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5章 異世界奴隷食堂
5話 異世界奴隷食堂の成り立ち。
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話は少し遡って、『異世界奴隷食堂』開店一ヶ月前。
今日はダンジョンに潜らず一日お休みの日なのだが、カムイが宿屋に帰って来ると二人はベッドで寝転びながら思い思いに過ごしていた。
二人は帰って来たカムイを視界に収めると、さり気なくカムイが座る場所を空ける。
その生まれた空間に座ると、カムイは二人に向かって口を開いた。
「二人に今日は報告があります」
「どうしたの?」
「何でしょう?」
息のあった二人につい笑みをこぼしつつ、カムイは手の平に乗せた三つの鍵を見せて言った。
「家を買ってみました」
「……へ?」
「……え?」
その内の二つをハルとクロに渡す。
「これは家の鍵だから無くさないようにな」
「あ、ありがと……じゃなくてお兄ちゃん! どういう事なの!?」
ハルは驚き、クロは不思議そうに自分の手の中にある鍵を眺めている。
「いやほら、帰る必要が無いから余計なお金は不要かなって。それよりもやっぱり、安心出来る自分の家が欲しいなと思って」
「う……」
エルフィーの行動もカムイの決意も、ハルは全て聞いていた。しかしそれでもカムイがここに残る事になった原因は自分であり、自分の我がままでカムイがこちらの世界に残ったと思っているハルは、そう言われると何も言えなくなるのだ。
だが自分に相談してくれればいろいろと助けになったはずだし、お金も全てカムイに出させるような事はしなかった。そういった意味で不満があるのだが、それすらも言い難かった。
「クロはどうだ? 宿屋より断然広いと思うけど」
「……黒猫族は定住しないですし、奴隷でしたので鍵が不思議です……ずっと自由になるために欲しかったのに、この鍵は自由になるどころか私を縛るもので……でも、あったかいです」
奴隷時代、鍵とはつまりクロを入れている檻や手錠の事を意味する。それさえあればそこから逃げ出し、クロは自由になる事が出来た。しかし今回カムイが差し出した鍵は、キツイ言い方をするなら出入りが自由な檻の鍵だ。決してクロは自由になる事はない。
だけど檻とはいえ、同じ奴隷とはいえ、その意味合いは大きく変わる。
ハルの事は慕っているし、カムイの事もなんだかんだ言って好ましく思っている。少なくとも、主人がカムイで良かったと思う程度には。
クロのそんな独白に、カムイは家を買って良かったと思った。
「クロ……!」
感極まったカムイはクロを抱き締める。最初の方は唯一自由な口を使って可能な限り罵倒していたが、今は慣れたのか「仕方ないですね、この男は」といった表情で抱き締められるままにしている。
「クロちゃん……!」
特に何かあるわけじゃないが、ハルはその輪に入りたかったのか反対側からクロを抱き締める。
二人に挟まれながらクロはそっと溜め息を吐く。しかしその唇は、三日月のように弧を描いていた。
「じゃーん! ここが今日から我が家になります」
各種調味料、材料などの荷物は宿屋に置き、三人は新しい家に来ていた。
既に今日の分の宿代は払っているので、今は簡単に手荷物をまとめただけで本格的な引っ越しは明日になる。
「うわー……」
「おっきい、です」
三階建てのその家は、周囲の建物と比べて大きいわけじゃない。だがそれが全て個人の家というのは確かに珍しい。もちろん城内にある貴族の家はもっと大きいが、少なくともここら一体に三階建ての家を持っている人間は殆どいないだろう。
「しかもこれ、一階は……ほら」
「あっ、カウンターがある!」
解錠し扉を開くと、一階にはカウンターと年期の入ったテーブルがいくつか置いてあった。奥には厨房があり、昔は何か飲食店であった事が伺える。
「お店、ですか?」
「そうそう。地下もあって、温度が低いから簡易的な保管庫としても使えるんだ」
「地下まで……」
単純に凄い、と思うハルだが、そこである事に気が付いた。三階建て、地下一階。一階の厨房には各種設備が整っている……という条件の家が、カムイが持っていたお金で買えるわけがない。
「お兄ちゃん、どうやってここを買ったの……?」
「そうだなぁ、どこから話そうか……うん、まずは一つ。君たち二人には、ここで働いてもらいます」
「ここで、ですか。ご主人は料理屋を営むつもりで?」
その問いにこくりと頷くと、カムイは自分の荷物から首輪を二つ取り出した。
