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第一章『黄金の果実編』
064 コレクター、帽子を人質に取られる
しおりを挟む「じゃあ、本気で行くぜ」
「せいぜい楽しませるのじゃ」
二人が構え、互いに見据える。
あ、これ俺が開始の合図出さないといけないわけか。
「用意……始め!」
俺が出した合図と共に、カリウスが地面を蹴った。
一瞬で距離が詰められ、最初の攻撃をする。ドレイクはそれを避けながら、俺にしたのと同じように身体の下に潜り込んだ。
カリウスは、それに対して冷静に対処する。避けるでもなく、蹴りを行い弾き飛ばしたのだ。
お互いに数メートルほど吹き飛ばされ、お互いに地面を蹴る。
そして再び剣を振り、ドレイクはそれを受ける。
真っ向からの勝負、俺はこれができなかったのだ。
「やるのう。じゃが、これからじゃ!」
「まだまだァ!」
改めてカリウスの動きを見ると、無駄がない。
一つ一つの動きが滑らかで、ドレイクが出す炎や威圧に怖気づかない。
ああいう立ち回りがしたい、ああいう気持ちで戦いたい。そう思いながら戦っているのだが、やはり現代人だからだろうか、本能的に恐れてしまう。
「わしはまだ負けぬ!」
「ぐぁっ!?」
ドレイクが炎を発しながらカリウスに重い一撃を加える。
それに耐えきれなかったカリウスは、弾き飛ばされて木の幹に背中をぶつけてしまった。
十分一撃として認められるだろう。そういえば、エリィも最初あんな風に背中をぶつけていたっけ。
「そこまで!」
俺の声に、二人はお互いに殺気を消す。
参考になることにはなるが、それを再現できるかどうかでは強さは変わらない。
やはり気持ちの問題、繰り返してメンタルトレーニングをするしかないのか。
「ふぅ、やっぱり敵わねぇか」
「ふむ。じゃが実力は確かなようじゃな。誇ってよいぞ」
「そいつはどーも」
しかしカリウスがここまで強いとは。のらりくらりと修行をしていた頃にシャムロットで有名になっていたらしいが、詳しい話は結局聞けていない。
さて、次は俺とカリウスの戦闘だ。これは定期的にトワ村で行っていたのであまり結果は変わらないだろう。
そういう戦闘はかなり繰り返しているはずだが、それでも足りないか。
「始めじゃ!」
ドレイクの合図と共に、いつもよりもさらに気合を入れて戦闘に臨んだ。
* * *
長い戦闘の末、アイテム差で俺の勝ちとなった。
そりゃ、アイテム使って人間であるカリウスに負けていたらやっていられない。
というわけで再びカリウスとアイテム禁止での戦闘を行った。この場合、本気でやると俺が技術の差で負けることになる。
戦闘して、休憩してを繰り返しているが、あまり変わった気がしなかった。
どうしたものかと休んでいると、頭に硬いものが当てられた。目を向けると、そこにはポーションを持ったエリィが立っていた。
ちょうどポーションを飲もうと思っていたところだ。ありがたくいただこう。
「ありがと」
「変な音がするかと思えば、何してるのよ」
「修行だよ。まだまだ俺も弱いからね」
「レクトが弱いって……」
エリィの目線から見ればめちゃくちゃ強いんだろうが、俺の弱いところは実戦において致命的すぎる。
現実世界での価値観が強すぎるのだ。帰りたいと思っているので忘れたいとも思わないが。
「エリィではないか、どうじゃ、お主も修行せぬか?」
「時間が出来たら参加かな、今日はいいわ」
帰ってきたばかりで、ポーションの製造もしていたのだ。当然疲れる。
俺が想像している以上に、ポーション製造は疲れるのだ。
「エリィ、レクトのことで相談があるんだが」
「相談?」
「ああ、実はな――――」
カリウスはエリィに、俺が悩んでいることについて詳しく話した。
それを聞いたエリィは。
「本気を出せる環境にすればいいじゃない」
こう言った。
それは分かっているんだけど、上手くいかないんだよね。
「殺し合いに近いことしてるんだけど、どうにも上手くいかなくて」
「……いや、よく考えたらできるな」
今以上に本気になる方法は無いと思っていたのだが、カリウスは何か思いついたらしい。
「どうやってさ」
「こうする」
カリウスは、そう言うと俺の頭に手を伸ばしキャスケットを取り上げた。
それを指でくるくると回す。ちょっと、それは俺の宝物なんだけど。
悪いことはしないと分かっていたも、少し頭に来てしまい睨みつけてしまう。
「なんでそんなことするのさ……」
「オレはレクトには殺しをしてほしくないと思っている。だから、確認をさせてくれ。お前にはその覚悟があるのか?」
「……もちろん。あと帽子返して」
殺しに対する覚悟は、もうすでに完了している。
ジャスターにも本気の殺意を向けていたし、あの時あの場所で本気で殺すつもりだった。
「よし。ならお前の本気を引き出そう。エリィの言うように、何が何でもやらなきゃいけない、そういう状況を作ればいいんだ」
「これでも本気のつもりなんだけどね」
「自分ではそう思っていても本気は出ていないんだよ。どこかでブレーキが掛かっている。違うか?」
「……違わない」
確かに、頭では本気のつもりでも、心のどこかではどうにかなるだろうと、どこか余裕を作りすぎていた気がする。
本気ではあるが全力ではない。ということか。
「だから帽子を奪った。お前が本気になるなら、物が関係しないとダメだろ?」
「まあ、そうだね。ってことはまさか」
「そう。勝てるまで帽子を返さない」
なんてむごいことを。
今回ばかりは俺も焦る。その帽子は約束を守るために必要なのだ。だからこそ肌身離さず持っていた。
絶対に失うわけにはいかない。
「勝てるまでって、カリウスに?」
「おう、どうだ?」
カリウスに勝てるかどうかか、そもそもカリウスとの実力差はそこまでない。技術の差では負けているが、勢いに任せれば俺にチャンスはある。
これは心を切り替える修行なので、アイテムを使う必要はない。となれば。
「道具無しでドレイクに勝つ、が条件じゃダメ?」
「それでもいいが、おいおい舐めてもらっちゃ困るぜ?」
「別に舐めてるわけじゃないよ。どうせ自分を追い詰めるなら、他種族のドレイクを目標にしたいんだ」
既に人間の強さに収まっていないとは思うが、人間を越えたい。
そのくらいじゃないと、世界を救えない。ゲームの力だけでなく、俺自身の力を手に入れる。
「なら、その帽子はわしが預かるのじゃ」
「うん、お願い」
カリウスからドレイクに黒いキャスケットが渡る。
あれを次に被るときは、俺がドレイクを剣で越えた時だ。
絶対に取り返す。絶対に強くなってみせる。
弱まっていた魂の火が、再び勢いを取り戻した。そんな気がした。
「はぁ、またレクトは変なことを……」
「オレもドレイクを目標にしてみるかねぇ」
「ここにもいたわ……」
結局、修行は夜遅くまで続いたのだった。
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