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chapter 3
9話 飛んで火に入る夏の虫
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「…………こんな現実、私は認めません」
水を滴らせながらそういうミサは全裸だった。だがここ一ヶ月でミサの裸なんて何度も見たし、一々欲情していたらキリがない。長期間旅に出る以上、パーティー内で裸がどうとか言うやつはルーキーか童貞野郎くらいだ。
そのどちらでも無い俺が取り乱すはずも無く、平常心を保ったままミサに着替えを渡す。
「諦めろ。現実は覆らん」
「…………そうですねっ」
僅かな間を残しミサは笑いながら答える。その若干影のある笑みに後ろ髪を引かれつつも、先を歩くミサの跡を追う。それだけ精神的ダメージが酷かったのだろう。俺もあんなのの液体なんて触りたく無いし、全身に被るなんてもっての他だ。
壁を抜け、四十一層に踏み入れる。背後には普通の螺旋階段があり、上に昇れば三十九層に戻れる。もちろん、今更戻る意味も無い俺たちは先を目指す。――――ここから先は、地図が無い。
「…………六層から二十九層までと同じ、か?」
だだっ広い空間。強いて違いを挙げるなら、この層は水が流れているようだ。しかも音からしてかなりの量で、下手すると並みの川より深さがあるかも知れない。
取り敢えずランタンの蓋を開け、道を確認し――――
「――――止めておけ」
ランタンの蓋を開けようとした俺の手を、突然現れた何者かが掴んだ。
「…………ッ!!」
反射的に腰へと手を伸ばすが、その手も封じられる。
「気持ちが分からないわけでも無いが、俺は人間だ」
その言葉に動きを止める。確かにそうだ。少なくとも流暢に言葉を操る魔物なんて見た事が無い。
となるとお仲間か。ここまで生きている人間と会わないと、いざ出会った所でそうとは思わない。よくよく考えると最高到達階層は俺たちが居た時点の話であり、あれから何時間も経っている以上その先に人間が居たとしてもおかしくない。
俺は突然現れた味方に肩の力を抜き…………すぐさま早計だと力を入れ直した。目の前の人間が生きているからといって味方だという事にはなり得ないし、ここまで来れる実力者であるのならば過剰な程警戒してお釣りが来る。何せミサは美少女なのだ。俺だけなら殺す利点が無いが、ミサが居るなら別だ。
「…………ふっ、案ずる事は無い。女なら間に合っている――――彼らにもかけてやれ」
「はい」
男の声に応えるようにして女が現れる。もちろん姿は見えないため、気配と声で判断しただけだ。…………しかし、何故男はこちらの思考が読めた? 単純に雰囲気を察してか、それとも……いや、この状態で考える事など皆同じという事か?
俺が色々と考えているうちに女はぼそぼそと詠唱を始める。声が小さいのは元々の性格か、それとも魔物を警戒してか。
答えが出る前に女の詠唱は終わった。
「――――おお!」
その魔法の効果に、俺は驚きながらミサと目を合わせた。向こうも驚いているようで、キョロキョロと辺りを見回している。
「結構はっきりと見えますね」
ミサの言う通り、今の俺たちは周りが見えている。当然日の光が当たっている時のようでは無く、赤外線カメラで暗闇を覗いた時のようだ。若干緑っぽく見える。
赤外線カメラと言っても、光が無い以上赤外線も無いはずなので光を増幅する魔法ではなさそうだ。いきなり炎やら何やらで目が……なんて間抜けな事にはならなくてすみそうだ。
「あんたらは何故ここに?」
魔法の礼もそこそこに、俺は気になっていた事を聞く。不意を突く以外で闇に隠れて人を待つ意味は、果たしてあるのか。
「…………新しい仲間を探していた。最初は四人だったが、喰屍鬼と百足にやられてな」
なるほど、と頷く。俺らが言うのもなんだが、二人で先を行くのは無謀過ぎる。丁度俺たちは二人だし、合わせればパーティーの人数は適正人数となる。
地図の無いこの先をどうするかはぶっちゃけ悩み所でもあったため、正に地獄に仏ってやつだ。しかもエンチャント系が得意な魔法使いが居るようだし、ミサと組ませれば敵無しだろう。
「じゃあ一緒に…………ん?」
ちらちらと、何かが揺れた。もしかするとランタンの炎だろうか。俺は男に目配せした。
「見てこよう」
男は剣を抜くと光が見えた場所へ歩いて行く。
見えるようになって分かった事だが、先を両断するように川が流れている。あまり鮮明には見えないが、光が見えた場所は川の近くでは無く、どちらかというと中心だったような気がする。…………嫌な予感しかし無い。
「……お、おい、あんまり川に近付き過ぎない方が――――」