一つは赤色、もう一つは黒色の革で作られたしっかりとした高級品で、三十センチほどの革で編まれた鎖がぶら下がっている。
「コンセプトは『奴隷』だから、二人とも働く時はこれを付けてくれ」
「奴隷ですか……?」
クロはハルの方を見ながら首を傾げた。
「ハルは違うけど、まあそんなの当事者しか分からないしな」
「なるほど、です」
実際にクロが外を歩いた時、クロの事を奴隷と思う人間はいなかった。もちろん悪い意味で名が売れてるクロの事を知っている人間は多くいるが、誰も未だに奴隷であるとは思わず、奴隷商の冥福を祈った。
「んで、何で奴隷かと言うとだな……説明が長くなるから省くけど、奴隷制度を廃止したい人間から投資してもらうために、二人には奴隷として働いてもらうんだ」
「奴隷を廃止するために、奴隷……?」
「そう。すぐに奴隷制度の廃止は無理だから、せめて奴隷の立場を向上させようって話。俺がこの店で奴隷を雇って、食事や休息もきちんと取らせて給金まで支払う……っていうのを条件に、いくらか融資してもらったんだ」
「なるほど。だから私も首輪を付けるわけだね」
納得したのかハルは右手で左の手の平を叩いた。
「ちなみにエルフィーには半分くらい出してもらった」
「……お姉ちゃんが」
ハルはカムイの表情を恐る恐る伺うが、特に怒っている様子もない。ただし内心どう思っているかは分からないので、その事について言及する事は避けた。
「ちなみに二階が住居な」
階段を上って二階に向かうと、そこには左右三つずつ部屋があった。
「左右は違うけど、どれも間取りは一緒だから好きな部屋を選んでいいよ」
「じゃあ私が一番奥で、お兄ちゃんが真ん中。その隣がクロちゃん……でいい?」
何故かカムイの部屋まで決められるが、特に問題ないので了承する。
「問題ないです」
クロもそれで良かったらしく、階段を上って右の三部屋全てが埋まるという非対称な事になった。
「三階は今のところ物置かなぁ」
それを聞いたクロは何故こんなに広い家を購入したのか疑問に思ったが、コンセプト的に奴隷が増える事もあるかも知れないと考え何も言わなかった。
「じゃあ今日は一旦帰って、明日の引っ越しの準備でもしますか!」
突然の引っ越しではあるが、住んでいる場所が宿屋であるため物は多くない。そのため準備はすぐに終わるだろう。
三人は新居を後にし、宿屋に戻った。
ちなみにこの時、クロが珍しくご飯以外で「鍵、閉めてみたいです」と自分の意見を主張したため、扉はクロがしっかりと施錠した。
今日はダンジョンに潜らず一日お休みの日なのだが、カムイが宿屋に帰って来ると二人はベッドで寝転びながら思い思いに過ごしていた。
二人は帰って来たカムイを視界に収めると、さり気なくカムイが座る場所を空ける。
その生まれた空間に座ると、カムイは二人に向かって口を開いた。
「二人に今日は報告があります」
「どうしたの?」
「何でしょう?」
息のあった二人につい笑みをこぼしつつ、カムイは手の平に乗せた三つの鍵を見せて言った。
「家を買ってみました」
「……へ?」
「……え?」
その内の二つをハルとクロに渡す。
「これは家の鍵だから無くさないようにな」
「あ、ありがと……じゃなくてお兄ちゃん! どういう事なの!?」
ハルは驚き、クロは不思議そうに自分の手の中にある鍵を眺めている。
「いやほら、帰る必要が無いから余計なお金は不要かなって。それよりもやっぱり、安心出来る自分の家が欲しいなと思って」
「う……」
エルフィーの行動もカムイの決意も、ハルは全て聞いていた。しかしそれでもカムイがここに残る事になった原因は自分であり、自分の我がままでカムイがこちらの世界に残ったと思っているハルは、そう言われると何も言えなくなるのだ。
だが自分に相談してくれればいろいろと助けになったはずだし、お金も全てカムイに出させるような事はしなかった。そういった意味で不満があるのだが、それすらも言い難かった。
「クロはどうだ? 宿屋より断然広いと思うけど」
「……黒猫族は定住しないですし、奴隷でしたので鍵が不思議です……ずっと自由になるために欲しかったのに、この鍵は自由になるどころか私を縛るもので……でも、あったかいです」
奴隷時代、鍵とはつまりクロを入れている檻や手錠の事を意味する。それさえあればそこから逃げ出し、クロは自由になる事が出来た。しかし今回カムイが差し出した鍵は、キツイ言い方をするなら出入りが自由な檻の鍵だ。決してクロは自由になる事はない。
だけど檻とはいえ、同じ奴隷とはいえ、その意味合いは大きく変わる。
