グランドダンジョンマスターは、ダンジョンを作らず、異世界をぶらり旅

小佐古明宏

文字の大きさ
17 / 23
1章

16話 ノエルの使者

しおりを挟む
 奈々とガーラを追いかけていた俺たちは、整備された道を走っていた。

「リーシャ、この道もオブジェクトだな」

「そうね。奈々と配下のモンスターに命じて整備させたわね」

 ルイズ村が発展すると予想していたリーシャは、奈々と配下のモンスターに道を整備させた。森の中は、細い山道があるだけで、馬車が通るような状態ではなかった。

 それを敢えて、馬車が通れるように道を整備したのは、誘い込むためだと話す。

「整備された道なら、馬車が走れるでしょ? 奴隷商人も来るじゃない」

 ルイズ村を囮に奴隷商人と冒険者を誘い込んでいた。奈々に襲わせ、恐怖を植え付け、村へ手出しをしない様に促した。結果、奈々は赤い悪魔と恐れられ、整備された道を、奴隷商人が通る事は無くなった。

 奈々が赤い悪魔って…。

 赤い彗星や白い悪魔と言われないだけ良いか? 

 苦笑いを浮かべていると、遠くで爆発音が聞こえる。ちょうど右向かい側の森の中で土煙が上がった。森を破壊しての、奈々とガーラのバトル。思わず呆けてしまう。

「森、壊して大丈夫か?」

「マスター、森にはエルフと妖精が住んで居ます。大丈夫ではないです」

 マリの言葉に、リーシャが肩を落とす。

「エルフでしょうね。数名が接近しているわ」

「それで?」

「闇魔法で鎖を作って縛って、拘束して放置ね」

 リーシャ、恐るべし。

 彼女は感知範囲なら正確に魔法を使えるようだった。超範囲魔法攻撃を行った時と違い、殺生力のない拘束する魔法。大魔導士の称号に相応しい実力だった。

「妖精は、臆病だから出てきてないわね」

「まぁ…後でエルフに謝罪をするか」

「それがいいわね。面倒ごとは、避けるべきね」

 その面倒ごとは今も拡大している。

「とりゃあああああ!!!!」

「よっと!」

 ガーラと奈々が空中戦をしている。

 人って、飛べるんだ~。

 異世界だから、飛べるんだろう。そう思いながら、戦闘民族同士の戦い顔負けの殴り合いをしていた。戦況は、奈々が圧倒的に有利で、ガーラが押されていた。

「装備もDPガチャ産だし、負けるわけないわね」

 選んだ張本人、リーシャが満足そうに頷く。遠目で見ていると、ガーラの姿が…ヤバくなっていた。

「体は傷ついていないけど…」

「服がボロボロね」

 目の前で布の切れ端が舞う。奈々の攻撃を受けて、衣服がボロボロになって裂けていた。面積を失い、次第に肌の露出が増える。

「マスター…ガン見しすぎです」

「本当に、男って…」

 俺は顔面をリーシャの闇魔法で目隠しされる。

「しょうがないだろ、気になるんだから」

「だからって、ガン見するな、エッチ!」

 リーシャが俺の背中を叩く。別に痛くない、手加減した一撃だ。多分、顔を赤くして怒っているのだろう。

「あっ? ガーラが吹き飛ばされたわ」

 闇魔法の靄が消える。空中に奈々が浮かんでおり、ガーラが見当たらない。

「思いっきり、東へ吹き飛ばされたわね」

『追いかけるね!』

 奈々の念話が届くと、爆音を鳴らし空を飛んで行った。見えなくなる。

「空、飛べるって凄いな」

「装備に付属したスキルね。格闘着の帯、アレに飛行術が付与してたわ」

 俺は物欲しそうにリーシャを見つめる。

「何よ、大和も空を飛びたいの?」

「ああ…飛んでみたい」

「はぁ…しょうがないわね。飛べる装備、探しておくわ」

「ありがとう」

 頭を撫でると、子ども扱いするなと、手を叩かれる。

「マスター…気づいてますか?」

「うん? あぁ…魔力だろ? 何か凄いのが…」

『凄いとは私の事ニャン?』

「「「!?」」」

 可愛くニャンと語尾を付ける存在。それが傍にいる。俺は感知をフルに使うが、どこにいるか分からない。

