それはあの履修登録以来だったということである。別に避けている訳ではないのだけれど、大学に行ったって授業は無い。去年まではサークルの部屋なり何なりに行けば友人がいて、そこから何となく時間を潰していたのに、友人は皆、採用試験の勉強をしている。呑気にしているのは僕だけなのだ。いや、僕もただ呑気にしているだけではなかった。頭の中は常に朝美でいっぱいだった。アルバイトがない時は、この日の授業の準備のために市立の大きな図書館に通った。朝美のことを聞いてから、大学の図書館で記憶に関する本を探したのだけれど、めぼしいものが見当たらなかった。それで僕はこっちに戻ってきてからは大学の図書館ではなくもっと大きな図書館にと自転車を30分走らせ、野毛にある図書館にほぼ毎日通っていたのだ。おかげで大まかな資料は揃った。これが直接朝美の記憶回復に使えるかは置いておいて、月曜に使う資料の作成には充分だった。
ゼミ棟に入るのはもっと久しぶりだった。かれこれ一ヶ月近く来ていないだろうか。大牟田に戻る前に担当教授に報告と相談をしに行って以来だと思う。さして印象に残らない記憶に関しては一ヶ月前のことでも危うい。そういう意味では僕と朝美の差はそんなに大きなものではないと思った。ゼミ室には授業の30分前に着いた。そんなに早く着くつもりはなかったのだが、どこかで気持ちが急いていたか、肩に力が入っていたのだろう。けれど、それは僕だけでなく、周りのゼミ生も同じだった。もうとっくに着いているという表情で、皆がコーヒーを飲みながら談笑していた。もちろん傍には今日の資料を携えて。僕は1番最後だった。
「あら、早かったわね」
と理穂子が声をかけてきた。
「きっと佑矢は時間ギリギリだろう、って皆で言ってたのよ」
そう言うと、周りのゼミ生も笑ったり、口々に「珍しいな」と言い合ったりしている。別にそんな意図はないのだろうけれど、どこか見下されているような気がして僕は少し気分が悪くなる。
「ほら、ここしか空いてないわよ」
促されるように座ったと同時に小堺教授が入ってきた。揃っているようだね、とあたりを簡単に見回すと、
「少し早いけど始めようか、早く終わるに越したことはない」
とコーヒーメイカーに残っているコーヒーをカップに注ぎながら言った。僕としても理穂子たちと長い時間居ずに済むのがありがたく、そうしましょう、と同意する。
「珍しく早く来たからって調子に乗るなよ」
と斜め向かいに座る諏訪が嫌味ったらしく言った。僕はそれを無視する。コイツはいつもそうだ。僕に対しての当たりが強い。いや、はっきりと見下している。高校時代の偏差値が高かったか何か知らないが、僕に毎回対抗心を燃やしてきては重箱の隅を突くような嫌味を言ってくる。僕はそれを無視する。毎回そうだ。そして今回も無視した。本当は正面で勝負したら、頭脳だろうが腕っ節だろうが負ける気はしなかったのだが、こんなところで争ったとて仕方がない。
教授も特にそのやりとりを気にすることなく、コーヒーを一口運ぶと、早速卒業論文のテーマ案をお互い発表することになった。教授の発案で50音順にプレゼンをすることになり、僕は6人中5番目であった。1人目であった飯田がファイルからホッチキスで閉じられた資料を取り出し、教授を含め皆に配布する。そして、プレゼンを開始した。さっきまでコーヒーを囲んで和やかだった雰囲気が一変する。昨年卒業した先輩から聞いてはいたけれども、想像以上の緊張感だった。このプレゼンが通るかどうかで卒業をかけた論文のテーマが決まる。1年を通して苦しめられるこの論文を、せめて自分の思い通りのテーマにして精神的苦痛を和らげようと必死だった。このゼミは教育心理を専門とする小堺教授のゼミなので、自然とそのようなテーマになる。しかし、これが厄介で、教授の専門性に触れれば触れるほど、教授からツッコミが入るのだ。皆、それを恐れているのだろう。飯田はピアジェの遊びの分類をテーマに論文を書くとプレゼンした。自分の知り合いに、それぞれの分類期の兄弟姉妹がいる家族がおり、そうした各段階の子が混じったときの傾向を研究したい、という。教育心理の中でも発達心理学を専門とする小堺教授の専門分野ど真ん中だった。一通りプレゼンが終わると、ゼミ生からの質疑応答が入る。ここでは皆がツッコミどころを見つけたり、粗を探したりする目的もあるのだが、誰もそんなことをしようとしない。そりゃそうだ。最初に粗を見つけて、自分の時に仕返しをされたくない。誰もが当たり障りのない質問をし、思っても居ないだろうに、面白そう、という言葉を連呼する。僕はそこまでではなかったけれど、自分の研究にしか興味がなく、当たり障りのない質問に終始した。飯田はほっとしたような表情を見せたが、小堺教授から「知り合いだけではサンプルが足りずに研究とはいえない、サンプル材料を広げて再検討だな」と言われると、途端に青菜に塩になってしまった。教授が論文を担当する以上、教授のOKが出なければ論文を書くことはできない。また一同に緊張感が走った。
