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1章-1
ビビオはワンチャン怠けていい職場では?と期待する
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言われた通りの道を行くと、奥まった場所に確かにあった。汚れているわけではないがなんとなく薄暗いと感じる奥まりぶりだ。
扉の前で杖をぽんと叩くと扉のロックが解除され、扉が水となって周囲に霧散した。
中へ入ると、異空間が広がっていた。
端的に言うならば庭が広がっていた。青い空とそれを覆うような樹木と外壁、無造作なようで計算されたようにつたうつる薔薇、敷き詰められるように散らばるサクラソウ。小鳥のさえずりまで聞こえてくる。
「これは……水魔法?」
「あら、よくお分かりになったわね」
ビビオが部屋の様子に意識をとられていると、中にいる女性から声をかけられた。
「水魔法で庭の幻影をつくって美しい空間にしていますの。美しくなかったら耐えられませんもの」
木製の机で爪を真剣に磨いている女性が言った。ウェーブの黒髪は驚くほど艶やかで、大きくカーブを描いたきらめく紫の瞳、つんと上向きの鼻、吸い付きたくなること間違いなしの唇。
頭の上からつま先まで磨き抜かれたような美女だ。机の上には大量の美容グッズと美容情報が載っていると思われる書籍が並んでいる。
「ようこそ新人の方、お入りなさいな」
美しい彼女に目を取られていたが、誘われて入ってみると4人の司書、と思われる人々がいた。立ち上がった美女は、ビビオの前に立つと少し身をかがめて肩に手をかけた。
「わたくしの名前はマイラ。見ての通り人族ですわ、どうぞよしなに」
そして肩にかけた手を背中に回してぐっと中へ誘導した。足もとの土や草を踏みしめる感覚も再現されていることに感心しながら進むと、なぜ目に入ってなかったのか、真珠に空の色を一滴混ぜ込んだような美しくどでかい蝶の羽をゆらゆらとはためかせた男が全身鏡に自信を写してあらゆる角度から自分を見ている。
「あら、なあに。この子が新しい子?やだ、ぼさぼさの子ネズミじゃない。全然美しくないわ」
振り返った男は190㎝は超える長身と筋肉に覆われた体、スカイブルーの長髪を一くくりにし、はっきりとした目鼻立ちに濃いメイクを施しているにもかかわらず違和感なく似合っている。
「この気色悪い蛾は虫族のティティ―リア。自分が美しいと勘違いしてる役立たずですの。近寄らないほうがよろしくってよ」
「あたしは蝶よ!磨かなければ輝けないこのブスはいつもあたしに嫉妬してるのよ。かわいそうだと思わなぁい?」
どうやら仲が悪いらしい。お互いをブスブスと罵っている。どちらにもまったく同意できずに口元をもごもごとしていると、ぼそぼそとした声がとんできた。
「二人とも仕事をしない役立たずです。その喧嘩はいつものことなので無視していいですよ」
「虫だけにね」と無表情で言う彼は、小さな丸椅子に腰かけて月のように湾曲した机に大量の書籍を置き、かりかりと文字を書いている。砂色のぼさっとした髪、150㎝ほどの小柄な体でぎょろりとした黄金の瞳は、瞳孔が縦に長い。
「あら、陰気なチビトカゲが生意気なことを言ってるわね」
「ヤモリです」
ティティ―リアのおちょくりにもどこ吹く風でいなした彼は、ビビオに目を向けた。
「リデュエスと言います。爬虫類族です、おもに集められた情報をまとめて清書しています、どうぞよろしく」
挨拶をされ、ビビオははじめて自分がちゃんと挨拶を返していないことに気付いた。
「ビビオ・カレシュと申します。どうぞよろしくお願いします」
「存じております。首席で卒業しながら地方に飛ばされ今度はこんな無能のたまり場に配属されるとんでもないエルフだと。噂では人格に多大な問題があると聞いていましたが……」
リデュエスはビビオをまじまじと上から下まできょときょとと眺めた。
「そのような様子はなさそうですね」
「いえ、みなさんの仕事ぶりを拝見して、こちらの職場ならもしかして何もしなくていいのではと期待に胸を膨らませております」
本音をずばりと言ったビビオにしん、とあたりが静まり返った。
