異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

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chapter 1

10話 どう足掻いてもチート

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「ラスト」

 的はあと一つ。ようやく逃走するという選択肢が生まれたのか、明後日の方向に走って行く。下半身が馬なだけあって速いが――――所詮はその程度だ。ただ機械的にトリガーを引く。

 風や目標に到達する速度、目標の逃走速度。そのどれも頭に入れていない弾丸は、寸分の狂いなく的の中心こうとうぶを貫いた。

 頭を貫かれた…………否、頭部を吹き飛ばされたケンタウロスは頭を失ったまま数メートルの距離を走り、やがて自慢の足をもつらせて地に伏す。俺はその一つの命が失われる過程を見て愕然とした。――――何故、当たった?

 俺は今日初めてスナイパーライフルという物を手にし、敵を撃った。だというのにも関わらず命中率は百パーセント。特に敵を狙って撃ったわけでは無い。ただ何となくここだという所でトリガーを引いただけなのに…………。

「才能、ってやつか?」

 近接はゴブリン二体に苦戦する俺。しかし遠距離だとこうも変わる。しかも長年の経験に裏打ちされた――――とかそんなものでは無く、完全に感覚。

 俺は試しにその場にマジックポーションの空瓶を置き、馬に乗った。

 討伐系の依頼はそれを討伐したという証である魔石を持ち帰る必要があり、それを取りに行くために馬を走らせる。魔石はそのモンスターにより色が変わり、個体の強さにて大きさが変化する。魔石は使用用途が全く無く、売られていてもごく僅か――しかも買うと依頼料の数十倍高い――ため現在で唯一の討伐証となっている。

「これがケンタウロスの魔石か…………デカイな」

 デカイと言っても、一番大きいやつで握り拳程度の大きさだ。…………まぁ、それでも通常のゴブリンの十数倍はあるが。

 俺は全ての魔石を革袋に入れ、数に違いが無い事を確かめると再度銃を創造し、先程まで俺が狙撃していた地点をそれのスコープで見た。もちろんそこにあるはずの空瓶は点にも見えない。

 見えないのだから狙い用がないのだが――――不思議と、外れる気はしなかった。

 俺が居た場所はここより少しだけ高い場所であったため、空瓶は物理的に見えない。弾という物は真っ直ぐに飛んで行く物体であるため、物理的にも狙撃は不可能に思える。

 しかし方法はある。弾の火薬を減らすか初速を遅くしてやれば弾の勢いは無くなり、真っ直ぐでは無く軽く弧を描くように飛ぶ。そうすると今この場所から見えない位置にも着弾させる事が出来るはずだ。

 弾は火薬の量なんて意識をした事が無いから、必然的に魔法で初速を落とす事になるが…………まぁ、初歩の防護系の魔法で何とかなるだろう。

「εκκίνηση,《起動》δημιουργία《指定》…………」

 魔法を使う上での『お約束』を呟く。ある程度魔法に精通した者ならば省略出来るそれも、俺はご丁寧にも一字一句違える事なく唱えなければならない。非常に面倒だがそれは『お約束』だから仕方が無い。

「άνεμος《構築》」

 使用するのは風の防護魔法。本来矢避けの魔法だが、俺が使うと小石を弾く程度に留まる。それでも無いよりはマシだったのか、発射された弾丸は弧を描いて目標に迫る。そして着弾。

 立ち上がる砂煙から弾が目標付近に到達したのは間違い無い。しかし実際に当たったかどうかはここからでは判断が出来ないため、再度馬を走らせる。内心『ふざけんなよこのクソ野郎』とか思っているかも知れないが、文句も言わずに従ってくれる。

 流石に軍馬だけあって従順だし馬力がそこらの馬とは違う。賄賂を含めた金の分はしっかりと働いてくれている。

 金と言えば、今回の依頼の報酬は何に使おうか。仕送りとフィーに土産でも買うのと…………後は、買うとしたら奴隷かな。性欲処理のためでは無く、前衛として戦える戦奴隷。

 問題は強いだけのオッサンなら安いけど、視界に入れても不快じゃない美人または美少女は尋常じゃない程高いという点だな。まぁ、そこはのんびり金を貯めてから考えるか。

 都市の市民権を家族分買って商人とかやるのも一興だと思う。

 のんびりとそんな事を考えながら目的地に向かうが、俺がいくらのんびりしていても馬がきちんと働けば一キロという距離はすぐに零となる。――――瓶は、跡形も無く消え去っていた。







「はいこれ、依頼書と討伐証の魔石」

 魔石を文鎮代わりに依頼書の上に乗せ、暇そうにこちらを見ている受付嬢に提出する。確かこの女性、俺にケンタウロスの依頼を勧めて来た人だと思う。

 まさか自殺希望者だと思っていた人間が、ケンタウロスを無事討伐して帰って来るなんて思わなかっただろう。しかも報告以上の数と質の魔石。…………さらに依頼を受理されてから達成までかかった時間はたったの二日。これはもう、アレだな。俺が受付嬢なら確実に惚れるな。

――――何て思ったが現実は甘く無く、受付嬢は僅かに目を見開いて硬直したが直ぐに己の仕事に取りかかった。

 提出された依頼書を確認し、魔石を鑑定する。種族によって色や形が変わる魔石だが、実際にそれを判別する事が出来るのはごく僅かな人間だ。受付嬢になるためにはまず魔石の鑑定が出来なければならない。

「…………確かに、ケンタウロスの魔石です」

 受付嬢は静かにそう告げると、依頼の固定報酬(元々の依頼料)と個別報酬(魔石の余剰分)を渡してくれる。

 ズッシリと感じる重みは、今まで持った事が無いような大金である事を示唆している。あまりに大金である所為か、嬉しい以上に恐怖が先立つ。これを直ぐに出せるギルドに戦々恐々としつつ、急いでこの場から離れる。

 さっさと家に金を送り、残った金で何か美味い物を食べたい。無論食べるのはおばちゃんの所でだ。

「すみません、ついでに送金の手続きをして貰っても良いですか?」

 都市と都市や、その途中にある村を渡り歩く商人に頼めば送料はかなり安いが、その代わりに保証が効かない。道中には様々な魔物や盗賊等が居るため、必ず荷物が届くとは限らない。それに今回のような大金の場合、盗賊に襲われたフリをして金を奪われる可能性もある。

 その点ギルドは非常に信頼出来る。何をどうやって運んでいるかは知らないが、渡した荷物は数日中にほぼ必ず届けられる。万が一紛失した場合等はギルドから金が支払われるため、商人に頼んだ時のように泣き寝入りする必要は無い。

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