2番目の北川さんも飯田と同じく児童期の子供のことをテーマに掲げていたが、母親がNPO法人で保育園を経営しているようで、そこに協力を依頼しているということで、サンプル数としては申し分なかった。教授も2、3細かい注文をつけ、ほとんど手直しをせずにほぼOKとなった。これで少しだけ場の空気が和んだ。けれど、次の諏訪の番になり、また空気が一変する。諏訪は各成長期の発音・発声の違いを研究したいと言い出した。子供をサンプルにしているので、ギリギリ教育分野と言われたらそうだが、内容は明らかに音声学の分野だった。皆、それがわかっていたけれど、ゼミで1番嫌味ったらしい諏訪を後で敵に回したくなくて黙っていた。それでも皆が何かを言いたそうな顔をしていた。
「それでは別に僕のゼミである必要はないな」
ぽつりと教授がこぼした。それが全てだった。
「音声学の教授に話はしたのかい、日本語教育に河本さんがいただろう」
諏訪はまだしていない、と答えた。これから行くと言っていた。
「その返事次第だな」
それだけ言うと、諏訪の順番は終わった。誰も何も言わなかった。諏訪は不服そうだった。諏訪を非難するものがいない代わりに、擁護するものもいなかった。それが不満のようだった。その後の理穂子が見事だった。元々要領の良さは群を抜いていた。こういう時にはヘマをしない。僕も興味がないなりに勉強して、それなりの知識があるつもりだったけれど、聞き取れたのは最初の発達段階の部分だけで、後は研究者の名前も使用用語も分からなかった。ただ、教授がうんうんと頷いていたから、ほとんど合っているのだろう。実験方法も明快だった。サンプルには北川さんのところと、あとはボランティアでお世話になった小学校に既に依頼済みであることを言った。僕も同じ活動をしているので、小学校の目星は大体ついていたが、そう言えば理穂子は、小学校での打ち合わせや活動本番の日に、良く教員と話していた。こういうことを見越していたのだろうか、そう思うと恐ろしい。教授の注文も無く、あっという間に僕の順になった。僕はふっと息を吐いてカバンからファイルを取り出す。そして、資料を皆に配った。配る途中から絶句にも似た「えっ」という顔が漏れた。横に座る理穂子の目が丸くなっているのが気配だけで分かった。そして僕は改めて息を吐き、プレゼンを始める。
「私の研究テーマは『記憶喪失のメカニズムと記憶の回復』です」
大学に来るのは2週間ぶりであった。それはあの履修登録以来だったということである。別に避けている訳ではないのだけれど、大学に行ったって授業は無い。去年まではサークルの部屋なり何なりに行けば友人がいて、そこから何となく時間を潰していたのに、友人は皆、採用試験の勉強をしている。呑気にしているのは僕だけなのだ。いや、僕もただ呑気にしているだけではなかった。頭の中は常に朝美でいっぱいだった。アルバイトがない時は、この日の授業の準備のために市立の大きな図書館に通った。朝美のことを聞いてから、大学の図書館で記憶に関する本を探したのだけれど、めぼしいものが見当たらなかった。それで僕はこっちに戻ってきてからは大学の図書館ではなくもっと大きな図書館にと自転車を30分走らせ、野毛にある図書館にほぼ毎日通っていたのだ。おかげで大まかな資料は揃った。これが直接朝美の記憶回復に使えるかは置いておいて、月曜に使う資料の作成には充分だった。
ゼミ棟に入るのはもっと久しぶりだった。かれこれ一ヶ月近く来ていないだろうか。大牟田に戻る前に担当教授に報告と相談をしに行って以来だと思う。さして印象に残らない記憶に関しては一ヶ月前のことでも危うい。そういう意味では僕と朝美の差はそんなに大きなものではないと思った。ゼミ室には授業の30分前に着いた。そんなに早く着くつもりはなかったのだが、どこかで気持ちが急いていたか、肩に力が入っていたのだろう。けれど、それは僕だけでなく、周りのゼミ生も同じだった。もうとっくに着いているという表情で、皆がコーヒーを飲みながら談笑していた。もちろん傍には今日の資料を携えて。僕は1番最後だった。
「あら、早かったわね」
と理穂子が声をかけてきた。
「きっと佑矢は時間ギリギリだろう、って皆で言ってたのよ」
そう言うと、周りのゼミ生も笑ったり、口々に「珍しいな」と言い合ったりしている。別にそんな意図はないのだろうけれど、どこか見下されているような気がして僕は少し気分が悪くなる。
「ほら、ここしか空いてないわよ」
促されるように座ったと同時に小堺教授が入ってきた。揃っているようだね、とあたりを簡単に見回すと、
「少し早いけど始めようか、早く終わるに越したことはない」
とコーヒーメイカーに残っているコーヒーをカップに注ぎながら言った。僕としても理穂子たちと長い時間居ずに済むのがありがたく、そうしましょう、と同意する。
「珍しく早く来たからって調子に乗るなよ」
