異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

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chapter 1

6話 いただきます

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「主による礎の元、我々は主の血肉を食し御身に近付かんとす。主よ、我ら憐憫たる子羊を御導き下さい」

 序列的に端っこに座る俺は、同じく隣に座りながら神に祈るフィーを眺めながら食事に取りかかる。

 フィーは…………というかこの国は宗教国家である。それ故礼拝などの行事もあるし、このように食事の前に神に祈りを捧げたりする。この国の神は名前も姿形も無く、ただ唯一の絶対神として崇められている。

 フォークを持ち、いざ子牛のステーキに突き刺そうとしたところでフィーが俺の袖を軽く引っ張った。見やるとジト目で見られ、嘆息しつつも仕方がないので祈りを捧げる。

「えーと、…………主の血肉を貪り喰って……えー、我こそが神になる? そんで、迷える子羊に魂の救済を――――アーメン」 

 前世の俺は日本人だったため、例に漏れる事なく無宗教だった。しかも過去の俺自体、神を特に信じているわけでも無かったため、はっきり言って祈りの言葉を覚えていなかった。

 それ故にいろいろとテキトーに並べたが、予想よりかは遥かに上手く言えた。最後のアーメンとか、別に言った意味は無いけどかなり格好良く聞こえたし。

 フィーも格好良いと思っただろ? という意味で、得意気な表情を浮かべつつフィーを見ると、既にサラダにフォークを走らせていた。我関せずといった態度はフィーらしからぬもので、少し不思議に思ったものの自身がお腹が空いたと急かすため、深く考えない事にして食事を始めた。

「いただきます」

 手を合わせ、頭を下げる。

 先程とは打って変わり、真剣な表情で祈りを捧げる俺を見てフィーが首を傾げる。別に神に祈っているわけではないが、好意的に受け取られているならばわざわざ否定しなくてもいい。

「ルカ君、今の何?」

 お腹が空いていたため答えるより早く口に肉を詰め、スープで押し流しながら飲み込む。口の中の物が無くなった事を確認すると、そこでようやく先程の質問に答えるために口を開く。

「何って…………あれだよあれ。神に祈る行為を俺的に解釈し、簡略化してみた」

 実際はそんな厳かなものでは無い。さっきだって心の中では、「おっしゃぁ! 貪り喰ってやるぜえええッ! ふぅぅぅッ!!」みたいなテンションだったし。まぁ、物は言いようってやつだな。テキトーに言ったのにも関わらず、何故かフィーは「なるほど…………」って神妙な顔で頷いたりしているし。

 そんな感じで正餐を平らげていると、数少ない友人の一人が話しかけてきた。

「ルカ、魔法論理の先生が呼んでるぜ」

「ん、マジか。…………テストの事じゃないと良いんだが」

 俺の言葉に友人は軽く笑い、無事を祈るとだけ告げて自分の席に戻った。その席は俺とは反対側で…………それは向かい側という意味では無く、上座という意味だった。

 友人の名前はアッシュ=ラ=ブリジット。国境に住み、国外の脅威から国を守る辺境伯の一つである、ブリジット家の長男だ。辺境伯は地域の繋がりが他の貴族とは段違いに強く、農民だからとこちらを馬鹿にしたりはしない。むしろ、騎士は数が少なく実際に戦争を行う人間の大半は農民であるため、アッシュ――俺は鬼神の如き強さからアシュラと呼んでいる――はこちらに敬意を表する事さえある。

 余談だが、名前と家名の間にある『ラ』は定冠詞で『たった一つの』を意味し、王家と公爵と辺境伯しか名乗る事は許されていない。貴族を表すのは『ラ』では無く『ル』で、フィーには名前と家名の間に『ル』が入る。平民にはそんなものは無く、名前の後はそのまま家名が来る。無論、俺は平民(農民)であるため名前と家名しか無い。

 嫌な予感しかしないが先生に呼ばれて行かないわけにもいかず、高速で食事を終えるとフィーに別れを告げて指定された場所に赴く。

「センセー、呼ばれたんで来ました」

 素早く二度ノックし、学園側から支給される先生の部屋に足を踏み入れる。ノック二回はトイレだったか? と思うも、別に気にするような事は無いなと考え直し、そのまま部屋に目を向ける。ピンクだった。

 現状を理解するために簡単な説明をしよう。普段はお堅い魔法論理の先生の部屋に入ったら、一面ピンクと白でコーディングされたロリータ風な部屋が視界に入って来た。先生の容姿的に似合わなくも無いが、しかし性格的には全く似合わない。ギャップ萌えを狙っているとすると、わざとらしすぎて逆効果だ。

「――――ルーズベルト君」

 ピンク色でクッションが大量に置いてある、キングサイズのベッド上に居た先生が俺の名前を呼ぶ。静かな怒りを秘めた声だ。しかし、クッションに顔を埋めているためその声は非常に聞き取りにくかったし、何よりその見た目から先生に対する恐怖は半減した。

 だから俺はこの現状に混乱はしたものの、致命的な間違いを起こす事は無かった。…………いや、この状況に出くわした時点で既に致命的だが。知らぬは仏ってやつだ。

「…………うん、呼んでおいて対策しなかった私も悪いわ。だからルーズベルト君、今の事は早々に忘れて頂戴。記憶に欠片一つ残す事なく完璧に、完膚なきまで完全に」

 …………意外にも許してくれるらしい。まぁ、確かに相手の返事を待たずに入った俺も悪いが、呼んでおいて何の準備の無かった先生も悪い。ってか、見られたくないならもっと全力で隠し通せと言いたい。

「取り敢えず十秒で良いわ。十秒だけ部屋から出て行って頂戴」

 十秒。たった十秒で先生はこの部屋を無かった事にするらしい。…………いや、それ以前に、先生の言葉は『十秒経てばまたこの部屋に入って良い』と言っているように聞こえる。どういう事だ? まぁ確かに、今抱き締めているクッションを彼方に投げ捨てるのには十秒も要らないだろうが。

 俺は失礼しました、と出来る限り礼儀よく頭を下げ部屋から出る。そしてきっかり十秒経った後、仕切り直しとばかりに二度ノックする。中から「どうぞ」と聞こえたのを確認し再度部屋に入る。今回俺に責は無いため、先生も文句は無いだろう。気になるのは、先生がどういった対応をして来るかだ。無かった事にするのなら、俺も空気を呼んで触れない事にしよう。



――――だが、俺のそんな決意は無意味なものであった。



「――――マジ、かよ」

 部屋の広さは変わらない。だが、圧倒的までに違う。キングサイズのベッドはシンプルなシングルベッドに変わり、一面ピンクと白で塗られていた壁は大理石が打ちっぱなしになっている。

 壁を隠すように二メートルは優にある本棚が並び、難解な専門書が数センチの隙間無く敷き詰められている。

 先生が立っている横、つまり部屋の中心には飾り気の無い木製のテーブルが置いてあり、書類やら試験管らしき物が散乱している。

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