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1章
19話 生き残りの王族
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ボク、アイリ・リクシードは奴隷商人を率いる冒険者の中に混じり、目的の場所へと向かっていた。獣人の村、そこへ行く依頼を探しており、ボクは護衛の依頼を受けた。因みに、ボクは女の子だけど、男装をしている。
男装をして混じっているには理由がある。女の子だと分かれば、このゴロツキ共の牙に掛かるからだ。関わる事なく最後尾を歩く。冒険者はというより、傭兵やゴロツキの集まりだ。
実際、集められたのは実力のある者で、冒険者はごく一部。殆どが、奴隷商人が所有する者たちだった。
腰に剣や斧をぶら下げ、あるいは槍を持っており、装備は不揃い。ボクから見れば全員、レベルが低く見える。それでも、数が多く、全員を相手にするのは無謀だと考えた。
隙があれば…。
ボクがこの依頼を受けたのは、獣人たちを救うためだ。ボク自身、獣人たちと関りはないが、同じ亜人として無視できなかった。
そう、ボクは吸血鬼と呼ばれている。只、日光を浴びても灰にならないのは、ボクが半分、人間の血が流れているからだ。半吸血鬼、人間と吸血鬼のハーフで、ボクは人間の血が多く流れている。
その為、日光を浴びても平気だ。吸血鬼としての能力は低く、傷が癒えるのが早い事と、身体能力が高い事だけだった。魔法は…苦手だ。使えなくはないが、弱かった。
こんな、ボクでも、邪魔をすることぐらいは出来る。獣人たちを襲う時、ボクは背後から彼らを襲う。そう思い、最後尾を歩いていた。
「村に着いたらよぉ、お前はどうする?」
全体的に薄汚れた装備を身に着けた男に、話しかけられた。
「…特に、只仕事をするだけだが?」
臭い息で話しかけてくるな。そう思いながら、ボクは応える。
「そうかい。女に手をださねぇのか」
「おいおい、一応、商品だぜ? 手を出すのはまずいだろ?」
「そうか、味見ぐらいは許されるだろ」
「だと良いがな」
ガハハっ、とボクに話しかけてきた男と違う男が下品に笑う。
イラっとした。今すぐ、斬り殺したいと思ったが、ボクは我慢する。
「うん?」
歩いていると、右側で大きな爆発が起きる。その爆発に反応して、冒険者が動き、盾を持つ者が、馬車を取り囲む。ボクも一応、不審に思われない様に混ざる。
な…何?
直感的に、ボクは怯えた。何か良くないモノがある。そう思っていると、目の前で2つの影が飛び上がる。見上げると、黒髪の少女と、白い長い髪をした女性が空中に浮いていた。
「……獣王?」
白い長い髪をした女性。彼女に見覚えがあった。嘗て、ボクの一族が治めていた国に住んで居た。今は滅んで、ラストリアの一部となっているが、ボクの一族は、エルジーナ大森林に隣接した場所に、小さな国を築いていた。
名を、リクシード王国。魔族の住む大陸からやってきた、吸血鬼の一族が住んで居る国だった。吸血鬼と言っても本家は、ボクの父親、王だけで、他は半吸血鬼だった。父親曰く、その地域の女性を全て娶り、生ませ、子供を誕生させた。
その子供たちが家臣や配下となり、国の政治を任されていた。勿論、元から住んで居た人間も国民として受け入れていた。恐怖政治はせず、人間と共存する道を選び、平和に暮らしていた。
それが、100年前に、ラストリアのダンジョンマスターにより滅ぼされた。サブダンジョンを作られ、ダンジョン内のモンスターが外へと出て来た。スタンビートを発生させ、国を滅ぼした。
多くの犠牲者を出し、その中に、一族も含まれていた。父親はボクと母親をカサンディアへ逃がし、囮になり亡くなった。成るべく人間に被害が出ない様に、半吸血鬼たちは戦い、最後は降伏した。
ボクは18歳だが、実際はもっと長く生きている。女性に年齢を聞くのは失礼なので、実年齢は伏せておく。
「すごい…」
唖然として見つめる先で、少女と獣王が空中で殴り合いをしている。獣王の強さをボクは知っている。彼女と戦った事がある。ボロ負けした。それほどの実力を持つのに、少女に一方的にダメージを与えられている。
「はぁあああ!!!!」
「あまいよ~」
空中での殴り合いは、双方に決定的な一撃を与えられずにいた。そんな中、獣王が仕掛け、少女に吹き飛ばされた。実力が少女の方が上で、獣王は空中から地面へと叩きつかれた。
生きてるだろうか?
