グランドダンジョンマスターは、ダンジョンを作らず、異世界をぶらり旅

小佐古明宏

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1章

2話 召喚

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 食事を済ませ、一服で麦茶を飲みながら奈々の話を聞く。

「情報と言うのは、この世界の服装の事か?」

「うん。着せてもらっていたTシャツ? これは返すね」

 そう言いながら、俺が渡したTシャツを返してきたが、予備で持っていた方が良いと伝える。分かったと返事をすると、目の前からTシャツが消える。

 アイテムボックスのような物か?

 と思いながら、奈々を見つめる。

 どうして奈々は服を着ている? 

 尋ねると、それは、擬態により形成したからだと話す。

「普段、私は服なんて着ないから、擬態するのに情報が必要だったの」

 奈々は、向こうの世界だと裸らしい。もともと、モンスターとして、マスターに仕える身で、服は着ていないと話す。

「それで、さっきから言っているマスターってなんだ?」

「マスターは、ダンジョンマスターの事だよ。私は、ダンジョンのDPガチャ? で生まれたの」

 ダンジョンと言う言葉に思わず心が弾む。俺は、異世界のラノベ、コミックを読むとき、話の中にダンジョンが登場する物を選ぶ。ダンジョンの運営、攻略に興味があり、楽しそうだと思っていたからだ。

「ガチャか…それで、奈々は、スライムクィーンだろ? もしかして凄くレアなのか?」

「そうだよ。私はSSレア? って呼ばれるらしいよ。でも、マスターの運気はそれで終わったみたい」

 最初の無料DPガチャで奈々を引き当て、その後、有料ガチャを引いたけど、レアしか出なかったらしい。

「流石に、消費が激しいから、止めたよ」

「そうだな、ガチャの罠にはまるのは良くない」

 俺もソーシャルゲームの課金ガチャにはまった事がある。ほしいアイテム、装備が出るまで回した。今は、仕事が忙しく、ゲームをする時間はない。毎日ログインボーナスも連続日数が消えて、放置気味になった。

「それでマスターは、DPを得るために、ダンジョンを大きくして、世界一の難攻不落のダンジョンを生み出したの。世界中にサブダンジョンを作り、メインのこの場所へDPを供給してたんだよ。10連ガチャの為にね」

 苦笑いを浮かべて話す。流石に、何回も回すから、1日1回だけと、ルールを設けてガチャの回数を決めたらしい。奈々はダンジョンの立場的にモンスターを管轄するリーダーであり、マスターの保護者らしい。何振りかまわずDPを無駄遣いするので、奈々が注意して管理をしているそうだ。

 実質、世界一のダンジョンになったのは奈々のおかげかもしれない。

「大変だな。ダンジョンの運営も」

「うん、でも楽しいよ」

 そう言いながら麦茶を飲む。スライムの状態と違い、人間になっている。喉を鳴らし美味しそうに飲んでいた。

「おかわりいるか?」

「うん、冷たいのがいい」

「わかった」

 容器に入れていた麦茶を全部飲みほしたので、冷蔵庫から次の奴を出してくる。そう思い、椅子から立ち上がると、

「!?」

 なんだ?

 ゾワッと寒気の様なモノを感じた。

「大和お兄ちゃん!」

 席を立つと奈々が俺にしがみついてきた。刹那、足元から閃光が発せられ、俺は目を瞑った。俺にしがみつく奈々の温もりを感じ、意識を失う。

                *

「んあぁあ……」

 微かに聞こえる呻き声と、柔らかい感触に俺は目を覚ます。

「うぅ…どいてほしいよ」

「!?」

 俺は慌てて起き上がると、床に赤い水溜まりが広がっていた。まるでベッドの様に広がっていたのは、

「うん、怪我も無いようだね」

 奈々だった。人の形に戻ると、黒髪ポニーテールの姿になる。着ている衣装は何故か、夏服のセーラー服へと変わっていた。

「どうしたんだその姿?」

「え? 大和お兄ちゃんと揃えたけど?」

 俺は不思議に思い、自分の身体を目にする。

「はぁ? なんだこれ?」

 部屋着ではなく、黒いズボンに、半袖のブラウスを着た学生服の様な物を着ている。それに、なんだか、体が小さくなっているような気がした。

「多分、若返ってるかも?」

 奈々は、空間に腕を伸ばし、何かを取り出した。鏡だ。俺は受け取ると、鏡を見て絶句する。

「おいおい、この姿。10代の時の姿だぞ?」

 学生時代に見ていた姿と同じだった。

「そうだね。大和お兄ちゃん? じゃなくて、大和君って呼んでいい?」

「あ~奈々と変わらない年齢になったからな」

 奈々はセーラー服を着ているが、年齢は俺と同じに見える。何故か嬉しそうにする奈々を見つめ、俺は周りの状況を確認する。俺たちは、何故か玉座の前に倒れていた。

 見上げた天井には大きなシャンデリアが煌々と輝き、俺たちを照らしている。ふと、足元を見ると、魔方陣のような物が描かれていた。

「誰かに召喚でもされたのか?」

「そう…かもね」

 そう言いながら、奈々は淡く輝く玉座の前に歩み寄る。さっきまで、主がいたように、傍にテーブルが置かれ、何か手紙が乗せられていた。その手紙を手にして奈々が小さく震えだす。

