9 / 9
9話 もったないなさすぎて、飲めない!
しおりを挟む今になって、カァッと全身が熱くなる。とんでもなく赤い顔をしているはずだ。
オレはダッシュで控室に戻ると、スマホを取り出すと夢中でボタンを連打する。
三コールの後に出たのは吉良くんだ。
「吉良くん、吉良くんっ!」
「おう、琉生。どうした?」
「オレ、オレね! 結城くんに会った!!」
「っ……声が大きいぞ、琉生!」
「ね、吉良くん、どーしよう!!」
「どうしようって……琉生、打ち合わせは今からだろ?」
「うんっ! 今から!」
「何だ、結城に会ったって。夢の話か?」
「夢じゃないって!! さっき! 自販機で!!」
なんて失礼なことを言うんだ!
いくら結城くんの夢を見たとしても、わざわざ吉良くんに電話するわけないだろ!
「琉生、興奮しすぎだ。落ち着け」
「ムリッ! だって『七海くん』って、結城くんが!!」
オレの名前を呼んでくれたんだ! しかも、あの美声で!
ずっと優しい笑顔で見つめてくれたし、ミルクコーヒーまで奢ってくれた。
「オレもう、家宝にする!」
片手に持ったままのミルクコーヒーを、ぎゅっと握りしめる。
一人で興奮しているオレに、吉良くんの呆れた声が聞こえた。
「お前が何を言ってるか、まったく分からないんだが」
「だから、いたんだって! 結城くんが!」
「そうか。偶然だったな」
「そうなんだよ! まさか自販機で会えるとか!」
「……」
「もうっ、すっごくすっごく、カッコよかった!! ちょーイケメンだった!!」
「良かったな」
「背もオレより高くて、すんげー綺麗な顔してて! モデルってすげーよなぁ。何着てもカンペキ!」
「はぁ……琉生、その話は明日聞いてやるから。とりあえず、打ち合わせ行け」
「打ち合わせっ……うん、打ち合わせ行ってくる!」
「クールダウンしてから行けよ。もう同じ用件で掛けてくるな」
「うんうん。じゃね、吉良くん」
ブツ、と通話を切る。
ひとしきり騒いだおかげで、だいぶ落ち着いてきた。
吉良くん、相手してくれてありがと。
心の中でお礼を言って、握りしめていたミルクコーヒーの缶をジッと見つめる。
「結城くんが、買ってくれたっ!」
改めて思い出すと、跳びはねたいくらいに嬉しい。
吉良くんには「家宝にする」と宣言したが、それくらい貴重で、大切なものだ。
もったいなさすぎて、飲めないよ!
でも、わざわざ買ってくれたのに飲まないのも、結城くんに申し訳ない気がする。
「よし、持って帰ろうっ」
すぐに結論がでないので、オレはミルクコーヒーをバッグの中にしまいこむ。
「へへへ~」
だらしなく顔が崩れている。
とても人様に見せられる顔じゃないが、これから打ち合わせだ。「七海琉生」のイメージを崩さないためにも、必死で頬をぐにぐに揉んで、元に戻す。
「打ち合わせには、平常心でいかないと!」
先ほどの結城くんとのやり取りを思い出すと、いても立ってもいられないほどソワソワする。が、そんなことでは共演者失格だ。
芝居どころかまともに話すら出来ないと思われたら、役を降ろされる可能性もある。
「そんな情けない降板はイヤだ!」
幸い、打ち合わせの前に結城くんと話すことができた。
狼狽えすぎて、ろくな対応ができなかったけど、結城くんは笑顔だったし、たぶん大丈夫……。
今度は、しっかり気を引き締めよう。
オレは気合いを入れて、打ち合わせの脳内シミュレーションを始めたのだった。
+ + +
主演の一人とはいえ、オレはデビューして三年目の若手アイドルだし、うちのグループ人気もそこそこだ。役者としての知名度も低いってことは自覚している。
打ち合わせには遅刻しないように、会議室へ向った。
十五分前に入室すると、半分くらい席が埋まっている。タイミング的にはちょうど良かったみたいだ。奥にあるホワイトボードを囲むように、席はコの字型に並べられている。
挨拶して中に入ると、プロデューサーから座席を指定される。いちおう主演なので、ホワイトボードが真正面にくる席だった。共演したことのある役者さんが近くの席に座っていたけど、それほど親しいわけでもないので、話しかけずに座っていた。
おしゃべりするよりも、これから始まるドラマの共演者とスタッフの顔をしっかり覚えるのが先だ。ひと通り、辺りを見渡してスタッフを確認する。
監督の葉山さんは四十代後半の女性で、銀縁メガネがよく似合う、インテリ系のOLといった感じだ。
ここ数年でヒットしたBLドラマの半分は、この人が監督した作品だった。演出家としても有名で、なかなかOKが出なくて撮影が長引くという噂があるので、ちょっとビビる。
監督の隣に座ってる、優雅なマダムみたいな女性が、どうやら脚本家らしい。監督と和やかにおしゃべりしている。
他のスタッフや役者の顔ぶれを見ているうちに、席が埋まってきた。
114
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
やけ酒して友人のイケメンに食われたら、付き合うことになった
ふき
BL
やけ酒の勢いで友人に抱かれた榛名は、友人の隠された想いに気付いてしまう。
「お前、いつから俺のこと好きなの?」
一夜をなかったことにしようとする瑞生と、気付いたからには逃げない榛名。
二人の関係が、少しずつ変わっていく。
瑞生(ミズキ)×榛名(ハルナ)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる