グランドダンジョンマスターは、ダンジョンを作らず、異世界をぶらり旅

小佐古明宏

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1章

15話 奴隷商人たちの最後

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 エルジーナ大森林に住む獣人の村を襲撃する。村から町へと発展した事を知らない奴隷商人一行たち。

 ラストリアのギルドで依頼を受けた冒険者は、ランクも高く、全体的にレベルも高かった。中にはA級の冒険者も交じり、獣人が相手でも問題がない実力を持っていた。

 そんな一行は、奴隷の獣人をとらえる為に、ルイズ村、否、ルイズ町へと向かっていた。エルジーナ大森林はエルフと妖精が住む場所。その中に獣人が隠れ住んでいる。しかし、ルイズ町は隠れてはいない。

 町への道中は道が整備され、ラストリアからでも行き来が可能だった。ルイズ町曰く、ラストリアから同胞が逃げて来れるように整備したという話だ。綺麗に敷かれた石の道。

 この道も実は、リーシャの作った小さい石板を敷き詰めたオブジェクトの一部だった。年月が経っても風化しない。不思議な道だと言われている。当然、整備されていれば、襲撃もしやすい。

 道の整備を提案したのは奈々で、彼女はこの道を通り、やってくる奴隷商人と、冒険者を襲撃していた。奴隷を運ぶためには馬車が必要、その馬車が通れるほどの道と言えば、この整備されたところ以外ない。

「やっと、行けますね」

 この集団のリーダーは、奴隷商人の1人だ。ラストリアへ、多くの奴隷を送り込んでいる元締め的な立場の人物で、自分から奴隷の捕獲に動くような人物だった。

「本当に、大丈夫なんですね?」

「大丈夫ですよ。皇帝様からの情報で、カサンディアのダンジョンは消滅しました。ダンジョンに所属していたモンスターたちも消えたと聞いてます」

 ラストリアのダンジョンマスターの使者が、カサンディアのダンジョンの消滅を伝えて、国全体が動き出した。その1つが、亜人の捕獲だ。奴隷商人のリーダーは、個人で、亜人をとらえる為に、活動していた。

 しかし、赤い悪魔に邪魔をされていた。赤い悪魔とは、全身が赤い体をした少女で、攻撃が一切通じない化け物だった。その赤い悪魔とは、奈々の事だが、リーダーの男は、彼女の名前を知らない。

(赤い悪魔の目撃も途絶え、消えたという話だ)

 個人で持つ情報網からでも、赤い悪魔は死んだと言われていた。実際は死んでおらず、奈々という名前の黒髪の少女に擬態しているが、その事は伝わっていない。

「うん? どうかしたのかね?」

 前を歩いていた冒険者が足を止める。刹那、右の森で大きな爆発が起きた。盾を持つ冒険者が、一斉に右側へ集まり、奴隷商人たちの馬車を守る。

「な、なんだ?」

 困惑するリーダーの男は、馬車の上から森を見つめる。何かが森から飛び出したと思うと、空中で打撃音が響き渡る。

「人か?」

 男の目に映ったのは、黒髪の少女と、白い長い髪をした女性が、空中で殴り合っている光景だった。少女の方は、身に着けている衣服は綺麗で、体には傷がない。女性の方は、身に着けている衣服がボロボロで、元がどんな衣服だったのか分からない程だった。傷がある様だが、直ぐに回復していた。

 女性は、恥ずかしい部分が見えそうで、リーダーの男は目のやり場に困りつつも、その美貌に見とれてしまった。

(美しい…)

 長い白い髪が靡く。白い尻尾に、白い耳が特徴で、女性が獣人だと理解した。スタイルもよく、リーダーの男は、彼女を欲しいと思ってしまった。

「はぁあああ!!!!」

「あまいよ~」

 空中での殴り合い、空に浮かんだ状態だったが、女性が仕掛け、少女に吹き飛ばされた。実力が少女の方が上、リーダーの男は、落ちていく女性を心配そうに見つめた。

 女性が落ちた衝撃で土煙が起きる。その中へ向けて、空に浮かんでいた少女が右手を伸ばす。

「魔闘弾だよ~」

 聞いた事のない魔法? を唱えると、少女の右手に光る球体が生まれ、それを、土煙へと向けて撃ち出した。大きな爆発が起き、爆心地の森が吹き飛んだ。リーダーの男の元へも、突風が吹きこむ。

