永遠の夢を見たかった

早桃 氷魚(さもも ひお)

文字の大きさ
21 / 26

21話 遠くへ行く

しおりを挟む




 瑠璃が、泣き出しそうな声でそう言った。
 迅はギュッと抱きしめて、首を振った。
 瑠璃を忘れるなんて、出来るわけがない。何より、瑠璃と離れるなんて、考えられないのに。
 一緒に居たいと願った想いは、叶わないのだろうか。
「瑠璃とは、一緒にいられないのか?」
 返事をくれなかった瑠璃に、もう一度尋ねてみる。
 躊躇うように震えた手を、優しく握りしめた。
 瑠璃はゆっくり顔を上げる。まなじりに涙をためて、肩を震わせた。
「瑠璃……」
「……ぼく、遠くへ行くの」
 遠く……また、引っ越すということなのか。
 離れるという現実を突きつけられて、迅は胸が痛んだ。
「いつ?」
「分からない」
「どこに引っ越すんだ?」
「それも、分からない」
 瑠璃は、静かに涙をこぼした。
 迅は、無骨な指先で涙を拭い、やりきれない顔で瑠璃を見た。
 大人の都合は、残酷だ。
 どれほど願っても、子供はそれに従わざるを得ない。
 迅は、それが分かるくらいには大人だった。
 離ればなれになるというのなら、きっと、そうなってしまうのだろう。
「……瑠璃と、離れたくないっ」
 迅は、瑠璃を強く抱きしめる。
 この愛しい温もりを失うなんて、考えられない。
 でも瑠璃は、悲しげな顔をしただけだった。
「いつかの話だよ。迅」
 今すぐじゃないよ。
 瑠璃はそう言いながら、迅の髪を撫でる。
 だけど、瑠璃の瞳は、涙に潤んでいる。
 そう遠い話ではないのだと分かり、迅は愕然とした。
 そして、ふと思い出した。
 この前、瑠璃が迅に尋ねた、あの謎の言葉。
「瑠璃」
「なに?」
「俺は……瑠璃と一緒には、行けないのか?」
 それが叶うなら、瑠璃と共にありたいと思った。
「瑠璃の側にいられるなら、どこへでも行くと言っただろ?」
 迅は、真摯な想いで瑠璃を見つめる。
 けれど、瑠璃はとつぜん、迅を突き飛ばした。
 透きとおる涙をいくつも零して、澄んだ瞳に迅を映す。
「瑠璃っ!?」
 驚きに、言葉も出ない。
 気のせいか、薔薇の香りが濃くなってきた。
 息を呑む迅の前で、瑠璃はゆっくりと口を開いた。
「それは、永遠の夢だよ……」
「どういうことだ……?」
「……」
「瑠璃?」
「もし、迅が……永遠の夢を、見たいと……願ってくれるなら」
 瑠璃が、スッと手のひらをさしのべる。
 その白すぎる腕は、迅の目には眩しかった。
「ぼくは、迅と遠くへ行けるよ?」
 向けられる眼差しは、悲しみに満ちている。
 それを、瑠璃が望んでいないのだと悟った。
 遠くとは、どれくらい離れた場所なのだろう。
「瑠璃……」
 だが、はるか彼方であったとしても。
 迅の答えは、すでに決まっていた。
 瑠璃のためなら、永遠を誓える。
 瑠璃と共に居られるのなら、地の果てまでだって行ける。
 迅を引き留めるものは、何もなかった。
 迅にとって、この世に瑠璃より大切なものはなかったのだ。
「瑠璃。俺は、瑠璃と一緒にいたい」
「迅……」
 さしのべられた手のひらを、迅はそっと握りしめる。
 ひんやりとした手のひらを温めるように、両手で包み込む。
 瑠璃の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。



 + + +



 元村と月読は、例の神社にやってきた。
 ここに着くまで元村は無言だったが、この前と同じ場所に来ると、険しい顔で月読を振り返った。
「怖い顔してるね、元村君」
 月読は階段に腰掛けると、右隣をぽんぽんと叩く。
 座れ、という合図に、元村は首を振った。
「このままで良い」
 月読を見る視線は鋭く、化けの皮をはがしてやろうという勢いが見られた。
 元村は拳を固く握りしめて、口を開く。
「月読。洗いざらい全部話してもらおうか」
「全部って言われても……何が知りたいんだ?」
 月読は、首をかしげる。
 その態度にイラッとしながら、元村は単刀直入に尋ねた。
「月読。お前は何者だ?」
 元村にとって、一番知りたいのは月読の正体だ。
 なぜ、元村に接吻をしたのか。
 あの凍るような冷たさは、まるで人ではなかった。
 月読一家が引っ越してきたとたんに、きな臭い事件が起こるようになった。元村にとっては、婚約者が殺されたという疑惑もある。
 元村は、何が起こっても対処できるように、魔を払うお守りを懐に忍び込ませてきた。 こんなものに効き目があるか分からないが、元村は己の神社を信じることにする。
「その前に、一ついいかな」
 月読は、にっこりと笑顔を見せる。
「何だ?」
「君の返事を、聞きたいのだけど?」
 月読が可愛らしく首を傾げれば、黒髪が揺れて、いっそう美しさを際だてた。
 不覚にも、心臓がドキッと高鳴る。
 それに気付いて、元村は舌打ちした。
 これが、月読の作戦なのだ。
 元村は自分に言い聞かせながら、拳にぐっと力を入れた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バズる間取り

福澤ゆき
BL
元人気子役&アイドルだった伊織は成長すると「劣化した」と叩かれて人気が急落し、世間から忘れられかけていた。ある日、「事故物件に住む」というネットTVの企画の仕事が舞い込んでくる。仕事を選べない伊織は事故物件に住むことになるが、配信中に本当に怪奇現象が起こったことにより、一気にバズり、再び注目を浴びることに。 自称視える隣人イケメン大学生狗飼に「これ以上住まない方がいい」と忠告を受けるが、伊織は芸能界生き残りをかけて、この企画を続行する。やがて怪異はエスカレートしていき…… すでに完結済みの話のため一気に投稿させていただきますmm

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...