独立国家【図書館】

九鈴小都子

文字の大きさ
上 下
20 / 20
1章-1

ビビオは異様な国境の様子を垣間見る

しおりを挟む
声のほうを三人が振り向くと、受付にくってかかっていた国境警備隊員が近づいてきた。

「ああ、俺たちは中央図書館の司書だが」
「中央の司書なら俺たちの要望を通してもらえるんじゃないのか」
「……一体なんのはなしだ」

どう考えても自分たちの仕事とは関係ない上に面倒なことにからまれそうだが、三人はぴりついており無碍にすることもできないようだった。三人のうち、恐らく階級の高いだろう男が食って掛かってきた。

「俺たちは国境警備隊だ、辺境図書館長との面会を求めているんだがいつも居留守をつかわれていてな。会えないんだったら司書の特権を俺たちにも使わせてくれってお願いしてるんだよ」
「特権の利用は許可証の発行または緊急時の場合と決められている。俺たち司書がどうこうできるもんじゃない」
「だから!そこをなんとかって言ってるんだ。いいか、俺たちは国境を守ってるんだよ、それなのになんで司書にだけ特別な権利がある?図書館と国境を他国から守ることと、どっちが重要なのか考えたらわかるだろう」

(なるほど。なんだかんだ言ってますが不満が高まっているのですね)

「そちらの主張はわかったが。しかしなぁ……」

ビビオはガランの後ろに回り込んでこそりと話しかけた。
「わたしたちにはどう考えても権限がありません」
「そうなんだが、そう言って納まる様子もないからなぁ」
「だいたい!たいして強くもない、ただ本を守ってるだけなのになぜこのような特権が許されているんだ?こっちは薄給で体張って守ってるんだよ!クソッ」

もはや愚痴をこぼしている男をみつつも、ビビオはわからぬように周囲を観察した。

(なぜこんなにも不満がたまっている?我が国が図書館なしには成立しないことは誰もわかっていたはず。波のように不満がじわじわと押し寄せているような……)

そう思っていると、ビビオは違和感のある人々がいることに気が付いた。こちらの様子をうかがっている市民、司書、そして国境警備隊、何人か口角が上がっている、不安げに見ている割に瞳孔が開いてどこか楽し気なのだ。

「はあ、とりあえず俺たちがここの館長に話を確認するから、今日のところは帰ってくれないか。君たち、名前と所属は?」

未だ言い足りなさそうな様子の男だったが、さすがに熊獣人のガランが強いだろうということは理解できるのか一応の矛をおさめて、「俺はツィリルだ、国境警備隊本部へ声をかけてくれたら対応する」と言って図書館からでていった。

ビビオは愚痴をこぼす国境警備隊の男の後ろで、男が話すたび煽るようにうなずいていた人物が背を向けてでていくのをじっと見つめた。他にも違和感を覚えた人々をしっかりと記憶し、あとでガランに相談しようと考えた。

対応していた受付の司書は助かったと思ったのか、疲れた様子で椅子に座り込んでいた。

「あらためて、中央図書館情報収集室のガランだ。国境警備隊はいつもあのような感じなのか」
「お疲れ様です、ようこそ辺境図書館へ。ご対応ありがとうございました……」

そう言ってから言い辛そうに周囲を見回していた受付の司書は、他の司書に受付を交代してから「応接室にご案内します」とガランたちに伝えた。

通された部屋のソファに全員が腰かけると、受付司書は思いつめたように話し始めた。

「ご相談したいことがあります」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...