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プロローグ
しおりを挟む生きている意味が分からなくなったとき。
貴方の歌声が、僕を包み込んでくれた。
その日は、満月がきれいな夜だった。
窓を開けると、生ぬるい空気が入ってくる。
もう寝ようと部屋の照明を消し、ラジオも消そうとしたけど、外がすごく明るい。
「きょう、満月かな?」
月の明るさに誘われて、ベランダに出た。
汗がにじむ中、遠くに浮かぶ月はキレイで、自分がむなしく思えた。
脳裏によみがえるのは、両親の言い争う声。
「アナタが、詩季を引き取ってよ!」
「子供には母親が必要だろう? 君が引き取るべきだ」
「私は自分の生活で精一杯よ!」
「俺も同じだ。養育費は払うから……」
離婚を決めた両親は、子供の親権を押しつけ合い何度も口論した。
本当は大学へ進学したいけど、親と揉めるのがイヤで、言い出せなかった。
家からいちばん近い高校へ進んだけど、校風にも、クラスメイトにも馴染めなくて、教室ではいつも一人でいる。
クラスメイトから無視されるのも、一種のイジメなんだろう。
仲の良かった友達はみんな違う高校へ進み、新しい友達を作って、会うこともなくなった。
今はただ、未来に夢も希望もなく、生きていくだけの日々。
「もう、いいかなぁ……」
ここから飛び降りたら……終わりに出来るかもしれない。
マンションの四階からは、地面が遠くに見えるから。
でも、大怪我をするだけかも。
痛いのはイヤだな、と思うけど、いつの間にか手すりを掴み、柵に脚を掛けていた。
「……それでは、今夜は『彗星』の新曲をお届けします」
つけっぱなしにしていたラジオから、よく知った名前が聞こえた。
『彗星』は、デビューからずっと応援しているグループだった。
「まだ、新曲聴いてない……」
配信曲はDLしていたけど、聞く気になれなくて、後回しにしていたのだ。
ラジオからは、優しい音楽が流れてくる。
「ねぇ、僕の声が聞こえるだろう?
どうか、その胸につかえているものを、僕に話してくれないかな
どんな苦しく悲しいことでも、僕がぜんぶ空に還してあげる
信じられないって言うけれど、僕にはそれができるんだ
だって君は知っているだろう? 僕が天使だってこと
僕の歌声が、いつも君を包んでいること」
切なくて優しくて、愛にあふれたメロディが、胸にしみこむ。
泣いている心に寄り添うような、優しい声。
まるで「頑張ったね」と頭を撫でてもらえたときみたいに、温かいものがこみ上げてきた。
「さあ、話してごらん
僕は君へ愛を降らせるために、ずっと待っていたんだ」
優しく響く歌声に、涙があふれた。
ポロポロとこぼれおちる滴が、頬を濡らしていく。
「ふぇっ……」
ベランダにしゃがみ込んで、嗚咽をもらす。
まるで、自分のために歌ってくれたような気がした。
その温かい歌は、僕の命と心を救ってくれたのだ。
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