終わる恋と知っていても

早桃 氷魚(さもも ひお)

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第19話 すごく嬉しい

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ちゅって唇にキスすると、詩季はもっと顔を赤くしてはにかんだ。
かわいすぎる恋人をさらにぎゅうっと抱きしめると、詩季が俺の背中に腕を回してきた。
触れあったところから、詩季の心臓の音が聞こえる。
すごくドキドキしてて……たぶん、俺も負けないくらいドキドキしてる。
それだけで、幸せなんだよなぁ。
離れたくなくて、そのまま抱きしめてたら、
「ね、速水さん。もう……」
「なに?」
「作ってる途中だから……リビングに行こう?」
恥ずかしそうな顔で肩を押してくるから、しぶしぶ離れる。
「今日はね、速水さんが好きな鶏の唐揚げだよ」
「おお」
キッチンから漂ってくる匂いに、腹が鳴る。
言われてみれば、すげーいい匂いだ。
「もう少しで出来るから……」
そう言った詩季の視線が、俺の顔で止まった。
急にじっと見つめられる。
なんだろう?
「速水さん。ここ、どうしたの?」
「ん?」
「ちょっとこっちにきて」
詩季に手を引かれてリビングへ行くと、詩季が驚いたように俺を見た。
「速水さん、ほっぺた赤くなってるよ!?」
「ほっぺ? ……ああ、これ」
そういや帰るときに、たっちゃんに叩かれたんだっけ。
詩季を泣かせたバツだって。
まだ腫れてるのかなぁ。
「これかぁ……今日の撮影で、ちょっとぶつけちゃってさ」
「こんなに赤くなってる。痛くない?」
「うん。大丈夫だよ。詩季」
「すぐに冷やさないと……」
詩季は大げさなくらい心配して、氷をビニール袋に入れると、それをタオルで巻いて持ってくる。
「ここで、ちゃんと冷やして」
「ありがと。詩季。でも、大したことないから大丈夫だよ」
「駄目! こんな顔で仕事に行ったら怒られるよ」
「明日は休みだから、平気だよぉ」
「もう……暢気なこと言ってないで、ちゃんと冷やしててね」
無理やりタオルを押しつけられる。
詩季はキッチンに戻ると、また忙しそうに動いていた。
大人しくソファーに座って、頬に氷を押し当てながら、詩季が料理してるところを眺める。
エプロン姿の詩季は、ものすごくかわいい。
俺がそう言うと「男だから可愛くない」って否定するけど。
詩季はいつも、俺のためにいろんな料理を作ってくれて、俺が過ごしやすいように気を配ってくれる。
俺がどんな話をしても、穏やかな顔で聞いてくれるし、曲の感想とかも目を輝かせながら語ってくれるんだ。
そんな詩季がかわいくて、こんな恋人がいてくれて俺は幸せだなぁって思ってた。
これからもこうして、詩季と一緒にいるんだって、そう思っていたのに、詩季には何ひとつ伝えられていなかった。
そのせいで、大切な詩季をいっぱい傷つけてしまったんだ。
詩季を傷つけ泣かせたことに比べれば、頬の痛みなんて、痛みのうちにも入らない。
「速水さん、できたよ」
「おお! うまそー!」
テーブルに並べられた料理はどれも美味しそうで、思わずつまみ食いしそうになる。
この前して怒られたから、おとなしく椅子に座った。
「はい、ビール」
「ありがと。詩季」
「じゃあ、頂きます」
「おう。いただきまーす」
「どうぞ」
さっそく唐揚げを一口。
「んまい!」
「ふふ。よかった」
「すっげぇうまいよ! 詩季!」
「……ありがとう」
詩季が頬を染めて照れたように微笑む。
前は、いくら褒めても、好きだって言っても、詩季はとまどったような、悲しい顔をすることが多くて、こんな風には笑ってくれなかった。
俺の「好き」を信じてくれなかった。
でも、そうさせたのは、他でもない俺だから。
詩季の笑顔を見ると、すごく嬉しいんだ。
「速水さん? どうしたの?」
「何でもないよ。この春巻き、うめぇな」
「本当? ちょっと味薄くない?」
「ちょうどいいよ」
「よかった」
そう言って詩季がまたかわいく笑うから、キスしたくなって困った。
「速水さん?」
「……詩季、かわいい」
「もうっ、変なこと言ってないで、ちゃんと食べてっ」
顔を赤くした詩季に怒られたけど、そんな顔もかわいいんだよなぁ。
言ったら怒るから、だまっとこ。



詩季の手料理を食べ終わって、片付けをすませてお風呂に入ってから、いつもみたいに詩季と二人でソファに座ってくつろいだ。
明日は休みだし、詩季も休みだっていうから、今夜はゆっくりできるよな。
「あ、そうだ。詩季」
「何ですか?」
「こんどの……えーと、木曜日か。あいてる?」
「木曜? 午前中はバイトだけど、午後は空いてるよ」
「ほんと? じゃあさ、昼から一緒に、家を見にいこう」
「……いえ?」
詩季が怪訝な顔で、俺を見上げてくる。
「そう。俺と詩季の住む家」
「えっ!?」
「朝言ったじゃん。一緒に暮らそうって」
「ぁ……だ、だけどっ!」
詩季は困った顔になる。
うーん、この話するの早かったか?
でも、俺は早く詩季と新しい家に住みたいし。
「二人で暮らすなら広くないと、俺の荷物が入らないしさ」
「あ、そうなんだ……」
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