「ニャン? その声、ホワール?」

『ニャ? その声、カサンディアのダンジョンマスター……ニャン?』

 ストンッと目の前に白い猫が1匹現れる。どこにいたのか? 分からない程、突然現れ、俺は警戒する。しかし、リーシャとマリはどこか、嬉しそうに微笑んでいた。

「知り合いか?」

「ええ、ノエルの配下、ホワールよ」

『ニャ~生きていたニャ~』
 
 リーシャに飛びつくので、彼女は白い猫を抱きかかえる。

「おかげさまで、でも、マスターは私じゃないわよ」

『ニャ? そうニャ…ダンジョンマスターは、ダンジョンの外へ出る事が出来ないニャ?』

 リーシャを見つめる白い猫、ホワールは不思議そうに首を傾げる。

「今のマスターは彼です」

 マリが俺を示す。ホワールは、リーシャの手から飛び降りると、地面に着地し、俺を見上げる。

『ダンジョンマスター? でも、おかしいニャ? 外に出られないニャン?』

「俺はイレギュラーな存在だからな。外に出ても大丈夫だ」

『そうニャン? それは、ご主人様が羨ましがりそうニャン』

 ご主人様とはノエルの事だ。

「で、ホワールはどうしてここに来たのよ?」

『ご主人様の命令で、奴隷商人たちを追い払いに来たニャン』

「そう…あの娘、約束を覚えてたんだ」

 懐かしむように笑みを浮かべる。

「ノエルと知り合いなのか?」

「ええ、彼女とはフレンド登録をしていたわ。ダンジョンメニューにフレンドリストってあるわよ」

 ダンジョンメニューを開くと下へスライドする。フレンドリストという項目が出て来た。

「ダンジョンマスター同士、フレンド登録して情報交換をするのよ。私は、ノエルしかフレンドはいなかったけど」

「……ボッチか」

「ち、違う!!!!! 彼女しか、相手しなかったの!!!!」

 否定する。ラストリアのダンジョンマスター、龍王はリーシャからすれば、ライバル。悪く言えば敵だ。アルゼンのノエルは年齢も近い事から、仲良くなったらしい。

 ノエルは父親の教え子だと、話した。海底ダンジョンの海王も、魔族の大陸の魔王も、リーシャは会っていない。寧ろ、関わるのが面倒でしなかったようだ。

「それで、ホワール、ノエルに私が生きていた事、話すの?」

『話すニャン、拙いニャン?』

「……今は知られたくないわね」

「ラストリアに知られたくないからだ」

 リーシャが生きている事は内緒にしてほしい。そう伝えると、ホワールも了解してくれた。

『それじゃ、オイラは帰るニャ。奴隷商人も片付いたニャン』

 ホワールと話している時、前方で大きな爆発が起きた。遠目で見えた土煙、同時に念話が届く。

『奴隷商人見つけたよどうする?』

 奈々からだ。俺は、彼女に指示をする。

『足止めでいいじゃないか? 多分、ガーラか片付けるだろ?』

『分かった』

 そう話すと、無数の気配が消える。

『ニャ~片付いたニャ~』

 前足で顔を洗うと、ホワールが背伸びをする。

「帰るのか?」

『ご主人様に、獣王が奴隷商人を倒したと伝えるニャ』

 俺の問いにホワールが2足で立ち上がる。思わず驚く。

『じゃ、また来るかもしれないニャ~』

 器用に前足を振りながら、ホワールの体が霧のように消えた。

「ふぅ~いつの間に、強くなったのよ」

「あの猫、相当強いのか?」

 溜息を吐くリーシャは、肩を落とし答える。

「私より高いわね。レベル9000ぐらいじゃない?」

 平然と言う事に思わず絶句する。

「マスター、2人が帰ってきました」

 視線を向けると3頭の馬を引き連れた奈々が歩いて来る。馬の背中に、素っ裸のガーラが乗せられており、思わず視線を逸らす。逸らした先でリーシャと目が合い、ジト目で睨まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...