グランドダンジョンマスターは、ダンジョンを作らず、異世界をぶらり旅

小佐古明宏

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1章

1話 命名

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「ん~デザート! プリン! 甘くておいしい」

 朝食後に、買い置きしていたコンビニで買ったプリンを、彼女に渡した。美味しそうに食べる顔を見つつ、俺は話しかける。

「食べながらでいいから、自己紹介でもするか」

 今更だが、俺は赤色の少女が何者か知らない。見た目は…ファンタジーの世界に存在するスライムだと思う。しかも、スライム娘と呼ばれる者だ。俺の寝室には、異世界物の小説、コミックがたくさんある。

 知識として、知っているので、驚く事もなく、こうして、対応している。実は内心、テンションが高い。

 やべぇ! リアル、スライム娘キタ――(゚∀゚)――!!

 思わずニヤニヤが止まらない。

「うん、そうだね。私も気になっていた」

 プリンを食べ終えると、スプーンを置く。流石、スライム娘と言うべきか、カップにプリンの残りが無くピカピカになっていた。綺麗に食べ終えて、満足そうにしている。

「俺は、早乙女大和、28歳。社会人として企業に勤めている」

「そうなんだ。じゃ、大和…お兄ちゃん?」

「おう…それでいいぞ」

 やべぇ! お兄ちゃんと呼ばれて、ムズムズする。

「ええと、君は?」

「私は…スライムクィーン。マスターからクーちゃんと呼ばれてる」

「……もしかして、凄く強い?」

 クィーンと言うぐらいだから、並みのスライム娘ではない。

「ええと…マスターに仕えているよ? 従魔の1人として」

「……マジか?」

 従魔の1人という彼女に、思わず唖然とする。

「でも、クーちゃんは、種族名で、私には名前は無いよ」

「名前がないのなら、俺が付けてもいいか?」

「……それは、少し困る」

「どうしてだ?」

「名前は…魂に刻まれると、命名した人に従う必要がある。マスターにも正式に名付けて貰っていないのに、大和お兄ちゃんに付けられると、主導権が貴方に移ってしまう」

 マスターの事を慕っているように話す。

「そうか…でも、それは、元の世界に戻れたらの話だろ?」

「うぅ…確かにそうだけど」

 彼女が落ちた黒い歪みは、ラノベで良くある次元の歪みだと思う。それに呑み込まれたら、元の世界に戻る事は不可能に近い。主人公がチート持ちなら、元の世界に返る事は出来るが…。

「無理だよね~。私も、空間を越える魔法なんてないし…」

「それに、この世界には、魔法の源、魔素? の様な物は無いぞ」

「うん…全然、魔素を感じないよ。って、魔素なんて良く知ってるね?」

 不思議そうに首を傾げる。ラノベの知識を披露したら、本当に魔素が存在する世界から来たようだ。

「まぁ、ラノベによくある設定だからな」

「ふ~ん…そうなんだ」

 興味があるのか、本棚を目にする。

「文字とか読めるのか?」

「うん、スキルは発動してるよ。言語理解で、大和お兄ちゃんの言葉も分かるし、本棚の文字も読めるよ」

 ジッと見つめている。

「汚したりしなければ読んでもいいけど」

「いいの!」

「ああ…その代わり」

 やはり名前がないと呼びにくい。

「名前を付けていいか?」

「うぅ…名前がいるの?」

「ある方が、呼びやすい。ラノベを読むなら、名前を付けさせてほしい」

 無言で互いに見つめ合うと、

「はぁ…うん。分かった。可愛い名前を付けてね」

 了解された。しかも、可愛い名前を付けるように注文も受ける。

 可愛い名前な…クィーンからとって『クー子』にするか?

