異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

文字の大きさ
30 / 33
chapter 3

9話 飛んで火に入る夏の虫

しおりを挟む
「…………こんな現実、私は認めません」

 水を滴らせながらそういうミサは全裸だった。だがここ一ヶ月でミサの裸なんて何度も見たし、一々欲情していたらキリがない。長期間旅に出る以上、パーティー内で裸がどうとか言うやつはルーキーか童貞野郎くらいだ。

 そのどちらでも無い俺が取り乱すはずも無く、平常心を保ったままミサに着替えを渡す。

「諦めろ。現実は覆らん」

「…………そうですねっ」

 僅かな間を残しミサは笑いながら答える。その若干影のある笑みに後ろ髪を引かれつつも、先を歩くミサの跡を追う。それだけ精神的ダメージが酷かったのだろう。俺もあんなのの液体なんて触りたく無いし、全身に被るなんてもっての他だ。

 壁を抜け、四十一層に踏み入れる。背後には普通の螺旋階段があり、上に昇れば三十九層に戻れる。もちろん、今更戻る意味も無い俺たちは先を目指す。――――ここから先は、地図が無い。

「…………六層から二十九層までと同じ、か?」

 だだっ広い空間。強いて違いを挙げるなら、この層は水が流れているようだ。しかも音からしてかなりの量で、下手すると並みの川より深さがあるかも知れない。

 取り敢えずランタンの蓋を開け、道を確認し――――



「――――止めておけ」



 ランタンの蓋を開けようとした俺の手を、突然現れた何者かが掴んだ。

「…………ッ!!」

 反射的に腰へと手を伸ばすが、その手も封じられる。

「気持ちが分からないわけでも無いが、俺は人間だ」

 その言葉に動きを止める。確かにそうだ。少なくとも流暢に言葉を操る魔物なんて見た事が無い。

 となるとお仲間か。ここまで生きている人間と会わないと、いざ出会った所でそうとは思わない。よくよく考えると最高到達階層は俺たちが居た時点の話であり、あれから何時間も経っている以上その先に人間が居たとしてもおかしくない。

 俺は突然現れた味方に肩の力を抜き…………すぐさま早計だと力を入れ直した。目の前の人間が生きているからといって味方だという事にはなり得ないし、ここまで来れる実力者であるのならば過剰な程警戒してお釣りが来る。何せミサは美少女なのだ。俺だけなら殺す利点が無いが、ミサが居るなら別だ。

「…………ふっ、案ずる事は無い。女なら間に合っている――――彼らにもかけてやれ」

「はい」

 男の声に応えるようにして女が現れる。もちろん姿は見えないため、気配と声で判断しただけだ。…………しかし、何故男はこちらの思考が読めた? 単純に雰囲気を察してか、それとも……いや、この状態で考える事など皆同じという事か?

 俺が色々と考えているうちに女はぼそぼそと詠唱を始める。声が小さいのは元々の性格か、それとも魔物を警戒してか。

 答えが出る前に女の詠唱は終わった。

「――――おお!」

 その魔法の効果に、俺は驚きながらミサと目を合わせた。向こうも驚いているようで、キョロキョロと辺りを見回している。

「結構はっきりと見えますね」

 ミサの言う通り、今の俺たちは周りが見えている。当然日の光が当たっている時のようでは無く、赤外線カメラで暗闇を覗いた時のようだ。若干緑っぽく見える。

 赤外線カメラと言っても、光が無い以上赤外線も無いはずなので光を増幅する魔法ではなさそうだ。いきなり炎やら何やらで目が……なんて間抜けな事にはならなくてすみそうだ。

「あんたらは何故ここに?」

 魔法の礼もそこそこに、俺は気になっていた事を聞く。不意を突く以外で闇に隠れて人を待つ意味は、果たしてあるのか。

「…………新しい仲間を探していた。最初は四人だったが、喰屍鬼と百足にやられてな」

 なるほど、と頷く。俺らが言うのもなんだが、二人で先を行くのは無謀過ぎる。丁度俺たちは二人だし、合わせればパーティーの人数は適正人数となる。

 地図の無いこの先をどうするかはぶっちゃけ悩み所でもあったため、正に地獄に仏ってやつだ。しかもエンチャント系が得意な魔法使いが居るようだし、ミサと組ませれば敵無しだろう。

「じゃあ一緒に…………ん?」

 ちらちらと、何かが揺れた。もしかするとランタンの炎だろうか。俺は男に目配せした。

「見てこよう」

 男は剣を抜くと光が見えた場所へ歩いて行く。

 見えるようになって分かった事だが、先を両断するように川が流れている。あまり鮮明には見えないが、光が見えた場所は川の近くでは無く、どちらかというと中心だったような気がする。…………嫌な予感しかし無い。

「……お、おい、あんまり川に近付き過ぎない方が――――」

 ぱくり、と。そんな可愛らしい擬音が聞こえて来そうな軽いノリで、男の上半身が喰われた。男は膝から崩れ落ち、断面図から内蔵を溢す。思ったよりも血は出なかったが、代わりに余計なものを出していた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...