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第二章

ギルド長シウター

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 ベストーハの街のギルドの規模はプレクストンよりも小さく、湖畔の村よりは大きいといったところ。
 しかし全てのギルドに共通して酒場があるのはなぜだ。そういう決まりなのだろうか。あ、ギルドが酒場運営してんのかな。

「思ったより広いな」
「クリム火山とプレクストンの中間にありますからね。それなりに実力のある冒険者が拠点として使うことも多いんだと思います」
「プレクストン周辺よりもモンスターが強いってことか。倒し甲斐があるな」

 火山は空気中の魔力が多い場所だ。空気中の魔力が多い場所ほどモンスターは強くなり、魔物も強くなる。
 そこに近づくほど危険になるのは当然のことだ。プレクストンに拠点を構えている人が多いのは、住みやすさ以外にも安全性があるからだ。
 魔力の多い場所、別名『スポット』が周辺に少ない、またはその『スポット』の魔力が比較的少ない街が大きくなる。王が城を構えるのもそういう理由だ。

「でも、勇者様なら簡単に倒せますよね」
「まあそうだけど、本気度ってのが違うだろ? 今までは『スラッシュ』で倒せてたけど、もうちょい強めのスキルじゃないと倒せないかもしれない」

 ベストーハ周辺なら簡単に倒せるかもな。ただ、ベストーハ周辺の『スポット』だと話は別だ。
 数が多くなるし、モンスターのパワーも上がる。防御力も上がるので、全力の『スラッシュ』で倒しきれない可能性が出てくる。
 魔界に入った時と似たような気持ちだ。あの時はインフレについていけずに死にかけたからね。フォトにも気を付けてもらいたい。

「どもどもー、お二人さん冒険者ですかぁ?」

 両目が黒い前髪で隠れた少年が話しかけてきた。耳がとがっている、ハーフリングか?

「ああ、そうだけど。誰?」
「ここのギルド長をしている者ですよ。名前はシウター。よろしくね」
「はあ」

 なんとギルド長だったらしい。ちなみにギルドマスターは一人なんだってさ、リンクスめっちゃえらい人だった。やばい。
 ところでギルドの偉い人はみんな小さくなきゃいけないの?

「フォト、ゴールドです」
「ゴールド! その年齢でゴールドランクとは、将来有望ですねー」
「えへへ」

 はいかわいい。
 そんなことより今の流れるような自己紹介、あれが冒険者の挨拶か。
 名前の後にカードを見せながら自分のランクを伝える、と。挨拶テンプレートだな。

「キール、ダイヤだ」
「キールダイヤさんね、よろしく」
「は?」

 思わずシウターの腰を掴み、掲げてしまった。高い高ーい。

「離して!! ちょっとふざけただけですって! 出ますよ!? 黄金の右腕出ちゃいますよ!?」
「なんだ黄金の右腕って」
「言ってみただけなんですけどね。待って! もっと高くなってる!!」

 生意気なガキにはこうである。いや年上の可能性もあるが。
 俺は誰にだってこの態度なのだ、嘘だ。怖い女性には敬語使うかもしれない。

「俺達プレクストンから来たんだけどさ、なんかリンクスに伝えることとかある?」
「とりあえず降ろしてもらっていいですか……」
「はいよ」

 シウターを降ろし、イスに座る。酒場なのに人が全然いない。

「んー、大事なことはもう伝言係に伝えてるのでないですねー」
「大事なこと?」
「最近クリム火山で何度か爆発が起こってるんですよ。もしかしたら噴火するかもしれないので伝えておきました」
「爆発ねぇ」

 ああ、それで冒険者が少ないのか。帰ったとは言っても流石に少なすぎると思ってたんだ
 クリム火山、500年前に昔噴火したと聞いたな。500年前のさらに昔なので、大昔である。
 俺が石になっている間に噴火はあったのだろうか。

「えっ、わたしたちこれからクリム火山に行く予定なんですけど……」

 フォトが不安になるのも当然だ。自然って、本当に怖いからな。

「安心してください。噴火があっても担当の魔法使いが食い止めてくれますから。ギルドマスターに伝えたのは本当にもしものことがあった時のためです」
「へぇ、ちなみに最後に噴火したのはいつだ?」
「約100年前です。その時も魔法使いが止めたので、今度も大丈夫でしょう」

 魔法使い凄いな。しかし本当に止められるのだろうか、一度実績があるとしても噴火の威力はその都度変わってくるのだ。魔法に頼りっぱなしなのも問題だろうよ。
 もし今回止められないほどの威力だった場合、近くにある村は間違いなく消滅するだろう。

「クリム火山の近くに村があるんだろ? 念のため避難させるべきじゃないのか?」
「もうとっくに言ってますよ。まあ誰も避難してくれなかったんですけど」
「ああ、そういえばそういう奴らだった」

 我らは火竜様と共にあり、みたいな人たちだった。噴火に巻き込まれて死ぬのなら本望だろう。

「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だろ、もし何かあったら全力で逃げるさ」

 そのための『神速』。魔法がどれほどのものなのかは知らないが、スキルである程度は防げるだろう。
 本当に危なくなったら精霊王にでも頼む。強制召喚はかなり怒られるけど、生存は確実だからな。

「自分の身は自分で守れなきゃ冒険者なんてやれないですからねー」
「それ、いいこと言うねシウター」

 まあもしもの時は精霊王たち頼るんですけどね。

「自分の実力を過信した奴ほどすぐに死んでいく。いっぱい見てきましたからね、そういう人たちは」
「あ、あのっ。このギルドには戦闘を中心に活動している冒険者さんはいないんですか?」

 暗い雰囲気にならないようにフォトが話題を変えた。俺も流されてそのまま過去の話をしていた気がする。危なかった。

「いますよ、変な人が一人」
「一人、ですか…………えっ、変な人?」
「ええ、変な人です。変だけどその人のおかげでこの街は守られてますよ、貴重な人材です」
「変って、あれよりもか?」

 窓の外を見ると、ギルドの前を走り抜けていく赤髪の男が見えた。その男を追いかける金髪の痴女。
 俺はあれよりも変な奴をあまり知らない。少なくともこの時代に来てからぶっちぎりで変な奴らだ。

「いい勝負ですね」

 シウターの口から出てきた衝撃の言葉に心が躍る。やばい、絶対会いたくない。なんでだろ、普通心が躍ったら会いたくなるのになぜか会いたくない。本能で嫌がってる。
 俺の本能マジで有能。韻をふんだつもりはない。
 とにかく、この街には変な奴がいるのだ。出発までの間、退屈しないで済みそうだな。
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