ぱくり、と。そんな可愛らしい擬音が聞こえて来そうな軽いノリで、男の上半身が喰われた。男は膝から崩れ落ち、断面図から内蔵を溢す。思ったよりも血は出なかったが、代わりに余計なものを出していた。
水を滴らせながらそういうミサは全裸だった。だがここ一ヶ月でミサの裸なんて何度も見たし、一々欲情していたらキリがない。長期間旅に出る以上、パーティー内で裸がどうとか言うやつはルーキーか童貞野郎くらいだ。
そのどちらでも無い俺が取り乱すはずも無く、平常心を保ったままミサに着替えを渡す。
「諦めろ。現実は覆らん」
「…………そうですねっ」
僅かな間を残しミサは笑いながら答える。その若干影のある笑みに後ろ髪を引かれつつも、先を歩くミサの跡を追う。それだけ精神的ダメージが酷かったのだろう。俺もあんなのの液体なんて触りたく無いし、全身に被るなんてもっての他だ。
壁を抜け、四十一層に踏み入れる。背後には普通の螺旋階段があり、上に昇れば三十九層に戻れる。もちろん、今更戻る意味も無い俺たちは先を目指す。――――ここから先は、地図が無い。
「…………六層から二十九層までと同じ、か?」
だだっ広い空間。強いて違いを挙げるなら、この層は水が流れているようだ。しかも音からしてかなりの量で、下手すると並みの川より深さがあるかも知れない。
取り敢えずランタンの蓋を開け、道を確認し――――
「――――止めておけ」
ランタンの蓋を開けようとした俺の手を、突然現れた何者かが掴んだ。
「…………ッ!!」
反射的に腰へと手を伸ばすが、その手も封じられる。
「気持ちが分からないわけでも無いが、俺は人間だ」
その言葉に動きを止める。確かにそうだ。少なくとも流暢に言葉を操る魔物なんて見た事が無い。
となるとお仲間か。ここまで生きている人間と会わないと、いざ出会った所でそうとは思わない。よくよく考えると最高到達階層は俺たちが居た時点の話であり、あれから何時間も経っている以上その先に人間が居たとしてもおかしくない。
俺は突然現れた味方に肩の力を抜き…………すぐさま早計だと力を入れ直した。目の前の人間が生きているからといって味方だという事にはなり得ないし、ここまで来れる実力者であるのならば過剰な程警戒してお釣りが来る。何せミサは美少女なのだ。俺だけなら殺す利点が無いが、ミサが居るなら別だ。
「…………ふっ、案ずる事は無い。女なら間に合っている――――彼らにもかけてやれ」
「はい」
男の声に応えるようにして女が現れる。もちろん姿は見えないため、気配と声で判断しただけだ。…………しかし、何故男はこちらの思考が読めた? 単純に雰囲気を察してか、それとも……いや、この状態で考える事など皆同じという事か?
俺が色々と考えているうちに女はぼそぼそと詠唱を始める。声が小さいのは元々の性格か、それとも魔物を警戒してか。
答えが出る前に女の詠唱は終わった。
「――――おお!」
その魔法の効果に、俺は驚きながらミサと目を合わせた。向こうも驚いているようで、キョロキョロと辺りを見回している。
「結構はっきりと見えますね」
ミサの言う通り、今の俺たちは周りが見えている。当然日の光が当たっている時のようでは無く、赤外線カメラで暗闇を覗いた時のようだ。若干緑っぽく見える。
赤外線カメラと言っても、光が無い以上赤外線も無いはずなので光を増幅する魔法ではなさそうだ。いきなり炎やら何やらで目が……なんて間抜けな事にはならなくてすみそうだ。
「あんたらは何故ここに?」
魔法の礼もそこそこに、俺は気になっていた事を聞く。不意を突く以外で闇に隠れて人を待つ意味は、果たしてあるのか。
「…………新しい仲間を探していた。最初は四人だったが、喰屍鬼と百足にやられてな」
なるほど、と頷く。俺らが言うのもなんだが、二人で先を行くのは無謀過ぎる。丁度俺たちは二人だし、合わせればパーティーの人数は適正人数となる。
地図の無いこの先をどうするかはぶっちゃけ悩み所でもあったため、正に地獄に仏ってやつだ。しかもエンチャント系が得意な魔法使いが居るようだし、ミサと組ませれば敵無しだろう。
「じゃあ一緒に…………ん?」
ちらちらと、何かが揺れた。もしかするとランタンの炎だろうか。俺は男に目配せした。
「見てこよう」
男は剣を抜くと光が見えた場所へ歩いて行く。
見えるようになって分かった事だが、先を両断するように川が流れている。あまり鮮明には見えないが、光が見えた場所は川の近くでは無く、どちらかというと中心だったような気がする。…………嫌な予感しかし無い。
「……お、おい、あんまり川に近付き過ぎない方が――――」
ぱくり、と。そんな可愛らしい擬音が聞こえて来そうな軽いノリで、男の上半身が喰われた。男は膝から崩れ落ち、断面図から内蔵を溢す。思ったよりも血は出なかったが、代わりに余計なものを出していた。
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