独立国家【図書館】

九鈴小都子

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1章-1

ビビオは調査のため国境へ

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調査当日、ビビオは集合場所である中央図書館噴水前に来た。出発日和の晴れた空の下、心地よい風に噴水の水しぶきが揺れて光を照り返して輝き、正直遠足気分でスキップでもするようにやってきた。しかし、ガランの引き締まった表情と妖精用の旅装束にがっちりと身を包んだミルを確認して自分のお気楽さを反省する。

「よし、集まったな。じゃあ地下通路を使っていくぞ」
「ミルは入ることができるのですか?」
「部外者の地下通路利用には中央図書館の許可証が必要になる。ミルの分は俺が申請しておいたから問題ないぞ」

そう言いながら地下へ降りた3人は、二人乗りの車に乗り込んで出発した。

「これから辺境へ向かう、だいたい二日ほどで到着するだろ」
「この道いいわよねぇ、最短ルートで行けるんだもの。一般開放してほしいくらい」

ビビオの肩に座ってミルはあくびをした。自動運転で進む車はすることがないと大変暇だ。

「国内だけとはいえ、これは楽ですよね」
「地上にも車はあるしバスもあるが、まあストレスはないよな」
「でも景色が見えないからつまらないわね」

三人は気楽に会話をしながら道を進み、一日目は一度地上へ出て宿泊し二日目で辺境都市へ到着した。

辺境都市グランは都市を治める役人と国境警備隊、そして統治にかかわるグラン国境図書館と権力が微妙なバランスを保っている場所だ。
そのため中央図書館ほど図書館の力が強いわけではないという話をビビオは聞いていたが、地下道路から地上へ戻ってから聞いていた以上に「微妙なバランス」の空気を感じ取った。

辺境図書館の中央広場に出たビビオたちは、中央とは大きく異なり無骨でいかにも硬さを優先したような図書館だった。図書館と広場を囲う外壁も高くそびえており、緊急時には敷地内に避難できるようになっている。

「首都とは全然ちがいますね」
「一応国境付近だからな。リブスタレオスとは今のところ争いはないが、備えるにこしたことはない」
「なんだかすごく堅そうねぇ」

話しながら調査のため国境越えの報告をしようと図書館内へ入っていくと、カウンターから怒鳴り声が聞こえてきた。

「だから!こっちは国を守るためにここにいるんだよ。少しは融通をきかせられないのか!?」
「ですから必要な場合は許可証が必要な決まりがあります!緊急の戦闘状態でない限り特例は認められません」

言い争っているのは国境警備隊員と思しき3名と、受付の女性司書だった。周囲を見回すと、彼らを遠巻きに見ている図書館の利用者と司書たちが息をつめて聞き耳をたてているようだ。司書たちは見てはいるが助けに入ることもせずかかわらないようにしている雰囲気で、この争いを止める気がなさそうだ。

「なんかあのトラブルは受付一人に対応させるべきではないと思うのですが」
「普通は上のやつがでてくるはずだがな」
「図書館であんな大声だしちゃっていいの?」
「ダメに決まってる」

しかし、中央図書館の司書である自分たちは管轄外のため関係はないとカウンターにいる別の司書に声をかけた。

「中央図書館所属のガランだ、調査のためリブスタレオスへ向かう予定だが」

ガランが国境越えにともない注意事項を確認しようとしたとき、横から声がかけられた。

「おい、中央図書館所属の司書とは本当か」
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