永遠の夢を見たかった

早桃 氷魚(さもも ひお)

文字の大きさ
11 / 26

11話 事件

しおりを挟む




 何の変わりもなく、月日が流れていった。
 季節がゆっくりと移りゆく様を、じかに目で見られる頃になると、肌寒い風が吹き付けるようになった。
 長袖のシャツに身を包む、そんなある日の朝に事件は起こった。



 登校した迅が教室へ入ると、元村が駆け寄ってきた。
「おい、加佐見!」
「元村か。おはよう」
「お前、今朝のニュースを聞いたか!?」
 元村は勢いよく迅に詰め寄った。
「何の話だ?」
 迅が聞き返すと、元村は周囲を窺い、内緒話をするように顔を近づけた。
「篠宮家の令嬢の死体が、見つかったらしいぜ」
「死体が?」
 朝から耳にするには、生臭い話だ。
 元村は、声をひそめて続けた。
「それも……どうやら自殺だって話だ」
 そう言った元村の顔を見れば、おそらく普通の状態ではなかったのだろう。
「公にはされてないが、噂は広まってる」
 元村につられて教室を見渡すと、幾人かの生徒が寄り集まって、こそこそ話している。おそらくこの話題でもちきりなのだろう。
「……それでな、加佐見」
 元村は、悲壮な顔をしていた。
 いつもの明るさなど見る影も無く、表情が暗い。
「元村? どうしたんだ?」
 友人のただならぬ様子に、迅は戸惑った。
 元村は歯を食いしばり、押し殺すような声で告げた。
「その令嬢は……俺の婚約者だったんだよ」
「婚約者?」
 元村に、そんなものがいたとは初耳だった。
「親同士が決めた口約束だったけど。俺は、彼女に会ったことあるんだ」
 言葉を切って、元村は逡巡するように瞳を揺らす。
 青ざめた表情が気がかりで、迅は椅子に座るよう促した。
 元村は、ふらつくように椅子に座り、拳を額にあてた。
「自殺じゃない……絶対、殺されたんだ」
 あれは他殺だ。
 元村はそう言って、肩を震わせる。
 なぜ、元村がそんなことを言い出すのか、迅には分からなかった。
 もしかして、元村はその犯人を知っているのだろうか。
「元村。落ち着け」
 力強く肩を叩いて、迅は周りを窺った。
 同級生たちは自分たちの話に夢中で、こちらには注意を払っていない。
 迅が、この話をいったん打ち切ろうと思ったその時、
「おはよう、元村君」
 月読が、軽やかな口調で挨拶してきた。迅にも笑顔を向け「何の話?」と話しかけてくる。
「何でもねぇ」
 顔をあげた元村は、まだ顔色が悪い。それでも、月読を睨む瞳は鋭かった。
「向こう行けよ。お前に話すことなんて、何もねぇし」
 邪険にする元村に対して、月読は苦笑するだけだ。
 気を悪くすることもなく、黙って去っていく。
 月読が転入してからだいぶ経つが、元村の態度は軟化するどころか、ますます酷くなっている。
「元村。あまり、邪険に扱うのは良くないぞ」
 どれだけ元村が嫌な顔をしても、月読は懲りずに近づいてくる。よく諦めないなと、迅は感心していた。
「うるせぇ! 俺は、アイツが嫌いなんだよッ!」
 元村は、月読を天敵のように毛嫌いする。
 月読は麗しい容貌ゆえに、同級生から人気がある。そんな彼を「嫌い」だとはっきり言うのは元村くらいだろう。
 教師たちも、礼儀正しく聡明な月読を気に入っているようで、評判も良い。
 迅の場合は、彼の弟である瑠璃に心を奪われている。なので、弟を溺愛する月読に「もう二度と瑠璃に会うな」と言われてしまわないか、つねに緊張していた。
 月読といえば、元村に嫌われてることを分かっているのに、必ず挨拶をするし、わざとなのか近寄ってくる。
 むろん、元村には拒絶されるが、その反応を楽しんでいるように思えた。
「気分悪ぃ。後で話そうぜ」
 元村は不機嫌に言い捨てて、机に伏せる。
 迅は黙って、すぐ後ろの自分の席に戻った。



 昼休みになると、迅は元村と連れだって中庭へ出た。
 あまり人に聞かれたくない話のようだ。
 迅は、重箱の中身をきれいに平らげてから、ようやく元村に尋ねた。
「それで、どうしたんだ?」
「ああ」
 元村は、弁当にほとんど口を付けておらず、箸を置いた。
 あの元村が、ご飯もろくに喉を通らないとなると、相当に深刻な話のようだ。
「実はさ」
 元村は重い口を開いて、自分が見たことの全てを迅に語り始めた。
「俺、見たんだよ」
 慎重に辺りを窺った元村は、目を閉じて拳を握る。
「偶然だったけど、街で見たんだ。彼女が、知らない男と一緒にいるの」
「彼女……婚約者のことか?」
 迅が問うと、元村は頷く。
「彼女が、他の男と一緒にいるのは、べつに良いんだよ。まだ口約束の婚約だし、他に好きな奴がいたって、おかしいことじゃないだろ」
「まあ……そうだな」
 迅は何と応えていいか分からず、とりあえず頷いた。
「でもな。どうも様子が変だったんだ。旅行にでも行くような、大きな鞄をもって。まるで、駆け落ちするみたいで……」
 元村は一息ついて、迅を見た。
「彼女の死体の側には、遺書も無かった。俺が見かけたときの、あの鞄もなくて……首を切って、死んでたんだ」
 発見された死体は、森の中で見つかったという。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...