「マスター…」

「マスターって、ダンジョンマスターの?」

 振り開けると涙目で頷く。奈々は手紙を開き読むと、俺に内容を教えてくれた。

「マスターは、私をこの世界に戻そうとしたみたい」

 どうやら、この場所は奈々のいた世界らしい。

「と言う事はダンジョンの中か?」

「うん、ここは私のいたダンジョンの、管理区画だよ」

 管理区画と言う事は、ダンジョンの中枢部。俺は、玉座の上にある壁面を目にする。

「じゃ、あれがダンジョンのコアか?」

「そうだね。ダンジョンのコアだけど…あれ?」

「どうした?」

 見上げていた奈々が俺の方を振り向く。

「大和君、メニューオープンって言ってみて」

「あ? おう。メニューオープン」

 言われた通りにすると、目の前に半透明の画面が浮かび上がった。ゲームのメニュー画面の様に見える。

「見えた?」

「ああ、見えたけど?」

「そう…なら…」

 奈々は向き合うと膝を付き、

「新たなマスター、大和様。私の主人。今後も、末永くお願いします」

 困惑する俺は、奈々の言葉に意味を直ぐに理解する。

「もしかして、俺、ダンジョンマスターになったのか?」

「うん、大和君が私の新しい主人だよ。名前も付けてくれたし、初めからダンジョンの所有物の一部として認識されたの」

 何故、ダンジョンマスターになったのか?

 その理由は、奈々の持つ手紙に書いていた。

 奈々の前のマスターは、彼女を見つける為に場所を感知する魔道具をDPで購入したらしい。奈々が異世界、つまり、俺の住んでいる地球にいる事が分かり、異世界人召喚を行った。

 足元にある魔方陣が、異世界人を召喚するモノらしい。今は稼働を停止している。この魔方陣、ダンジョンメニューを開き確認したが、凄く高価な代物だった。

 100億DPとか、マジか?

 絶句する程のDPの多さに俺は言葉を失う。しかも、起動に膨大な魔力が必要との事だ。

「マスターは、自身の魔力と命を引き換えに、魔方陣を起動させたみたいです」

 ダンジョンマスターが死ぬと、ダンジョンコアも死ぬ。その意味を理解しながらも、この魔方陣を発動させた。その結果、マスターは死んで、ダンジョンも崩壊した。

 今、管理区画が残っているのは、この魔方陣を設置しているかららしい。解除するとこの場所も消える。

「でも、ダンジョンコアが死んだというのなら、あの壁面の奴はなんだ?」

 玉座の上部の壁面に輝く丸い石。どう見てもダンジョンコアだ。

「ダンジョンコアも、死ぬのは嫌らしいよ。多分、召喚させたときに、私をマスターにしようとしたみたい」

「でも、俺がマスターになっているけど?」

「うん、だって、大和君。私に名前を付けたでしょ? だから、私は大和君の従魔になったの。従魔はマスターにはなれない。だから、ここへ呼ぶ時、大和君も巻き込んだ」

 なるほどと納得しながら、俺はダンジョンコアを見る。申し訳なさそうな気持ちが俺に流れてきた。

『ごめんなさい』

 頭の中に声が聞えた。

『ダンジョンコアか?』

『はい。貴女を巻き込んでしまいごめんなさい』

 謝罪を受けるが、俺は気にしないように伝える。

『ありがとうございます。マスター』

 微かに喜んでいる気がする。俺は、コアを見上げて、ある事に気が付く。

「奈々、コアって、名前はないのか?」

「うん? 普通にコアって呼んでるよ」

 なら、名前を付けてもいいか?

 何となくそう思い、俺はダンジョンコアを見上げる。

『名前を付けていいか?』

『はい? マスターが望むなら?』

 拒否するわけも無く、名前を付けて良いと話すので、

『じゃ、マリ、だな。よろしく』

『マリ…それが私の名前…』

 俺がダンジョンコアに名付けた瞬間、コアから閃光が放たれ、思わず目を瞑る。奈々の小さな悲鳴が聞こえ、目を開けると、白いボブカットをした愛らしい少女が、立っていた。しかも裸だった。



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