異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

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chapter 1

3話 思い出された記憶

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「…………まっ、その魔力が無ければこんな事にはならなかったんだがな」

 自嘲気味に呟くと俺はゴブリンに向かって走り出した。

――――先程使ったごり押しは魔力不足の所為で使えない。しかし敵が一匹だけなら幾らでも戦いようはある。

 俺はゴブリンに肉薄し、ゴブリンはそれを防ごうと剣を横凪ぎに振るう。無論、限界速度で走っていた俺はそれを避けきる事は出来ない。

「当たらねえよ」

 俺は止まる事なく身体を倒した。全力で、背が地に着く程勢い良く滑る。そのスレスレを…………いや、巻き上げられた髪を僅かに斬られながらも俺は、確実にゴブリンの一撃を避けきった。そして交錯する刹那、がら空きとなったゴブリンの首に刃を滑らした。

 ブシュッ、と血が吹き出る。ゴブリンは茫然と自分の首筋に手を当て、そのまま倒れて動かなくなった。

「…………ふぅ」

 肺の中が空になる程息を吐き、その場に腰を下ろす。――――何とか依頼は達成出来た。

 安堵感から俺はその場で横になり空を仰いだ。…………瞬く星が、俺を祝福している気がした。 

 俺は立ち上がって再度深呼吸をし、生の実感を得たところで歩き出す。向かう先は依頼人である老夫婦の家。報告義務があるために足を運ぶのだが、仮にそれが無くとも向かっただろう。

 何せ俺も人の子だ。家族から離れてしょっぱい学生生活をしていると、どうしても人の情に飢える。フィーが居るおかげで寂しいなんて思ったりはしないが、老夫婦と過ごした僅かな時間は安心できる心地よいものだった。

 唇を綻ばせ歩く。庭と言っても畑だから家まで少し距離はあるが、既に視界に収まっている。家を出る時にお婆さんがデザートを作って待っていると言っていたので、今はそれだけが楽しみだ。

 そう幸せな未来を夢想する俺は、はっきり言って油断していた。そんな俺を狙うのは楽だっただろう。――――俺は容易く吹き飛ばされた。

「ガッ……!」

 背中に衝撃を感じると同時に、普通は曲がらない方向に身体を曲げながら吹き飛ばされ、畑を仕切る柵に強かに頭をぶつけて停止する。

 どっちが地面でどっちが空か分からない状態で身体をくの字に折り咳き込む。突然の攻撃に頭がついていけず、身体中が悲鳴を上げるも無理矢理身体を起こしその場から離れる。

 どうやらその判断は間違っていなかったようで、数瞬遅れて俺が寸前まで居た場所が爆発した。

「クソが……!!」

 毒づき、頭を振って揺らぐ視界を回復させると、俺の正面に一匹のゴブリンが――――否、ゴブリン・ロードが居た。

 ゴブリン・ロードとはゴブリンの上位種で、体格こそゴブリンと然程変わりは無いが、しかしゴブリン・ロードは魔法が使える。

 魔力の形態も形状も変化させる事は出来ず、ただの魔力の塊を飛ばすだけしか能が無いが、それでも遠距離攻撃が有るか無いかだと結果は変わってくる。

 少なくとも遠距離から攻撃する術が無い俺にはお手上げだ。

 ゴブリン・ロードの討伐推奨等級は八で、一人で討伐するとなると等級は六くらいじゃないと無理がある。俺の等級は八相当なので逃げるしかない――――が、そんな余裕は無かった。

 腰に装備してやるポーチに手を当てるが、値段重視で買った安物のポーションの瓶は割れ、中身が溢れている。比較的高価なマジック・ポーションの瓶は無事だが、俺が使える魔法と言えば武器を創造する魔法だけ。