ハルの事は慕っているし、カムイの事もなんだかんだ言って好ましく思っている。少なくとも、主人がカムイで良かったと思う程度には。
クロのそんな独白に、カムイは家を買って良かったと思った。
「クロ……!」
感極まったカムイはクロを抱き締める。最初の方は唯一自由な口を使って可能な限り罵倒していたが、今は慣れたのか「仕方ないですね、この男は」といった表情で抱き締められるままにしている。
「クロちゃん……!」
特に何かあるわけじゃないが、ハルはその輪に入りたかったのか反対側からクロを抱き締める。
二人に挟まれながらクロはそっと溜め息を吐く。しかしその唇は、三日月のように弧を描いていた。
「じゃーん! ここが今日から我が家になります」
各種調味料、材料などの荷物は宿屋に置き、三人は新しい家に来ていた。
既に今日の分の宿代は払っているので、今は簡単に手荷物をまとめただけで本格的な引っ越しは明日になる。
「うわー……」
「おっきい、です」
三階建てのその家は、周囲の建物と比べて大きいわけじゃない。だがそれが全て個人の家というのは確かに珍しい。もちろん城内にある貴族の家はもっと大きいが、少なくともここら一体に三階建ての家を持っている人間は殆どいないだろう。
「しかもこれ、一階は……ほら」
「あっ、カウンターがある!」
解錠し扉を開くと、一階にはカウンターと年期の入ったテーブルがいくつか置いてあった。奥には厨房があり、昔は何か飲食店であった事が伺える。
「お店、ですか?」
「そうそう。地下もあって、温度が低いから簡易的な保管庫としても使えるんだ」
「地下まで……」
単純に凄い、と思うハルだが、そこである事に気が付いた。三階建て、地下一階。一階の厨房には各種設備が整っている……という条件の家が、カムイが持っていたお金で買えるわけがない。
「お兄ちゃん、どうやってここを買ったの……?」
「そうだなぁ、どこから話そうか……うん、まずは一つ。君たち二人には、ここで働いてもらいます」
「ここで、ですか。ご主人は料理屋を営むつもりで?」
その問いにこくりと頷くと、カムイは自分の荷物から首輪を二つ取り出した。
一つは赤色、もう一つは黒色の革で作られたしっかりとした高級品で、三十センチほどの革で編まれた鎖がぶら下がっている。
「コンセプトは『奴隷』だから、二人とも働く時はこれを付けてくれ」
「奴隷ですか……?」
クロはハルの方を見ながら首を傾げた。
「ハルは違うけど、まあそんなの当事者しか分からないしな」
「なるほど、です」
実際にクロが外を歩いた時、クロの事を奴隷と思う人間はいなかった。もちろん悪い意味で名が売れてるクロの事を知っている人間は多くいるが、誰も未だに奴隷であるとは思わず、奴隷商の冥福を祈った。
「んで、何で奴隷かと言うとだな……説明が長くなるから省くけど、奴隷制度を廃止したい人間から投資してもらうために、二人には奴隷として働いてもらうんだ」
「奴隷を廃止するために、奴隷……?」
「そう。すぐに奴隷制度の廃止は無理だから、せめて奴隷の立場を向上させようって話。俺がこの店で奴隷を雇って、食事や休息もきちんと取らせて給金まで支払う……っていうのを条件に、いくらか融資してもらったんだ」
「なるほど。だから私も首輪を付けるわけだね」
納得したのかハルは右手で左の手の平を叩いた。
「ちなみにエルフィーには半分くらい出してもらった」
「……お姉ちゃんが」
ハルはカムイの表情を恐る恐る伺うが、特に怒っている様子もない。ただし内心どう思っているかは分からないので、その事について言及する事は避けた。
「ちなみに二階が住居な」
階段を上って二階に向かうと、そこには左右三つずつ部屋があった。
「左右は違うけど、どれも間取りは一緒だから好きな部屋を選んでいいよ」
「じゃあ私が一番奥で、お兄ちゃんが真ん中。その隣がクロちゃん……でいい?」
何故かカムイの部屋まで決められるが、特に問題ないので了承する。
「問題ないです」
クロもそれで良かったらしく、階段を上って右の三部屋全てが埋まるという非対称な事になった。
「三階は今のところ物置かなぁ」
それを聞いたクロは何故こんなに広い家を購入したのか疑問に思ったが、コンセプト的に奴隷が増える事もあるかも知れないと考え何も言わなかった。
「じゃあ今日は一旦帰って、明日の引っ越しの準備でもしますか!」
突然の引っ越しではあるが、住んでいる場所が宿屋であるため物は多くない。そのため準備はすぐに終わるだろう。
三人は新居を後にし、宿屋に戻った。
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