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第二章『黄金の羊毛編』
080 コレクター、弔う
しおりを挟む躊躇いなく、俺は魔法を発動させる。
空間の広さが分からないのである程度の範囲攻撃を中心に使っていこうか。
まずは〈紅炎〉。レベル4の炎魔法だ。真っ赤な炎が前方を焼き尽くす魔法だ。
これならば背後で待機している獣人に当たらずに済む。
「〈紅炎〉」
「きゃあああああああ!?」
悲鳴を上げながらも避けたリスティナが大慌てで距離を取る。
防戦一方、避けることに専念するのだろう。
しかしなぜだろう、リスティナには絶望の表情が浮かんでいない。
普通この状況になれば絶望し空間を解除して逃げるだろうに。
「ふふっ、でもあたしにはまだ最終兵器があるんだよぉ~。無理やりは嫌だけど、やっぱり諦めきれない!」
まだ何かを隠しているらしい。
避けるか、いや、防御魔法を使って守るか。
そうこうしている間に、リスティナは目を見開いた。
巨大な魔力が放出され、リスティナの瞳が紫色に発光する。
「〈女王の魅了〉」
ぶわあああっと魔力を感じるが、特に何も起こらない。
「……?」
「あ、あれぇ~???」
失敗したのだろうか。
それならばこちらから攻めさせてもらおう。
腕を前に出し、いつでも魔法を出せるようにする。
「ちょちょちょ、待ってよぉ~! なんで効かないのぉ!? 最強の魅了魔法だよぉ?」
ああ、チャーム、つまり魅了魔法ね。
『トワイライト』でも魅了魔法は厄介だった。
時に味方を攻撃したり、身動きが取れなくなったりと毛嫌いされていたっけか。
使うのは悪魔族だ。懐かしいな、初見殺しだったことをよく覚えている。
最終兵器を無効化してしまったので気が抜けてしまった。
リスティナは先程まであっけらかんとしていたのに今は顔を青くして顔に絶望を浮かべていた。
せっかくだし無効化できる理由を教えてあげようかな。
「魅了……は無効化してるよ、これで」
俺はリスティナに左手の甲を見せた。
様々な指輪の中から、俺は左手の薬指にあるシンプルな宝石の指輪を指さす。
そう、結婚指輪である。普段から大量の指輪をしているので気付かれないが、俺は結婚指輪を装備しているのだ。
「けけけ、結婚指輪ぁ~!?」
「本当の結婚とはちょっと違うけどね」
ゲーム内結婚。
オンラインゲームではよく聞く言葉だろう。
『トワイライト』にもその機能は実装されており、俺はゲーム内で結婚システムを利用していた。
寝る時も外していないのはこの指輪だ。宝石も小さくあまり邪魔にならないので付けているのだ。
「相手は!?」
「内緒」
「あ~~~ムカつくなぁ!!! なんで勝手に結婚してるのぉ~!?」
「そんなこと言われても……」
そもそも出会ったのはリスティナの方が後だろうに。
おっと、こうして会話をしていたら情が湧いてしまう。さっさと倒さないと。
「って、これピンチ~? 絶対絶命だぁ~!」
「みたいだね。さて、やろうか」
自分に多少のダメージが入ることを覚悟してレベル5の魔法を使うべきだろうか。
それともレベル4の魔法を何度も使って追い詰めるか。なんにせよ逃げられる前に倒す。
「あ~~~解除解除! また会おうねレクト様! 結婚してても関係ないもん! 次こそは手に入れるから!」
「くっ、逃がすか!」
パッと黒い空間が郊外の林に変わる。獣人たちが俺に向かって走り始めた。
それと同時にリスティナは石を取り出す。まさかあれは!
「転移っ」
リスティナが青い光に包まれていく。
やはり『転移石』か! しまった、獣人たちを警戒していなかったせいで反応が遅れてしまった。間に合わない!
「ばいば~い!」
魔法じゃ間に合わない、でも短剣なら……!
俺は短剣を取り出し、全力で地面を蹴った。
「らあああああああ!!」
「ひゃっ!?」
首を狙ったが咄嗟に頭を動かされ角に剣先が触れる。
折れるまではいかなかったが、角に傷をつけることには成功した。
悪魔族は角が折れると魔力が減る。ほんの少しの傷だが何もできないよりはマシか。
残った獣人たちは……『パラリシスダガー』を取り出すまでもないか。
持っていた短剣でそのままチョーカーを外していく。はぁ、また逃がしちゃったかぁ。
やっぱり咄嗟に反応するなら職業は【剣士】の方がいいのかもしれない。
「レクト! 何があったんだよ!」
「どうだったんじゃー?」
遅れてカリウスとドレイクが林に入ってくる。
敵が見えないことと、ここで獣人の流れが止まっていることに気付いたらしい。
「ロンテギアを襲った悪魔と交戦した」
「なっ!? ってことは、逃げられたか」
「察しが良くて助かる」
この場に悪魔がいないこと、そして俺が暗くなっていることで逃げられたと判断したらしい。
間違っていないので訂正のしようがない。さて、どこから説明しようか。
「この死体はなんじゃー?」
「死体? って、ル、ルディオ王子……?」
「……」
見つけたか。
リスティナが空間魔法を解除した時、たまたま木の後ろに隠れたのだ。
どうせ説明するから見つかってもよかったのだが、それでも負い目があるのは俺が人間である証拠だろうか。
「……言いたくないなら、深くは聞かないぜ?」
「いや、全部話すよ。理由がどうであれ、俺がやったんだから」
状況が悪い、これは仕方がないことだ。
そう思っていても、人を殺めたという事実は変わらない。
俺はそれを受け止め、今後もいくつかの命を奪うことになる覚悟を決めた。
そして、カリウスとドレイクに説明した。
「ルディオ王子……いや、ルディオの独断で動いたんだろ。なら、無駄な殺生ではないと思うぜ」
「無駄というか、ここで死ぬべきじゃな。本来なら処刑されるのに生き延びていたんじゃから。遅すぎるくらいじゃ」
俺の話を聞いた二人の感想は、そういうものだった。
無駄ではない、それは分かっている。
ルディオの説明もしたので、ドレイクはかなり辛辣な感想だ。王族じゃなかったら決闘に負けた時点で処刑だったのか。
「あんな奴だけど弔おうとは思うんだ。穴掘るの手伝ってくれない?」
「お前なぁ……まあいいけど。覚悟決めた割には優しすぎるんじゃねぇか?」
「そういう世界なの、俺の故郷は」
現代での殺生とこの世界の殺生では意味が違ってくるだろう。
悪党は死んで当然、という風潮が残っているのだ。
俺たちは穴に入れたルディオの死体を焼き、簡易的な火葬でルディオを弔うのだった。
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