9 / 31
秋野の思い出巡り計画 5
しおりを挟む秋野の部屋に戻ってきた俺たちは、買ってきた駄菓子をテーブルに並べた。
ヨーグルトっぽい駄菓子や四角いピンク色をした爪楊枝で食べる駄菓子など懐かしい駄菓子が勢ぞろいだ。
一つ一つ手に取り、食べていく。うん、普通に美味い。案外お茶と相性がいいのかもしれない。
「思い出巡りもそうだけど、友達作りはどうするんだ?」
思い出巡りはこうして定期的に昔行ったことがあるであろう場所を巡ればいい。
しかし友達作りはそうはいかない。今までのように浅い関係を増やしたところで親友は現れないのだ。
何かしら対策を取る必要がある。誰と仲良くなりたい、などはあるのだろうか。
「中学からの友達とかはいないのか?」
「いるけど、すごい仲いいってわけじゃない、かな」
中学から関係が続いているが、それもたまに遊んだり話すくらいの関係と。
俺とクラスメイトの関係をさらに良くした感じか。俺の場合は話す機会があれば話す程度で遊びもしないけども。
そうなると友達だと声を大にして言える人は限られてきそうだ。
「じゃあ、仲良くなりたい子は?」
「仲良く……みんなと仲良くなりたいけど」
「だからそれは難しいんだって。今の俺や一之瀬よりももっと一緒に話をしたり遊んだりしたい相手は?」
「んー、思いつかない……」
「ま、そうだよな。そう簡単に見つかるものじゃないしな」
よくよく考えてみれば親友なんて自分からなりたいと思うものじゃない。友達からさらに仲良くなって、気付いたらなっているようなものだ。
友達の状態で関係がしっかりしていないと、そこまで成長はしない。
それに、秋野は周りからみんなと友達という目で見られている。向こうから自分だけ仲良くなろうと近づいてくることはまずないだろう。
「うーん、うーん……あっ、委員長とか!」
「委員長? なんで?」
意外や意外。秋野は委員長と仲良くなりたいらしい。
俺からの委員長の評価は、昔の秋野と今の秋野を足したような感じだ。
周りのみんなとも良い友好関係を持っていて、それでいて大人しい。
とはいえ、誰かと仲良くしているところは見たことがない気がする。そう考えると交友関係は俺に近いのか。
「忙しいのか知んないけど、あんまり話す機会なくてさー」
「その割に掃除は頼まれるよな」
「うん、だから信頼されてるのかもって!」
あんまり関りがない相手に掃除を頼む、それは信頼されているのだろうか。
委員長本人に仲のいい友人がいないからかもしれないが、それだけで信頼されてると思うのもどうなんだ。
「どうだかなぁ、でもまあ話しかけてみたらいいんじゃねーの」
「うん、手伝ってよ」
そんなことを言い出す秋野。
正直秋野のコミュ力なら委員長に話しかけるくらいは楽勝だと思うんだが。
むしろ、俺がいることで邪魔になりかねない。友達作りにおいて俺の存在が邪魔すぎる。
「邪魔にならないか?」
「大丈夫大丈夫、一緒にいるだけだから。それにまだ……怖いし」
「ああ、委員長と二人だと他の人が混ざるかもってことか」
秋野の交友関係だと、委員長と二人でいると女子や男子に会話に混ぜてーと言われてしまう可能性がある。
そこに俺がいたらどうだろうか。一気に近寄りにくくなる。秋野と、委員長と、俺。どんな組み合わせだよと全員が身構えることだろう。
「そゆこと。校内で一人にしないでね」
「難易度高いなぁそれ」
秋野を校内で一人にしないってかなり難しいだろうな。
まあ登校は仕方ないとして、朝話して、休み時間も適当に会話して、昼も一緒に食べて……まあ、俺自身動き回らないから負担は思っていたよりも少なそうだけども。
「早速明日話しかけてみようかな、お昼一緒に食べるとかどう?」
「俺に聞くなよ……まあ、最初はそんなもんだろ。普通に話しかけても話題なんてないし」
お昼一緒に食べて、委員長としての仕事は何をしているのかとか、適当に話をすればいい。
盛り上がる状況が想像できないが、まあ話してみたら何とかなるものだ。盛り上がらなくても会話ができればそれでいい。そこから関係が生まれるのだ。
「決まりね、一之瀬くんはどうしよっか」
「あいつ一人にすると後でめんどくさいからなぁ、かといって連れて行ったらやかましいし……仕方ない、俺が何とかしとくよ」
適当な嘘をついて離れればいいだろう。頭は切れるが基本的にはバカなのでどうにかなるって。
「じゃあ、今後の計画はそんなもんかなぁ。思い出巡りは土日にでも行こうぜ」
「そうだね。えーっと、もう帰っちゃうの?」
「おう。流石に長居はできないからな」
これ以上することもない。帰ったら一之瀬の奴にチャットで弁明しておこう。
そう思いながら立ち上がり、駄菓子のゴミを片付ける。鞄に入れ、スマホを持ってドアに手を掛けた。
ドアノブを捻り、ドアを開けようとする。
開かない。
「え? 開かないんだけど」
「なんで? カギなんでついてないよ?」
「歪んでんのかな」
壊れたらごめんなさい、と力を入れてドアを開けようとする。
グッと力を込めると、ドアの後ろにある何かを押す感覚があった。
「きゃっ」
「え」
ガタンガタンと音を立てて何かが倒れた。
そして今の声、秋野の声ではない。
状況を確認するため半分開いたドアから廊下を覗き込む。
そこには、青いバランスボールと、尻もちをついた栞里さんがいた。
「ああっ、せっかく置いたのに……」
「何してんすか……」
残念そうな顔で呟く栞里さんがいた。
本当に何をしているんだ。軽く状況を整理してみよう。
ドアの反対側にはバランスボール。それだけなら最初に押したときにある程度開いたはず。
ということは、栞里さんがバランスボールを後ろから抑えてドアが開かないようにしていたということ。
どういうことだよ。もっと分かんないよ。
「ちょっと、お母さん何やってるの!?」
「いやぁ、せっかく二人きりだしいい雰囲気にならないかなーなんて……あはは」
「お母さん何言ってるの!?」
もう脳が上手く処理してくれない。
え、つまり栞里さんは俺と秋野を閉じ込めようとしたってこと?
怖くなってきた。一旦落ち着こう。軽いいたずら心かもしれない。
「とりあえず、見なかったことにしておきます。お邪魔しました」
「あ、うん。裕司くん気を付けて帰ってねー」
「ま、またね!」
やばい。あの人はやばい。
俺の中で危険信号が出まくっている。なんで久しぶりに会った娘の幼馴染を閉じ込めようとしてんだ。
帰ろう。帰って妹に癒されよう。ここ最近で色々ありすぎた。
* * *
家に帰った俺は風呂に入りくつろいでいた。
ふー、この時間が一番いい。
なんて思っているとインターホンが鳴った。玄関に近かった妹が向かったようだ。
少しすると妹が帰ってくる。何だったんだ。
「お兄ちゃん、お客さん」
「俺に?」
相手の用事はまさかの俺らしい。
誰だろうか。もう空も暗いというのに。
嫌がられてなかったから一之瀬ではないな。他に思いつかない。
玄関に向かい、ドアを開ける。
そこに立っていたのは……
「よっ、久しぶりだなぁ裕司」
秋野のお父さんだった。
0
あなたにおすすめの小説
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる