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22話 俺のものになって?
しおりを挟む「返事って、何の話だ?」
おそらく、あの接吻の件だろうと思ったが、元村には理解しがたい出来事だった。
あれは、月読の悪戯としか思えない。
そう思って、深く考えないことに↓のだ。
「てめぇの気紛れに付き合ってる暇はねぇんだ」
元村は、吐き捨てるように言う。
だが月読は、目を丸くした。
「俺の告白を、疑ってるの?」
月読は心外そうに呟き、そして、はっきりと告げた。
「君が好きだよ。元村くん」
月読が、とろけるような微笑みを見せる。
その笑顔に、元村の心は揺さぶられる。
「ッ!!」
元村は、月読から後ずさった。
ごくりと息を呑み、目の前の月読を凝視する。
彼は、汚れなど知らない純粋な少年のように見えた。
風に乗って香る薔薇の香りが、元村の思考を鈍らせる。
月読が嫌いなはずなのに、ドクドクと早鐘を打つ心臓は、誤魔化しようがなかった。
「……ッ!?」
まるで金縛りに掛かったように、体が動かない。
その間に、月読がゆっくりと立ち上がった。元村の前に立つと、愛くるしい微笑を浮かべる。
月読の、吸い込まれそうな深い瞳に身震いした。
「ねえ。俺のものになって?」
月読は、元村の頬を優しく両手で包み込む。
そっと顔を近づけて、唇を重ねた。
すべて見えていたのに、元村は目を閉じることも出来なかった。
「!?」
冷たい指先。
凍るような接吻。
背筋がゾクッとして、本能が警鐘を鳴らした。
「元村くん」
啄むような接吻に、元村の中から何かが奪われていく。
体から力が抜け、ガクッと膝が折れた。
「……を」
囁いた言葉は、聞き取れなかった。
倒れそうになる寸前、熱いものが胸元から力を発揮した。
「――チッ」
どんっと突き飛ばされて、元村はしりもちをついた。
腰を打って、痛みに顔を顰める。
「いててっ」
目を開けると、月読の右手が酷い火傷を被っていた。
秀麗な顔を顰めて、左手で右の手首を握っている。
「余計なものをッ」
舌打ちして、元村を睨み付ける。
元村は慌てて立ち上がると、懐に入れたお札を取り出した。お守りにと忍ばせておいた神社のお札だ。
「お前っ!?」
元村は驚愕した顔で、月読を見やった。
お札は、普通の人間が触っても何も起こらない。
魔に効くのだと教えられたお札で、月読が火傷を負っている。
やはり、ただの人間ではない。
元村は、ようやく確証を得た。
「テメェ! やっぱり、人間じゃなかったんだな!」
元村は、幼い頃から禍々しいものを目にしてきた。だから、月読が人間ではないという事実も、すんなり受け入れる。
今までも、疑惑はあったのだ。
ようやく、しっぽを掴んだと、勢いづいた。
「篠宮家の令嬢を殺したのも、お前か!?」
元村の婚約者だった彼女。
自殺なんて、するはずがないのだ。
元村が問いつめると、月読は痛む右手を押さえながらも、微笑みを浮かべる。
「だったら? 俺を殺すの?」
「当然だッ!」
月読を睨む視線は鋭く、元村は肩を怒らせた。
「何のために、加佐見に近づいた!?」
もし、近づいて殺すつもりだったなら、このまま生かしておくわけにはいかない。
そんな決意を見て、月読は苦笑した。
「加佐見のことは、範疇外だよ。アレは、俺の弟がいたく気に入ってね。餌にするつもりはなかったよ」
痛みが治まったのか、月読は余裕の表情で、元村の方へ歩み寄ってくる。
とっさに、後ずさった。
辺りはもう日が暮れて、木々の多い境内は、他よりも早く日が翳り暗くなっていく。
ここには、二人きりだ。
月読に対峙するより、逃げた方が得策に思えた。
それなのに、足が動かないのだ。
「君も、餌にするつもりはなかったんだよ」
月読が、優しい声で告げる。
それが本当かどうか、元村には分からない。
月読の透きとおった瞳は、凍るような深い悲しみをたたえていた。
元村は何も言えず、黙っていた。
「やれやれ。これまでかな」
月読は、しくじったのだ。
これ以上、元村に話すことはない。
「じゃあね、元村」
月読は微笑みを浮かべると、サッと身を翻して、林の中へと姿を消した。
「待てッ!」
元村の制止するが、追いかけることができなかった。
まだ何も解決していないのに。
月読が、事件の犯人なら捕まえなければいけない。
友人のことも気に掛かる。
それなのに、元村の足は、地面に張り付いたように動かない。
元村はそこで初めて、全身に冷や汗を掻いていることに気づいたのだった。
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