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沢野佳世との親睦 1
しおりを挟む翌日。学校に登校した俺は真っ先に委員長の様子を見ることにした。
朝から自習をしているようだ。秋野はまだ来ていないし、話をしてみてもいいかもしれない。
「おはよ」
「あ、杉坂くん。おはよう。どうしたの?」
挨拶をすると、笑顔で答えてくれた。
委員長、あんまり笑わないと思っていたが、思ったよりも表情は柔らかいな。
関わったこと自体ほとんどないのだから、知らないことも多いのだ。
「いや、何してるのかなって。自習か?」
「ええ、少しだけやっているの。杉坂くんは何か授業で分からないことある?」
授業で分からないことか。
全体的にテストの点数は平均くらいなのだが、英語がどうしてもダメだ。
綴りとか覚えられるわけがない。何でそこにその文字が入るんだってことが多すぎる。
英語は中学の頃に捨てた。ここから持ち直すには基礎からどうにかするしかないだろう。
「ん、英語は全部分からん」
「なら、いつでも聞いて。ちょっとなら力になれるから」
ほお、委員長に教われば多少は英語もどうにかなるかもしれない。
魅力的な提案だが、ちょっと頼むのは申し訳ないな。流石に一から教えてもらうわけにもいかない。
「ほんとか? 助かる。あ、でも俺よりも一之瀬に教えてやってくれ。本当に手遅れになる」
「そうなのね……じゃあ、一之瀬くんにも伝えておいて」
「おう、分かった。じゃな」
「ええ」
軽く手を振り、自分の席に戻る。
委員長、初めてしっかり喋ったけど思っていたよりも親しみやすい人だな。もっと真面目で無表情だと思っていた。
ここで名前を憶えていないことに気付く。確か担任の先生がわざわざクラスメイトの名前が番号順に書かれたプリントを配っていたはず。
新学年になってからの全てのプリントをまとめたクリアファイルからその名簿を取り出し、委員長の名前を確かめる。
沢野佳世、これだ。確かにそんな名前だった気がする。
「ういーっす、何見てんのさ」
ついでに他のクラスメイトの名前も眺めていると、背後から声を掛けられた。
一之瀬だ。最近は遅刻も増えてきたというのに今日に限って来るのが早い。昼から登校してくればよかったのに。
「いや、委員長の名前って何だっけって思ってな」
「委員長? あー、あの。急にどしたの」
「さっき喋ってみたら、思ったよりもいいやつだったんだ。だから名前を確認してた」
「ふーん」
一之瀬は会話を広げるわけでもなく俺の顔をじっと見つめてきた。
なんだよ気持ち悪い。俺の顔に何かついてるのか?
「興味ないか?」
「別に。秋野ちゃんに続いて委員長にも手を出すとは、色男だねぇ」
「だから昨日のは違うわ!」
慌てて訂正する。
昨日、チャットで軽く説明したのに納得していなかったのか。
説明の内容は、秋野が倒れたときに居合わせていたので親に挨拶しに行って、そこから俺が駄菓子屋に誘ったということ。
本当のことを言わなかった理由は、単純に話すのなら対面で説明するべきだと判断したからだ。
「はいはい、そういうことにしておきますよ。それはそれとして、僕あんまりあの子にいい印象ないんだよね」
「というと?」
意外だった。一之瀬は委員長……沢野に注意されているというわけでもないのだ。嫌う理由がない。
「たまに女子に向ける視線が鋭くてさ、何か引っかかるんだよ。不機嫌になって、でも話しかけられたら笑顔で対応してて、変な感じ」
女子に? 男子にじゃないのか。
しかし改めて考えてみると納得できる。クラスの一部の女子は休み時間に大声で喋ったりするのだ。授業中に話し声が聞こえてくることもある。真面目に受けている側からしたらイライラするのも仕方がないだろう。
「ま、どうせ騒いでたとかでイラついたんだろ。俺もそういうのあるぞ」
「そういう感じだったかねぇ。ま、どうでもいいや」
「結局興味ないのか」
「そりゃね。女子同士のいざこざに巻き込まれなければどうだっていいよ僕は」
俺からしたら女子同士だろうが男子同士だろうがいざこざに巻き込まれるのは嫌だけどな。
一之瀬は一応俺よりも女性経験があるらしいので女子のめんどくさいところを知っているのだろう。
それを知らない俺はあまり口を出さないことにした。念のため、女子同士のいざこざが面倒という情報は心の片隅に置いておこう。
「おはよー、二人とも」
「おはようさん」
「おはよーう秋野ちゃん」
二人で駄弁っていると、秋野が教室に入ってくる。
一之瀬は昨日のことには触れずに気まずそうにしていた。おい、なんで俺には言えて秋野には言えないんだよ。
なんて思っていると、秋野が肩をトントンと叩いてきた。
「なんだ?」
「今日のお昼、大丈夫だよね?」
「ん、ああ。どうにかする」
一之瀬がすでに登校しているため、俺が昼に参加できるかを聞きたかったのだろう。
本当は昼に伝えるつもりだったが、早めに伝えてもいいか。
「そういえば一之瀬、今日の昼は一緒に食べられねーわ。悪いな」
「は? なんでだよ、いつも一緒に食ってたじゃん」
想像以上に不機嫌になる一之瀬。まさかお前俺のこと好きなのか? やめてくれ。
冗談は置いといて、早速用意してきた一之瀬から離れる呪文を詠唱させてもらおう。
「それがな、そらが今日のお弁当は自信作だから一之瀬に見せずに食べてくれって言ってきてな」
「僕なんでそんなにそらちゃんに嫌われてるの!?」
「知らん」
ちなみにそらとは、俺の最愛の妹のことだ。
杉坂そら。昔は入院するほど身体が弱かったが、今は元気にオタク活動をしている妹である。
一之瀬はそらに何故か嫌われているため、ここで利用させてもらった。おそらく本人も言うかもしれないセリフなので違和感はない。
「へー、妹ちゃんいるんだ」
秋野の発言に、俺は条件反射的にスマホの写真アプリに指を動かした。
そこにまとめられている妹アルバムを秋野に見せる。この間0.2秒。
「ああ。見てくれ、可愛いだろ? そらって名前でな、毎日弁当を作ってくれる天使だ」
「シスコン……?」
「否定はしない」
妹も妹で、お兄ちゃんっ子だからシスコンブラコンの兄妹ということになる。
毎日、幸せです。中学を友達ゼロで過ごせたのもそらのおかげだ。いなかったら本格的にやばかったかもしれない。虚無つらい。
俺が妹自慢をしていると、担任の先生がやってきてHRが始まる。
昼には秋野と沢野の昼食に付き合うのか。今のうちに空気になるイメージトレーニングをしておこう。
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〈注〉
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