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4話 左京:行けばいいんだろ!
しおりを挟む「俺が社長になったら周りに何も言わせないし、俺のやりたいようにやる!」
「でもねえ、左京。私はあなたが独身のうちは、会社を継がせないわよ」
「それは親父が決めることだろ!」
「社長は私の味方よ」
きっぱりと言い切る耀に、左京は何も言い返せなかった。
左京の父である社長は、妻に甘い。
左京より耀の味方をするのは目に見えていた。
「くそっ!」
なにがお見合いだ!
そんなのは、結婚したくてもできない奴がすることだろ?!
左京は苛々しながら、内心で毒づいた。
結婚などしたくないのに、まるで『結婚できないからお見合いをさせられる』みたいな流れが非常に気に食わない。
だいたい、耀が勝手に段取りしてきた話だ。
いっそのこと、すっぽかしてしまえば……。
「言っておきますけど、すっぽかしたら、許しませんからね?」
左京の考えを読んだように、耀が険しい顔で睨みつけてきた。
「……」
「先方に恥かかせるような真似はしないわよね? 左京?」
「ッ……分かった。行けばいいんだろ!」
左京が渋々頷くと、
「良かったわ。これで安心ね!」
耀はコロッと態度を変えた。
まるでもうお見合いがうまくいったかのように笑顔を見せる。
「何が安心だよ! 仕方ないから行くけど、結婚するって決めたわけじゃないからな!」
「はいはい。明日は何着て行こうかしら」
「……」
まったく人の話を聞いていない。
何を言っても無駄だと悟り、左京は無言で立ちあがると、そのまま専務室を出た。
突然の見合い話に、怒りが収まらない。
だいたい、恋愛結婚が主流のこのご時世に、今どきお見合いとか古すぎだろう?!
しかも、繁忙期を迎えるこの時期に何を考えているのか。
なんで俺が見合いなんかしないといけないんだ!!
不機嫌な顔を隠すこともせず、腹立たしい気持ちで常務室に戻ると、秘書の倉木が驚いた顔で出迎えた。
常務室は効率を重視し、秘書の机も一つ置いただけの小さな部屋だ。
個室なので人目がなく、左京はしかめっ面で自分の椅子にドンッと腰かけた。
「お帰り。どうした? すげぇ顔してるけど?」
「いや……あ、専務から何か連絡あったか?」
「ああ。そうそう、さっき電話があって、常務は明日休むからって言われたけど。どっか行くのか?」
「専務とちょっとな……」
お見合いをさせられる、とは言えなかった。
どうせ断るのだから、自ら不愉快な話題を出す必要はない。
「今日のうちにできるとこまでしとかないとな」
倉木は慰めるような顔でそう言った。
大学時代からの友人である倉木は、左京にとって気心の知れた相手だ。
左京が数年前に久我ホールディングスに入社した時、他の会社で働いていたのを秘書として引き抜いてから、ずっと左京の側で働いてくれている。
実は左京は、イケメン御曹司という最強の武器を持っているにも関わらず、人見知りなところがある。しかも無口で不愛想なので、コミュニケーション能力はあまりよろしくない。
そんな左京を心配して、倉木は秘書になってくれたのだ。
会社では上司と部下の関係だが、人目がない所ではくだけた口調で話してくれるので、それもありがたかった。
多忙な毎日をなんとか過ごせているのも、倉木の気遣いがあってこそだ。
しかし、すでに既婚者となった倉木を夜遅くまで働かせるわけにはいかない。
「とりあえず、やるか」
少しでも仕事を終わらせておこう。
それが今の左京にできることだった。
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