 脳裏に、赤毛のツインテールの少女が浮かんでしまう。

「いやいや、這いよれ! のあの娘と同じ名前はまずいだろ!」

「うん?」

「いや、何でもない。今、名前を考えているところだ」

 そういうと、笑みを浮かべて俺を見つめる。マスターと呼ばれる人からクーちゃんと言われているらしいが、

「クィーンに拘らなくていいよな」

 呟くと、ジッと、見つめている彼女に視線を向ける。愛らしい容姿をしている。クィーンと言う風格もなく、本当に可愛い。ポニーテールの髪の毛? が良く似合い、眼もぱっちりとして、微笑む顔に、思わずニヤニヤしてしまう。

「…奈々はどうだ?」

「数字の7?」

「いや、数字の7じゃなくて、奈々だ。早乙女奈々」

「お兄ちゃんと同じ名前?」

 首を傾げる奈々に俺は話しかける。

「ああ、俺の妹として、生活をしてもらおうと思ってな。多分…擬態? 変身? 人間のようになれるだろ?」

 スライムと言えば擬態や変身だ。捕食した者になる事が出来る。ラノベの設定でありがちだが、

「う、うん…なれるけど? 知識さえあれば」

 戸惑いながら答える。

「知識でいいのか? 捕食して、得たりしないのか?」

「そ、それも出来るけど。この世界で、捕食なんてしたら、拙いでしょ?」

「犯罪になるな」

 捕食すれば、証拠も無くなる。しかし、行方不明者として捜索願が出される。それに、捕食した者になると、知り合いに出会えば問題が起きる。

「一応、捕食の対象の記憶は引き継がれるけど、ここは私のいた世界と違うから、この世界の理に従うよ」

「わかった。知識でいいのなら、パソコンで調べるか」

「パソコン?」

 俺は不思議そうにする奈々を立たせると、ベッドの隣に並べたデスクの前に座らせる。ノートパソコンを起動させ、インターネットを開く。

「す…凄い…ねぇ! これって何?」

「これは、ノートパソコンで、今見ているのがインターネットだな。いろんな情報を調べる事が出来る」

 俺はアイドルと検索すると、写真の画像を表示させる。

「アイドルの写真を表示させたけど、これでいいか?」

「うん、これを操って、操作するんだね?」

「ああ、マウスでカーソルを合わせて左クリックな」

 実際にマウスを触らすと、物覚えがいいのか直ぐに操作に慣れていた。アイドルの写真を次々とみていく。

「自分で調べたいときはキーボードに入力だな。ローマ字入力だけど分かるか?」

「うん、何となく? わかるよ」

 両手の人差し指を伸ばして、1つ1つ入力する仕草が可愛らしい。真剣な表情で、笑うのは失礼なので、温かく見守る。

「ん? 昼前か?」

 いつの間にか11時半を回っている。結局、奈々が来た事で、朝食後に寝ようと思っていた事が出来なかった。

 昼食を作るか。

 1人の時は、面倒なので冷凍食品のチャーハンを温めるか、近くのコンビニで弁当を買って食べている。今日は、奈々がいるので、少し手を掛けてみる。夏場なので、冷たいそーめんを作る事にした。

 湯がいて、氷を入れたボールに漬ける。麺つゆもあるので、気軽にできる。トッピングとして、刻み海苔と、卵を焼いて細く刻んだものを用意する。

 キッチンで2食分を作ると、俺はリビングを通り、寝室へと向かう。古いアパートなので、寝室にしかクーラーが付いていない。普段は仕事でいないが、休みの時は寝室で寝ている。

「おまたせ…」

「どう! 大和お兄ちゃん!」

「うおぉ!?」

 襖を開けると奈々が飛び出してきた。その姿は、黒髪ポニーテールをしており、着ていた服が、アイドルグループのコスチュームになっていた。

「ネット? で情報を得たよ」

 嬉しそうに話す奈々に笑みを浮かべると、俺はそーめんの乗ったトレイをテーブルに置く。冷えた麦茶とコップ、麺つゆのボトルと小鉢を並べる。

「昼食を食べながら話そうか」

「うん!」

 向かいに座り、俺たちは食事をする。奈々にはお箸の代わりにフォークを用意した。スパゲティの様にフォークに包めて、麺つゆに漬けて食べていた。冷たくて美味しいと話していた。



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