「…………詰んだな、これは」

 諦めた。

 ゴブリン・ロードの魔力弾が肩に直撃し、ゴギンッと嫌な音を立てながら吹き飛ばされる。また強かに頭を打つが、今度は打つ場所が悪かったのか意識が薄らいでいく。

 今まで体験してきた事が頭の中を巡る。俗に言う走馬灯ってやつだろうか。家族みんなで食卓を囲んで笑ってて…………そこに幼馴染みが乱入してきて。――――あぁ、今度はフィーを助けた時の記憶だ。俯いて涙を堪えているけど、溢れた液体が重量に従って足下を濡らして…………自分も、貴族たちの選民思想に基づくやっかみには苛々していて、八つ当たりも兼ねて助けたんだっけ。それで感謝されて――――あれ、これはいつの記憶だろうか。そもそもどこだろう。変な服を来た人だらけ。高速で移動する何かが止まるのを待って――――信号が青になったから歩きだして、でも信号無視をするトラックが…………トラックに轢かれそうになって…………トラック? いや、トラックだ。少女を助けて、助けようとして――――死。

「お…………れ、は」

 俺は、ルカ。間違いなくルカとして生きてきた――――この世界では。

 俺は誰だ? 俺は俺だ。ルカだ。でも、もう一つ。もう一つ名前があった。

「ははっ…………あはははは!!」

 思い出した。俺は中学生くらいの少女を助けようとして、死んだんだった。完膚無きまでに、確実に。その証拠として今ここに居る。生まれ変わって生きている。

 もう、死ぬのは嫌だ。やりたい事はいくらでもある。やれなくなってしまった事もあるけど、生まれ変わって新たに出来たやりたい事もある。こんな所では死ねない。

「クソッタレめ…………誰がそう簡単に死んでやるか…………!!」

 ゴブリン・ロードの攻撃が直撃した時に肩でも外れたのか、右腕が動かない。だがそれがどうした。俺はまだ生きているし、左腕だって動く。

 だから俺は芋虫のように無様に這って逃げ、ポーチからマジック・ポーションを取り出して震える左手で口に持っていく。そして瓶を傾けて躊躇する事無く飲み干すと、身体の奥から込み上げてくる熱を感じながら立ち上がった。

「…………εκκίνηση,《起動》…………δημιουργία,《指定》――――όπλο!!《構築》」

 創造するのは無骨なハンドガン。思い付く飛び道具では最も優れているし、なによりもゲームやアニメで頻繁に登場するそれはイメージがしやすい。本物では無いがモデルガンやガスガンには実際に触れ、撃った事もある。それ故、創造するのに必要なイメージや情報は他の武器より揃っている。

 だから生前本物の銃に詳しいわけではなかったが、しかしそれの形を思い出すのは容易いものだった。

 構造を無視し、単一の存在として作られたそれは引き金を引けば弾が出て、しかもジャムる事は無い。無論弾も魔法で作製するため弾切れは起こさず、リロードは必要無い。俺の魔力が続く限り永遠に撃つ事が出来る。しかも本体を一度作ればあとは弾とそれを撃ち出す魔力だけで、その体積の少なさから消費魔力も剣に比べれば大幅に減少する。

 ハンドガンの有効射程は意外と短いと聞いた事があったが、目測でゴブリン・ロードとの距離は十メートルそこら。

「近代兵器の素晴らしさ、お前に教えてやるよ」

 左手でずさんに構えて引き金を引く。

 火薬を使わず魔力で飛ばすそれは、本物と比べると全くの無音と言えるほど静か。音と言えば引き金を引く音と弾丸が空気を切り裂く音だけ。しかし目標は――――倒れない。当たり前だ。素人が片手で撃っていきなり当たるわけが無い…………が、別段焦る必要は無い。俺が作った銃は引き金を引けば弾が出る。魔力は自動的に消費され、一々思考を割く必要は無い。ただ機械的に引き金を引く。それだけ。

 魔力が切れても気絶しない俺だからこそ出来る強引なものだが、そもそも俺以外に銃なんて作れない。

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、なんて言い得て妙だな」

 命中率こそ最悪だが、ゴブリン・ロードの魔力弾とは連射力が違う。しかもこちらの弾は魔力なんて不安定な存在ではなくしっかりと物質として存在している。

 威力・連射力ともに勝っている俺が負けるはずもなく、無事…………とは言いがたいものの楽々と討伐に成功した。今度こそ老夫婦の家でデザートを食べる事を決意して、俺は立ち上がった。
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