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「話を戻しましょうか。」
伊藤も平静さを取り戻したようであった。衝動的に川に飛び込もうとして、飛び込んだ瞬間に感じる一瞬の冷たさに正気に戻ってしまう感じ。遠山は伊藤がそうしている映像を遠くで見ているようだった。遠山はいつも自分を客観視したい時には、自分を映画を撮っているカメラにしてしまう。そこから見える景色・光を体のすべてが受け止める、そして反射する。音や感触、大凡フィルムに収まりきれないものまで感じ取る。世界の喜び・痛みを取り込むように。そしてそれは最初はとても辛い作業だった。世界の痛みを受けるというのは体中に傷が増えることである。傷って何?血が流れること?それはちょっと違う気がする。世界の傷は何か言いたいことがあるのに言えなかったこと。道端が汚れていること。太陽の美しさ。人間の存在。汚いものも美しいものも痛みを呼ぶ。
「きっと人生には理想の部分と現実の部分があると思うんですよ」
伊藤は構わず遠山の目の前で言葉を続けた。
「でも幼い時にはそれが分からない、何故だと思います」
「子どもの頃は何でも出来ると思っていたからでしょう」
「まさしくそうです」
伊藤は指をパチンとならした。
「それが年を重ねる毎に出来ないことが増えてくる。その1つ1つを思い知る度に、人間は『こうでありたい姿』と同時に『こうでしか生きられない姿』を感じてしまう」
「それが『理想』と『現実』なんですね」
大人はとても不思議な生き物だと思う。遠山も大人になって出来ないことを数えながら生きてきたような気がしていた。大人になって出来ることも増えたはずなのに、出来ないことばかりが遠山の胸を締め付けた。きっと自分自身を映画のフィルムにしてしまうのは、ここにも原因があるのかもしれない。もしも自分自身がフィクションであれば、今よりも可能性が広がるかもしれない。遠山は小説を書きながら、リアルの中にフィクションを多く取り入れていた。もちろんそうでなければ小説ではないのだが、それだけでなくて、自分が出来ないと思ったことをフィクションでは代行してくれる。客観視している自分もどこかフィクションだ。そえであれば、そんな自分も自分が思うように動くのかもしれない。そう考えれば、遠山の今は『現実』ばかりが迫ってくるのではない。『理想』を今も実現可能な『現実』として追っているらしいのだった。
「遠山さんが思うに、あなたが『理想』のように生きていけない『現実』があると知ったのはいつくらいの頃なのですか?」
世界の痛みを受けた遠山の姿はそのうち、そのままの姿で遠山の中で映像化された。遠山の頭の中では、遠山がそのまま動いているのだ。それはやはり自分の中の『理想』と『現実』を埋めるためには必要なことだった。とすれば、遠山が自分を客観視するようになった頃が、この質問の答えになりそうだった。遠山は思い出していた。自分自身の痛みと世界の痛みを重ね、自分の心を何処かに置き去りにして楽にするようになったのはいつのことだろう。世界の痛みを受けることは辛いと言った。でも、それは嘘だ。確かに辛いかもしれない。でも、自分の痛みを受けるよりはよほどマシだった。自分自身を受け止め、自分の出来ることを知るということが遠山には耐えられなかった。
それでも質問の答えを出すために遠山は思い出した。伊藤はそんなことを感じていないかもしれないが、遠山にとってきっとこれを逃せば一生自分自身のことなんて分からないし、分かろうともしないのだろうと思った。遠山は幽かな記憶を辿りながら、一つの結論に至ろうとしていた。
伊藤も平静さを取り戻したようであった。衝動的に川に飛び込もうとして、飛び込んだ瞬間に感じる一瞬の冷たさに正気に戻ってしまう感じ。遠山は伊藤がそうしている映像を遠くで見ているようだった。遠山はいつも自分を客観視したい時には、自分を映画を撮っているカメラにしてしまう。そこから見える景色・光を体のすべてが受け止める、そして反射する。音や感触、大凡フィルムに収まりきれないものまで感じ取る。世界の喜び・痛みを取り込むように。そしてそれは最初はとても辛い作業だった。世界の痛みを受けるというのは体中に傷が増えることである。傷って何?血が流れること?それはちょっと違う気がする。世界の傷は何か言いたいことがあるのに言えなかったこと。道端が汚れていること。太陽の美しさ。人間の存在。汚いものも美しいものも痛みを呼ぶ。
「きっと人生には理想の部分と現実の部分があると思うんですよ」
伊藤は構わず遠山の目の前で言葉を続けた。
「でも幼い時にはそれが分からない、何故だと思います」
「子どもの頃は何でも出来ると思っていたからでしょう」
「まさしくそうです」
伊藤は指をパチンとならした。
「それが年を重ねる毎に出来ないことが増えてくる。その1つ1つを思い知る度に、人間は『こうでありたい姿』と同時に『こうでしか生きられない姿』を感じてしまう」
「それが『理想』と『現実』なんですね」
大人はとても不思議な生き物だと思う。遠山も大人になって出来ないことを数えながら生きてきたような気がしていた。大人になって出来ることも増えたはずなのに、出来ないことばかりが遠山の胸を締め付けた。きっと自分自身を映画のフィルムにしてしまうのは、ここにも原因があるのかもしれない。もしも自分自身がフィクションであれば、今よりも可能性が広がるかもしれない。遠山は小説を書きながら、リアルの中にフィクションを多く取り入れていた。もちろんそうでなければ小説ではないのだが、それだけでなくて、自分が出来ないと思ったことをフィクションでは代行してくれる。客観視している自分もどこかフィクションだ。そえであれば、そんな自分も自分が思うように動くのかもしれない。そう考えれば、遠山の今は『現実』ばかりが迫ってくるのではない。『理想』を今も実現可能な『現実』として追っているらしいのだった。
「遠山さんが思うに、あなたが『理想』のように生きていけない『現実』があると知ったのはいつくらいの頃なのですか?」
世界の痛みを受けた遠山の姿はそのうち、そのままの姿で遠山の中で映像化された。遠山の頭の中では、遠山がそのまま動いているのだ。それはやはり自分の中の『理想』と『現実』を埋めるためには必要なことだった。とすれば、遠山が自分を客観視するようになった頃が、この質問の答えになりそうだった。遠山は思い出していた。自分自身の痛みと世界の痛みを重ね、自分の心を何処かに置き去りにして楽にするようになったのはいつのことだろう。世界の痛みを受けることは辛いと言った。でも、それは嘘だ。確かに辛いかもしれない。でも、自分の痛みを受けるよりはよほどマシだった。自分自身を受け止め、自分の出来ることを知るということが遠山には耐えられなかった。
それでも質問の答えを出すために遠山は思い出した。伊藤はそんなことを感じていないかもしれないが、遠山にとってきっとこれを逃せば一生自分自身のことなんて分からないし、分かろうともしないのだろうと思った。遠山は幽かな記憶を辿りながら、一つの結論に至ろうとしていた。
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