「り、リーダー…どうします?」

 冒険者を束ねる男が怯えながら聞いてきた。

「……見つからない様に…」

 逃げましょう。そう言おうとしたら、空に浮かんでいた少女がこちらを見ていた。満面の笑みで見つめているが、悪寒を感じる。死を直感的に感じた。

「ぜ、全員…街へ!」

 リーダーの男は馬車を反転させ、道を引き返す。2人の奴隷商人も同じく後を追い、歩いていた冒険者たちも、逃げていく。

(あれは…あれは…悪魔だ…)

 リーダーの男は、赤い悪魔を思い出した。あの顔…黒髪の少女が、赤い悪魔の少女と類似していた。赤い悪魔=奈々だと、リーダーの男は直感で分かった。

「生きていた…化け物が、化け物になって…」

 赤い悪魔から、黒い悪魔へとグレードアップした奈々は、逃げるリーダーの男を追いかけるように、道のど真ん中に降り立った。馬車を止めると、リーダーの男は、冷や汗を流す。

「おじさん」

「な、何かな?」

「奴隷商人?」

「い、いや…違うよ」

 否定しているが、馬車の荷台には檻が積まれている。獣人を捕らえて入れる為の檻だ。

「ふ~ん…そうなんだ」

 ジト目で睨まれ、リーダーの男は死を感じた。

「ぐあぁああああ!!!!」

「ぎゃあああ!!!!」

「く、くるなぁああ!!!!」

 後ろから爆発音と悲鳴が聞こえる。

「あら~もう来たよ」

「ナナ!!!! 良くもやってくれたな!!!!」

 馬車の上を飛び越えて目の前に降り立ったのは…。白い肌をした、白い長い髪をした獣人の女性だ。しかも、全裸で、目の前にお尻から生えた尻尾が揺れていた。引き締まっているお尻は、美しく、リーダーの男は目を奪われる。

「ガーラも頑丈だね」

「ふっ…体のつくりが違うからな」

(確かに、綺麗な体をしている)

 2人の会話を聞きながら、握る手綱に力が入る。この状況、どう切り抜けるべきか? 考えが思いつかない。

「ん? 何か視線を感じるな」

 振り返って女性の大きな胸がプルンと揺れる。下半身の部分は、体毛で覆われて、恥ずかしい部分は隠れていた。

「なんだ? 商人か?」

「あ…はい…」

 思わず返事をすると、血の気が引く。女性の視線が積まれた檻に向けられていた。

「そうか…お前たちが…奴隷商人たちか」

 女性の体から、光の靄が噴出すると、全身が金色に輝いた。白い長い髪も、金色に変わり、靡く。

「仲間を捕まえていた…奴隷商人か」

 女性が歩くたびに、地面が割れる。素足の足型を作り、亀裂を生みながら、近づいてきた。

「あぁ…」

 目の前まで来る。リーダーの男は馬車を乗り捨て、走って逃げようと女性に背を向けた。

「ぎゃぁあ……」

 後頭部を女性に捕まれる。ミシミシと握られと、頭蓋骨がひび割れたような音が聞こえる。

「奴隷商人は…すべて死ぬべし」

 その言葉を聞き、リーダーの男は、頭をスイカの様に握りつぶされ、命を落とした。ガーラの手で、奴隷商人3人、護衛の冒険者50人、帝都から派遣された魔導士2人が亡骸へと変わった。

 容赦のない殺戮に、奈々は苦笑いを浮かべ、空を見上げた。誰かに話しかけるような仕草をすると、怒りに狂うガーラに近づく。

「とりあえず、寝てね」

「あん?」

 奈々の強烈なパンチを腹部に受け、ガーラは気絶した。全滅した奴隷商人一行は、奈々のアイテムボックスに馬車と遺体が収納された。馬は3頭、生きていたので、気絶したガーラを乗せ、奈々はルイズ町へと帰還した。
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