末っ子アイドルは推しと結ばれたい!

早桃 氷魚(さもも ひお)

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9話 もったないなさすぎて、飲めない!

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 今になって、カァッと全身が熱くなる。とんでもなく赤い顔をしているはずだ。
 オレはダッシュで控室に戻ると、スマホを取り出すと夢中でボタンを連打する。
 三コールの後に出たのは吉良くんだ。
「吉良くん、吉良くんっ!」
「おう、琉生。どうした?」
「オレ、オレね! 結城くんに会った!!」
「っ……声が大きいぞ、琉生!」
「ね、吉良くん、どーしよう!!」
「どうしようって……琉生、打ち合わせは今からだろ?」
「うんっ! 今から!」
「何だ、結城に会ったって。夢の話か?」
「夢じゃないって!! さっき! 自販機で!!」
 なんて失礼なことを言うんだ!
 いくら結城くんの夢を見たとしても、わざわざ吉良くんに電話するわけないだろ!
「琉生、興奮しすぎだ。落ち着け」
「ムリッ! だって『七海くん』って、結城くんが!!」
 オレの名前を呼んでくれたんだ! しかも、あの美声で!
 ずっと優しい笑顔で見つめてくれたし、ミルクコーヒーまで奢ってくれた。
「オレもう、家宝にする!」
 片手に持ったままのミルクコーヒーを、ぎゅっと握りしめる。
 一人で興奮しているオレに、吉良くんの呆れた声が聞こえた。
「お前が何を言ってるか、まったく分からないんだが」
「だから、いたんだって! 結城くんが!」
「そうか。偶然だったな」
「そうなんだよ! まさか自販機で会えるとか!」
「……」
「もうっ、すっごくすっごく、カッコよかった!! ちょーイケメンだった!!」
「良かったな」
「背もオレより高くて、すんげー綺麗な顔してて! モデルってすげーよなぁ。何着てもカンペキ!」
「はぁ……琉生、その話は明日聞いてやるから。とりあえず、打ち合わせ行け」
「打ち合わせっ……うん、打ち合わせ行ってくる!」
「クールダウンしてから行けよ。もう同じ用件で掛けてくるな」
「うんうん。じゃね、吉良くん」
 ブツ、と通話を切る。
 ひとしきり騒いだおかげで、だいぶ落ち着いてきた。
 吉良くん、相手してくれてありがと。
 心の中でお礼を言って、握りしめていたミルクコーヒーの缶をジッと見つめる。
「結城くんが、買ってくれたっ!」
 改めて思い出すと、跳びはねたいくらいに嬉しい。
 吉良くんには「家宝にする」と宣言したが、それくらい貴重で、大切なものだ。
 もったいなさすぎて、飲めないよ!
 でも、わざわざ買ってくれたのに飲まないのも、結城くんに申し訳ない気がする。
「よし、持って帰ろうっ」
 すぐに結論がでないので、オレはミルクコーヒーをバッグの中にしまいこむ。
「へへへ~」
 だらしなく顔が崩れている。
 とても人様に見せられる顔じゃないが、これから打ち合わせだ。「七海琉生」のイメージを崩さないためにも、必死で頬をぐにぐに揉んで、元に戻す。
「打ち合わせには、平常心でいかないと!」
 先ほどの結城くんとのやり取りを思い出すと、いても立ってもいられないほどソワソワする。が、そんなことでは共演者失格だ。
 芝居どころかまともに話すら出来ないと思われたら、役を降ろされる可能性もある。
「そんな情けない降板はイヤだ!」
 幸い、打ち合わせの前に結城くんと話すことができた。
 狼狽えすぎて、ろくな対応ができなかったけど、結城くんは笑顔だったし、たぶん大丈夫……。
 今度は、しっかり気を引き締めよう。
 オレは気合いを入れて、打ち合わせの脳内シミュレーションを始めたのだった。



 + + +



 主演の一人とはいえ、オレはデビューして三年目の若手アイドルだし、うちのグループ人気もそこそこだ。役者としての知名度も低いってことは自覚している。
 打ち合わせには遅刻しないように、会議室へ向った。
 十五分前に入室すると、半分くらい席が埋まっている。タイミング的にはちょうど良かったみたいだ。奥にあるホワイトボードを囲むように、席はコの字型に並べられている。
 挨拶して中に入ると、プロデューサーから座席を指定される。いちおう主演なので、ホワイトボードが真正面にくる席だった。共演したことのある役者さんが近くの席に座っていたけど、それほど親しいわけでもないので、話しかけずに座っていた。
 おしゃべりするよりも、これから始まるドラマの共演者とスタッフの顔をしっかり覚えるのが先だ。ひと通り、辺りを見渡してスタッフを確認する。
 監督の葉山はやまさんは四十代後半の女性で、銀縁メガネがよく似合う、インテリ系のOLといった感じだ。
 ここ数年でヒットしたBLドラマの半分は、この人が監督した作品だった。演出家としても有名で、なかなかOKが出なくて撮影が長引くという噂があるので、ちょっとビビる。
 監督の隣に座ってる、優雅なマダムみたいな女性が、どうやら脚本家らしい。監督と和やかにおしゃべりしている。
 他のスタッフや役者の顔ぶれを見ているうちに、席が埋まってきた。





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