ボクは獣王が心配になった。彼女が落ちた衝撃で土煙が起きる。その中へ向けて、空に浮かんでいた少女が右手を伸ばす。
「魔闘弾だよ~」
聞いた事のない魔法? を唱えると、少女の右手に光る球体が生まれ、それを、土煙へと向けて撃ち出した。大きな爆発が起き、爆心地の森が吹き飛んだ。
「きゃああ…」
恥ずかしながら悲鳴を上げる。可愛らしい悲鳴だったので、周りに聞かれていない事を祈る。突風が引くと、周辺で静寂が広がる。奴隷商人の男が撤退を命令した。
馬車を反転させボクの前を掛けていく。ちらっと見た横顔は凄く、蒼褪めていた。後を追うように、2台の馬車が付いて行く。残された冒険者たちは、一瞬唖然とするが、我に返ると逃げるように、馬車を追いかけていく。
ボクは逃げずにその場に残った。
「がるうううう!!!!!」
「!?」
背後で、凄まじい殺気を感じ、振り返ると、獣王が立っていた。戦闘により、衣服が吹き飛び、素っ裸だ。ボクはその傷1つ無い、綺麗な体、スタイルのいい体に見とれてしまった。
「ぐらああああ!!!」
突如、雄叫びを上げると、全身が金色に光り出す。そのまま、鋭い眼光で睨むと駆け出し、ボクの横をすれ違った。
「あぁ…」
首に痛みを感じると、血しぶきが飛ぶ。爪を赤く染めた獣王が目の前を通り過ぎると、ボクは意識を失った。静かに息を引き取った。
*
「あれ?」
気が付けば、ボクは物置のような部屋で目を覚ました。死んだはずなのに、生き返った? 不思議に思っていると、
「おはようでいいか?」
「はい?」
声を掛けられる。黒髪をした青年で、隣には同じく黒い髪をした少女が立っていた。少女は、獣王と戦っていた娘だった。
「悪い事をした。すまない」
謝罪を受けて振り返ると、獣王が頭を下げていた。ボクは困惑していると、全身黒い衣装に身を包んだ少女が何かを差し出す。
「まずは着替えをした方がよろしいですよ」
「そうだな。血で汚れているからな」
言われてみて、ボクは自分の体を見る。首を切られた事で首周りから上半身へと血で染まっていた。着替えを受け取ると、黒い衣装に身を包んだ少女に連れられて倉庫を出ていく。
浴室へと案内される事となった。ボクは裸になると、首を押さえる。
「傷…消えてる。それに…」
絶対に治らない筈の、呪いによる傷が消えていた。腹部にあった切り傷は、呪いの剣で斬られ、回復魔法も、回復薬も効かない傷だった。それが、無くなっている事に、ボクは涙を流す。嬉しかった。
暫く、シャワーを浴びて落ち着くと、ボクは渡された着替えを着て、廊下へと出た。ボクを案内してくれた、黒い衣装を着た少女に連れられ、応接室へと行く。
そこでは、先ほどの黒髪の青年と少女。青い髪をした少女がソファーに座り待っていた。テーブルの上には紅茶と、見た事のないお菓子が置かれていた。
「初めまして、エステート王国のお姫様」
「!?」
ボクの過去の身分を知る。思わず、黒髪の青年を睨むと、青い髪をした少女に威圧を掛けられる。その圧倒的な強さに、ボクは体をすくめた。
「リーシャ、怯えさせるなよ」
「なによ。大和が行き成り、秘密を暴露するからでしょ」
「いや…そうだけど」
ジト目で睨まれ、大和と言われた青年は苦笑いを浮かべていた。
「あ、自己紹介をすると、俺が大和、で、こっちが奈々、このちびっ子がリーシャで、後ろに立つのがマリだな」
「私の事は…別にいいか? アイリ姫」
「……ガーラ姫ですね」
ヒスイ色の瞳で見つめる。シャワーを浴びる時に、束ねていた髪をほどき、胸のインナーも外しているので、今のボクは女だ。だから、姫と言われても違和感はない。しかし、それは過去の話。
「ボクは…もう、お姫様じゃないよ」
国が滅んで、姫と呼ばれる資格はない。
「「「「「「…………」」」」」」
沈黙が流れる。誰も話さなくなり、重たい空気が漂う。その空気の中、大和と名乗った青年が口を開き、ボクに聞いてきた。
「アイリと言ったな。どうだ? 俺の配下にならないか?」