と斜め向かいに座る諏訪が嫌味ったらしく言った。僕はそれを無視する。コイツはいつもそうだ。僕に対しての当たりが強い。いや、はっきりと見下している。高校時代の偏差値が高かったか何か知らないが、僕に毎回対抗心を燃やしてきては重箱の隅を突くような嫌味を言ってくる。僕はそれを無視する。毎回そうだ。そして今回も無視した。本当は正面で勝負したら、頭脳だろうが腕っ節だろうが負ける気はしなかったのだが、こんなところで争ったとて仕方がない。
教授も特にそのやりとりを気にすることなく、コーヒーを一口運ぶと、早速卒業論文のテーマ案をお互い発表することになった。教授の発案で50音順にプレゼンをすることになり、僕は6人中5番目であった。1人目であった飯田がファイルからホッチキスで閉じられた資料を取り出し、教授を含め皆に配布する。そして、プレゼンを開始した。さっきまでコーヒーを囲んで和やかだった雰囲気が一変する。昨年卒業した先輩から聞いてはいたけれども、想像以上の緊張感だった。このプレゼンが通るかどうかで卒業をかけた論文のテーマが決まる。1年を通して苦しめられるこの論文を、せめて自分の思い通りのテーマにして精神的苦痛を和らげようと必死だった。このゼミは教育心理を専門とする小堺教授のゼミなので、自然とそのようなテーマになる。しかし、これが厄介で、教授の専門性に触れれば触れるほど、教授からツッコミが入るのだ。皆、それを恐れているのだろう。飯田はピアジェの遊びの分類をテーマに論文を書くとプレゼンした。自分の知り合いに、それぞれの分類期の兄弟姉妹がいる家族がおり、そうした各段階の子が混じったときの傾向を研究したい、という。教育心理の中でも発達心理学を専門とする小堺教授の専門分野ど真ん中だった。一通りプレゼンが終わると、ゼミ生からの質疑応答が入る。ここでは皆がツッコミどころを見つけたり、粗を探したりする目的もあるのだが、誰もそんなことをしようとしない。そりゃそうだ。最初に粗を見つけて、自分の時に仕返しをされたくない。誰もが当たり障りのない質問をし、思っても居ないだろうに、面白そう、という言葉を連呼する。僕はそこまでではなかったけれど、自分の研究にしか興味がなく、当たり障りのない質問に終始した。飯田はほっとしたような表情を見せたが、小堺教授から「知り合いだけではサンプルが足りずに研究とはいえない、サンプル材料を広げて再検討だな」と言われると、途端に青菜に塩になってしまった。教授が論文を担当する以上、教授のOKが出なければ論文を書くことはできない。また一同に緊張感が走った。
2番目の北川さんも飯田と同じく児童期の子供のことをテーマに掲げていたが、母親がNPO法人で保育園を経営しているようで、そこに協力を依頼しているということで、サンプル数としては申し分なかった。教授も2、3細かい注文をつけ、ほとんど手直しをせずにほぼOKとなった。これで少しだけ場の空気が和んだ。けれど、次の諏訪の番になり、また空気が一変する。諏訪は各成長期の発音・発声の違いを研究したいと言い出した。子供をサンプルにしているので、ギリギリ教育分野と言われたらそうだが、内容は明らかに音声学の分野だった。皆、それがわかっていたけれど、ゼミで1番嫌味ったらしい諏訪を後で敵に回したくなくて黙っていた。それでも皆が何かを言いたそうな顔をしていた。
「それでは別に僕のゼミである必要はないな」
ぽつりと教授がこぼした。それが全てだった。
「音声学の教授に話はしたのかい、日本語教育に河本さんがいただろう」
諏訪はまだしていない、と答えた。これから行くと言っていた。
「その返事次第だな」
それだけ言うと、諏訪の順番は終わった。誰も何も言わなかった。諏訪は不服そうだった。諏訪を非難するものがいない代わりに、擁護するものもいなかった。それが不満のようだった。その後の理穂子が見事だった。元々要領の良さは群を抜いていた。こういう時にはヘマをしない。僕も興味がないなりに勉強して、それなりの知識があるつもりだったけれど、聞き取れたのは最初の発達段階の部分だけで、後は研究者の名前も使用用語も分からなかった。ただ、教授がうんうんと頷いていたから、ほとんど合っているのだろう。実験方法も明快だった。サンプルには北川さんのところと、あとはボランティアでお世話になった小学校に既に依頼済みであることを言った。僕も同じ活動をしているので、小学校の目星は大体ついていたが、そう言えば理穂子は、小学校での打ち合わせや活動本番の日に、良く教員と話していた。こういうことを見越していたのだろうか、そう思うと恐ろしい。教授の注文も無く、あっという間に僕の順になった。僕はふっと息を吐いてカバンからファイルを取り出す。そして、資料を皆に配った。配る途中から絶句にも似た「えっ」という顔が漏れた。横に座る理穂子の目が丸くなっているのが気配だけで分かった。そして僕は改めて息を吐き、プレゼンを始める。
「私の研究テーマは『記憶喪失のメカニズムと記憶の回復』です」
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