魔法ゲーセン

やご

文字の大きさ
4 / 5

初仕事

しおりを挟む
講習の後、チンチラとパーティを組むことになった俺は、さっそく、依頼を受けることにした。

役所へ向かい、窓口に並ぶ。

「何の御用でしょうか?」
「講習を受けて来たので、依頼を受けに来たんですけど、どんなものがありますか?」
「左様ですか。でしたら、こちらに初心者向けの依頼が幾つか御座います」

言われて手渡されたものは、簡易な挿絵が施された書類だった。

討伐系、採集系、土木系があり、一番収入が安定しているものは土木系、討伐や採集は出来高による歩合制。

同じ歩合制でも、討伐は報奨金が多く、採集系は少ない。

ここら辺はオーソドックスなゲームと何ら変わりない。

ただ、このゲームは、普通じゃないということを売りにしている雰囲気があるので、予想以上にターゲットが強かったりするかも知れない。

ここは、チュートリアル系キャラのチンチラに話を聞くのが無難だろう。

「チンチラさんは、どれが良いと思う?」
「そうですね、オーソドックスに採集系の依頼一つと、討伐系一つにするのが無難だと思います」
「それなら、スライム討伐と、薬草の採集依頼にしようと思うんだけど、それで良いかな?」
「はい、それでいきましょう」

ラビットホールは、街、外郭部、外へと通じる抜け穴の三つで構成されている。

街の天井は、透過性のある石材で出来ており、街の外へ向かうには、外郭を通り抜け穴から這い出なくてはならない。

そして、穴をよじ登る為には、ロープを登攀しなくてはならない訳で…

「すいません…」
「そうだった、忘れててごめんなさいっ、キューブ!」
「うおおおっ!?」

先に上に登ったチンチラの発言と共に、俺は地面から押し上げられた。

これは…

「氷で出来ている…?」

講習では、火、水、風、雷、土の五属性だと習った筈だが、この魔術は氷で出来ている。

氷は水を固体に形態変化させたものだ。

そういった意味で応用が効くのか、それとも魔術によって形態を変化させることが出来るということなのだろうか。

しかし、この説明であれば、講習中に見た水属性の魔法剣は何故水のままだったのだろう。

「えへへ、見られちゃいましたね」

思考を巡らせていると、チンチラが応えた。

「この魔術、氷で出来ているけど、これって?」
「実は私、特異能力者なんです」

チンチラによると、この世界には五属性に分類されない属性の魔術を発動させる者がいるらしい。

そして、その多くが通常属性の魔術よりも強力な効果を発揮するそうだ。

ただ、属性そのものにより魔術の出力が変わる訳でないので、特異能力者よりも、単に強い魔力を持つ者の方が強いという説もあるという。

ここで、魔術について殆ど知らないことに気が付いた俺は、幾つか質問することにした。

まず、魔術の構成について。

魔術は魔道具によって発動出来るものが違うが、具体的な違いは三つの要素で説明される。

一つ、形状。

俺が所持しているリングソードは、文字通り剣の形で発動する。

対して、チンチラが発動したキューブは、正方形で発動する。

これは一番分かりやすい違いで、名称にも使われることが多い。

出力によって大きさを変えることはできるが、歪に歪めて別の物の形にしたり、細分化させて複数のものにすることは出来ない。

二つ、操作。

リングソードは、チェーンソーのように刃を回転することで、破壊力を増すことが出来る。

一方、刀身の射出や刀身そのものを浮かせたりすることは出来ないようだ。

キューブは、リングソードのように一部を動かすことは出来ないが、全体を浮かせて移動させるなど、大きな操作が出来るようだ。

三つ、範囲。

リングソードの回転は、術者の極近く、それも刀身から近い範囲にしか起こせない。

一方、キューブは、魔術の発動者からそれなりに離れていても可能だ。

魔術については、こんなもので良いだろうか。

ていうか、講師、適当すぎんだろ。

ホントに最低限のしか教えないつもりで、最低限のこと教えられてなくないか?

それとも、周りの仲間から話をきちんと聞かないとダメですよっていう、製作者からのメッセージなんだろうか。

それはさておき、話しながら移動していたから、距離の割に疲労は余り感じなかった。

道すがら、リングソードの挙動も確認出来た。

これで、準備万端だ。

さて、肝心のスライムと薬草の場所はというと…

「スライムは、食料になる栄養価の高い植物の側に群生していると言われてます」
「つまり、スライムの近くには薬草がある可能性が高いってことですね?」
「そういうことですっ!」

スライムはベチョリと広がっているみたいだから、群生しているなら、見つけるのは容易だろう。

ついでに、その近くにある草をちょいちょい採取すれば、薬草の依頼も熟せるという訳だ。まさに、一石二鳥。

「噂をすれば…アレがスライムですよ」

指差されたのは、半透明のヌルヌルした物体だった。

草を消化したのか、うっすらと緑色をしている。

わらび餅や水ようかんのようにも見えるが、微かにふるふると震えている気がする。

「じゃあ、さっそく始めますか」

近付くと、ビー玉のように小さく、キラリと光る核が見える。

「これを取れば良いんだよな…」

核をとると、僅かながらに纏りのあった体が、どろりと溶け出した。

「薬草もありましたよ~~」

チンチラも薬草を見つけたようだ。

随分とあっさりと作業が進む。

にしても、スライム自体はあまり強くないみたいだし、薬草の採取も難しくなさそうなのに、どうして、土木よりも稼げるのだろうか。

この程度なら、街の人がやっても問題なさそうだが…

そう思っていた、矢先のことだった。

「危ないっ、キューブッ!!」

冷たい氷塊に、弾き飛ばされる。

体は、そこらにいたスライム塗れだ。

一体何が…

聞こえたのは、何かが煽られる音。

それが、翼が羽ばたく音だと気が付いたのは、チンチラの出した氷塊のキューブに、三本爪の傷跡が残されていたからだった。

「怪鳥ハーピー…」

重く沈んで誰の声か、一瞬分からなかったが、それはチンチラの声だった。

「ふん、外したか」

もう一つの音源を見ると、そこには巨大な翼を持った、人型の怪鳥がいた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...