思わず唖然とするが、そんなボクに大和は説明してくれた。配下になれば、力が手に入る。その代わり、やってもらう事がある。ボクはその条件を受け入れると、彼の配下となった。
男装をして混じっているには理由がある。女の子だと分かれば、このゴロツキ共の牙に掛かるからだ。関わる事なく最後尾を歩く。冒険者はというより、傭兵やゴロツキの集まりだ。
実際、集められたのは実力のある者で、冒険者はごく一部。殆どが、奴隷商人が所有する者たちだった。
腰に剣や斧をぶら下げ、あるいは槍を持っており、装備は不揃い。ボクから見れば全員、レベルが低く見える。それでも、数が多く、全員を相手にするのは無謀だと考えた。
隙があれば…。
ボクがこの依頼を受けたのは、獣人たちを救うためだ。ボク自身、獣人たちと関りはないが、同じ亜人として無視できなかった。
そう、ボクは吸血鬼と呼ばれている。只、日光を浴びても灰にならないのは、ボクが半分、人間の血が流れているからだ。半吸血鬼、人間と吸血鬼のハーフで、ボクは人間の血が多く流れている。
その為、日光を浴びても平気だ。吸血鬼としての能力は低く、傷が癒えるのが早い事と、身体能力が高い事だけだった。魔法は…苦手だ。使えなくはないが、弱かった。
こんな、ボクでも、邪魔をすることぐらいは出来る。獣人たちを襲う時、ボクは背後から彼らを襲う。そう思い、最後尾を歩いていた。
「村に着いたらよぉ、お前はどうする?」
全体的に薄汚れた装備を身に着けた男に、話しかけられた。
「…特に、只仕事をするだけだが?」
臭い息で話しかけてくるな。そう思いながら、ボクは応える。
「そうかい。女に手をださねぇのか」
「おいおい、一応、商品だぜ? 手を出すのはまずいだろ?」
「そうか、味見ぐらいは許されるだろ」
「だと良いがな」
ガハハっ、とボクに話しかけてきた男と違う男が下品に笑う。
イラっとした。今すぐ、斬り殺したいと思ったが、ボクは我慢する。
「うん?」
歩いていると、右側で大きな爆発が起きる。その爆発に反応して、冒険者が動き、盾を持つ者が、馬車を取り囲む。ボクも一応、不審に思われない様に混ざる。
な…何?
直感的に、ボクは怯えた。何か良くないモノがある。そう思っていると、目の前で2つの影が飛び上がる。見上げると、黒髪の少女と、白い長い髪をした女性が空中に浮いていた。
「……獣王?」
白い長い髪をした女性。彼女に見覚えがあった。嘗て、ボクの一族が治めていた国に住んで居た。今は滅んで、ラストリアの一部となっているが、ボクの一族は、エルジーナ大森林に隣接した場所に、小さな国を築いていた。
名を、リクシード王国。魔族の住む大陸からやってきた、吸血鬼の一族が住んで居る国だった。吸血鬼と言っても本家は、ボクの父親、王だけで、他は半吸血鬼だった。父親曰く、その地域の女性を全て娶り、生ませ、子供を誕生させた。
その子供たちが家臣や配下となり、国の政治を任されていた。勿論、元から住んで居た人間も国民として受け入れていた。恐怖政治はせず、人間と共存する道を選び、平和に暮らしていた。
それが、100年前に、ラストリアのダンジョンマスターにより滅ぼされた。サブダンジョンを作られ、ダンジョン内のモンスターが外へと出て来た。スタンビートを発生させ、国を滅ぼした。
多くの犠牲者を出し、その中に、一族も含まれていた。父親はボクと母親をカサンディアへ逃がし、囮になり亡くなった。成るべく人間に被害が出ない様に、半吸血鬼たちは戦い、最後は降伏した。
ボクは18歳だが、実際はもっと長く生きている。女性に年齢を聞くのは失礼なので、実年齢は伏せておく。
「すごい…」
唖然として見つめる先で、少女と獣王が空中で殴り合いをしている。獣王の強さをボクは知っている。彼女と戦った事がある。ボロ負けした。それほどの実力を持つのに、少女に一方的にダメージを与えられている。
「はぁあああ!!!!」
「あまいよ~」
空中での殴り合いは、双方に決定的な一撃を与えられずにいた。そんな中、獣王が仕掛け、少女に吹き飛ばされた。実力が少女の方が上で、獣王は空中から地面へと叩きつかれた。
生きてるだろうか?