「……ここへ配属された理由はよくわかりました」
「おい、新人がなに生意気言ってやがる」
恐ろしく不機嫌そうな声が、ビビオの願望をぶち壊した。
扉の前で杖をぽんと叩くと扉のロックが解除され、扉が水となって周囲に霧散した。
中へ入ると、異空間が広がっていた。
端的に言うならば庭が広がっていた。青い空とそれを覆うような樹木と外壁、無造作なようで計算されたようにつたうつる薔薇、敷き詰められるように散らばるサクラソウ。小鳥のさえずりまで聞こえてくる。
「これは……水魔法?」
「あら、よくお分かりになったわね」
ビビオが部屋の様子に意識をとられていると、中にいる女性から声をかけられた。
「水魔法で庭の幻影をつくって美しい空間にしていますの。美しくなかったら耐えられませんもの」
木製の机で爪を真剣に磨いている女性が言った。ウェーブの黒髪は驚くほど艶やかで、大きくカーブを描いたきらめく紫の瞳、つんと上向きの鼻、吸い付きたくなること間違いなしの唇。
頭の上からつま先まで磨き抜かれたような美女だ。机の上には大量の美容グッズと美容情報が載っていると思われる書籍が並んでいる。
「ようこそ新人の方、お入りなさいな」
美しい彼女に目を取られていたが、誘われて入ってみると4人の司書、と思われる人々がいた。立ち上がった美女は、ビビオの前に立つと少し身をかがめて肩に手をかけた。
「わたくしの名前はマイラ。見ての通り人族ですわ、どうぞよしなに」
そして肩にかけた手を背中に回してぐっと中へ誘導した。足もとの土や草を踏みしめる感覚も再現されていることに感心しながら進むと、なぜ目に入ってなかったのか、真珠に空の色を一滴混ぜ込んだような美しくどでかい蝶の羽をゆらゆらとはためかせた男が全身鏡に自信を写してあらゆる角度から自分を見ている。
「あら、なあに。この子が新しい子?やだ、ぼさぼさの子ネズミじゃない。全然美しくないわ」
振り返った男は190㎝は超える長身と筋肉に覆われた体、スカイブルーの長髪を一くくりにし、はっきりとした目鼻立ちに濃いメイクを施しているにもかかわらず違和感なく似合っている。
「この気色悪い蛾は虫族のティティ―リア。自分が美しいと勘違いしてる役立たずですの。近寄らないほうがよろしくってよ」
「あたしは蝶よ!磨かなければ輝けないこのブスはいつもあたしに嫉妬してるのよ。かわいそうだと思わなぁい?」
どうやら仲が悪いらしい。お互いをブスブスと罵っている。どちらにもまったく同意できずに口元をもごもごとしていると、ぼそぼそとした声がとんできた。
「二人とも仕事をしない役立たずです。その喧嘩はいつものことなので無視していいですよ」
「虫だけにね」と無表情で言う彼は、小さな丸椅子に腰かけて月のように湾曲した机に大量の書籍を置き、かりかりと文字を書いている。砂色のぼさっとした髪、150㎝ほどの小柄な体でぎょろりとした黄金の瞳は、瞳孔が縦に長い。
「あら、陰気なチビトカゲが生意気なことを言ってるわね」
「ヤモリです」
ティティ―リアのおちょくりにもどこ吹く風でいなした彼は、ビビオに目を向けた。
「リデュエスと言います。爬虫類族です、おもに集められた情報をまとめて清書しています、どうぞよろしく」
挨拶をされ、ビビオははじめて自分がちゃんと挨拶を返していないことに気付いた。
「ビビオ・カレシュと申します。どうぞよろしくお願いします」
「存じております。首席で卒業しながら地方に飛ばされ今度はこんな無能のたまり場に配属されるとんでもないエルフだと。噂では人格に多大な問題があると聞いていましたが……」
リデュエスはビビオをまじまじと上から下まできょときょとと眺めた。
「そのような様子はなさそうですね」
「いえ、みなさんの仕事ぶりを拝見して、こちらの職場ならもしかして何もしなくていいのではと期待に胸を膨らませております」
本音をずばりと言ったビビオにしん、とあたりが静まり返った。
「……ここへ配属された理由はよくわかりました」
「おい、新人がなに生意気言ってやがる」
恐ろしく不機嫌そうな声が、ビビオの願望をぶち壊した。
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