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第一章

スキル修練

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 再びイスに座ろうとしたが、リンクスに止められる。立ち話で済むらしい。
 壁に寄りかかり、手持ち無沙汰でギルドカードを触りながらリンクスの言葉を待つ。

「フォトちゃんについてにゃ」

 さらに真剣な表情。語尾のにゃは相変わらずつけているが、名前には付けなくなっている。

「何を言われるかは予想できるよ。俺を頼りにしすぎてるんだよな、あいつ」
「にゃんだ。みゃーはてっきりフォトちゃんがキールの言いなりになってるのかと思ってたにゃ」

 言葉の中でも露骨な語尾が減っている。本気でフォトが心配で、さらに俺を警戒している、か。

「俺だって困ってるんだよ。あいつ、俺がいなくなったらどうなるんだ? ってな。不安で仕方ない」
「それなら、本格的に改善させるべきだにゃ。戦う冒険者はいつ死ぬかわからない。もしフォトちゃんを悲しませたらみゃーは本気で怒るにゃ」
「俺が死ぬことは無いとしても、あの性格は改善させないとな」

 フォトが自分に自信が持てないのは実力が無いからではない。戦績が無いからだ。
 勝ったことがない、だから戦うのが不安。魔法がほとんど使えないから特別な強さを持っているわけでもない。自信がつかない。

「……まあ、その自信があるのもわかるにゃ」

 リンクスは苦笑いしながらそう言った。あれ、昨日は俺の実力なんてほとんど知らなかったのに。いつの間にか認められている。

「おっ、ついに俺を認めたか。もっと褒めていいぞ」
「回収された死体を見たにゃ。ハンターベアの切り口、あんなに綺麗な切り口初めて見たにゃ。何者にゃ?」

 そういえば、『刹那斬り』でハンターベアを倒したんだった。
 元々実力者だとは思われていたが、切り口を見て確信に変わった、みたいな感じか。
 勇者だとバレなければいいから、実力がバレてもいいかな。大事にさえならなければいい。

「ちょっと古い技を持ってる剣士だ」
「似合わないにゃ」
「うっせ。それよりまだ警戒してんの? 流石に傷つくぞ」
「んー、ちょっとは疑わにゃくなったけど、まだ不気味にゃ」
「そりゃよかった。一歩前進だ」

 500年前の勇者とか、不気味以外の何物でもないからな。そのくらいの評価が丁度いい。

「とにかく、フォトにゃんを利用しているわけじゃないにゃらそれでいいにゃ」
「おう」

 リンクスは話は終わったと言わんばかりにさらに奥に行ってしまった。フォト、ね。真剣な話はこれでおしまいか。
 俺もさっさと出ていくか。フォトを待たせてるからな。

* * *

 今回選ばせていただいた依頼は、ブロンズランクから受けられる魔物退治だ。
 魔獣は魔力を持った獣であり、人を襲わない種類もいる。しかし魔物は総じて人間を襲う。
 依頼に出される討伐対象は基本的に、人を襲う魔獣と魔物のどちらかだ。襲ってくる魔獣は構わず倒そう。戦わなければ生き残れない。

「はい。というわけで本格的にフォトに戦闘を教えようと思う」
「はい勇者様!」

 お目当てのヨロイトカゲの群れを見つけたので、近づきながら解説をすることに。
 ヨロイトカゲは頭部や背部が硬い鎧のようになっている魔物だ。前からただ攻撃するだけでは倒せない。
 複数人で戦い、誰かが注意を引き付けてもう一人が弱点である首元を狙う。これで簡単に倒せる魔物だ。

「あれはどうやって倒すんですか?」
「いいか、よく見ておけよ。『神速』!」

 まずはお手本を見せることに。剣を抜き、数回ジャンプしてリラックスする。
 こちらに気づいたヨロイトカゲ相手にスキルを使う。『神速』、一瞬で前に移動するスキルだ。
 直線で進むスキルなのだが、地面を蹴って曲がることも可能。ジグザグだけども。

「こうして……こうっ!」

 一匹のヨロイトカゲの目の前まで移動する。このまま倒すこともできるが、目の前で地面を蹴る。
 一回、二回。背後に移動する。そしてヨロイトカゲに向かって三回目。剣を首筋に当て首をはねる。
 『神速』を解除。背後に首が無くなったヨロイトカゲの死体。終了だ。

「ふぅ、こんな感じだな。おおっと、こらこらはしゃぐなはしゃぐな」

 残ったヨロイトカゲが襲い掛かってくるので、全部避けながらフォトに話しかける。

「す、すごいです!!」
「おし、やってみてくれ。今のと同じことをするイメージで走るんだ」
「ええっ!? わたしが同じことをですか!?」
「おう。魔法が使えないんだしスキルを教えようと思ってな」

 フォトは魔法が使えない、だから技もない。
 ならスキルを教えればいい。スキルは魔法とは違う。既に完成している技を身体に刻むのだ。

「んー……まあ一匹だけ残して練習するか。『刹那斬り』」

 ヨロイトカゲを一匹残して『刹那斬り』で倒す。
 魔物と魔獣の違い。それは知能があるかどうかだ。魔獣だったら仲間が殺されたら逃げる。逃げない奴もいるけど。
 とにかく、魔物には知能がない。何があろうと襲ってくる。襲うことしか考えていないのだ。だからこの状況は修行に最適。依頼もほぼ終わっているようなものだし。

「じゃあまず、真似して走ってみてくれ」
「え……やってみます」

 フォトが走る。うん、思ったよりも足は速いが普通に走っているだけだ。
 それにしても最後の一匹なのにしつこい。フォトがイメージを掴めるまで縛っておくか。

「『グラスバインド』」
「グエッ!?」

 足元の草が急成長しヨロイトカゲの足に絡みつく。これでわざわざ避けなくてもよくなった。
 そんなことをしていると、走っていたフォトが戻ってきた。めっちゃ汗かいてる。

「はぁ……はぁ……ど、どうですか……?」
「普通に走ってただけだな。そうだなぁ……自分自身が雷になるイメージで走るんだ」
「そ、それを早く言ってください!」
「悪い悪い。じゃあここに固定したヨロイトカゲがいるから、二歩で背後に回り込む練習をしてみて」
「うう……難しそうです」

 一歩、二歩とジグザグに進む練習。このスキルを身に付ければそのスピードに任せて剣を振って攻撃することができる。速さもパワーになるからな。
 フォトの成長こそ、今の俺が望むことだ。強くなれば自信がつく。フォトに自信がつけばリンクスも俺も安心できる。

 俺は感覚派だったから、スキルの教え方が得意なわけではない。だけど、だからこそ本気で教えなければ。
 さあ、元勇者のスキル修練の始まりだ。
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