ボクは獣王が心配になった。彼女が落ちた衝撃で土煙が起きる。その中へ向けて、空に浮かんでいた少女が右手を伸ばす。
「魔闘弾だよ~」
聞いた事のない魔法? を唱えると、少女の右手に光る球体が生まれ、それを、土煙へと向けて撃ち出した。大きな爆発が起き、爆心地の森が吹き飛んだ。
「きゃああ…」
恥ずかしながら悲鳴を上げる。可愛らしい悲鳴だったので、周りに聞かれていない事を祈る。突風が引くと、周辺で静寂が広がる。奴隷商人の男が撤退を命令した。
馬車を反転させボクの前を掛けていく。ちらっと見た横顔は凄く、蒼褪めていた。後を追うように、2台の馬車が付いて行く。残された冒険者たちは、一瞬唖然とするが、我に返ると逃げるように、馬車を追いかけていく。
ボクは逃げずにその場に残った。
「がるうううう!!!!!」
「!?」
背後で、凄まじい殺気を感じ、振り返ると、獣王が立っていた。戦闘により、衣服が吹き飛び、素っ裸だ。ボクはその傷1つ無い、綺麗な体、スタイルのいい体に見とれてしまった。
「ぐらああああ!!!」
突如、雄叫びを上げると、全身が金色に光り出す。そのまま、鋭い眼光で睨むと駆け出し、ボクの横をすれ違った。
「あぁ…」
首に痛みを感じると、血しぶきが飛ぶ。爪を赤く染めた獣王が目の前を通り過ぎると、ボクは意識を失った。静かに息を引き取った。
*
「あれ?」
気が付けば、ボクは物置のような部屋で目を覚ました。死んだはずなのに、生き返った? 不思議に思っていると、
「おはようでいいか?」
「はい?」
声を掛けられる。黒髪をした青年で、隣には同じく黒い髪をした少女が立っていた。少女は、獣王と戦っていた娘だった。
「悪い事をした。すまない」
謝罪を受けて振り返ると、獣王が頭を下げていた。ボクは困惑していると、全身黒い衣装に身を包んだ少女が何かを差し出す。
「まずは着替えをした方がよろしいですよ」
「そうだな。血で汚れているからな」
言われてみて、ボクは自分の体を見る。首を切られた事で首周りから上半身へと血で染まっていた。着替えを受け取ると、黒い衣装に身を包んだ少女に連れられて倉庫を出ていく。
浴室へと案内される事となった。ボクは裸になると、首を押さえる。
「傷…消えてる。それに…」
絶対に治らない筈の、呪いによる傷が消えていた。腹部にあった切り傷は、呪いの剣で斬られ、回復魔法も、回復薬も効かない傷だった。それが、無くなっている事に、ボクは涙を流す。嬉しかった。
暫く、シャワーを浴びて落ち着くと、ボクは渡された着替えを着て、廊下へと出た。ボクを案内してくれた、黒い衣装を着た少女に連れられ、応接室へと行く。
そこでは、先ほどの黒髪の青年と少女。青い髪をした少女がソファーに座り待っていた。テーブルの上には紅茶と、見た事のないお菓子が置かれていた。
「初めまして、エステート王国のお姫様」
「!?」
ボクの過去の身分を知る。思わず、黒髪の青年を睨むと、青い髪をした少女に威圧を掛けられる。その圧倒的な強さに、ボクは体をすくめた。
「リーシャ、怯えさせるなよ」
「なによ。大和が行き成り、秘密を暴露するからでしょ」
「いや…そうだけど」
ジト目で睨まれ、大和と言われた青年は苦笑いを浮かべていた。
「あ、自己紹介をすると、俺が大和、で、こっちが奈々、このちびっ子がリーシャで、後ろに立つのがマリだな」
「私の事は…別にいいか? アイリ姫」
「……ガーラ姫ですね」
ヒスイ色の瞳で見つめる。シャワーを浴びる時に、束ねていた髪をほどき、胸のインナーも外しているので、今のボクは女だ。だから、姫と言われても違和感はない。しかし、それは過去の話。
「ボクは…もう、お姫様じゃないよ」
国が滅んで、姫と呼ばれる資格はない。
「「「「「「…………」」」」」」
沈黙が流れる。誰も話さなくなり、重たい空気が漂う。その空気の中、大和と名乗った青年が口を開き、ボクに聞いてきた。
「アイリと言ったな。どうだ? 俺の配下にならないか?」
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