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第三章
勇者とは
しおりを挟むプレクストンの外壁の上にフレンはいる。
複数のニンファーを使用し指示を出すその役割はとても重要で、難しい役職だ。
直接戦闘もできるが、今は指示が基本。その指示に集中できないのだから、早く戻さなければならない。
「フレン!」
「あ、え、キール……様!?」
俺が声を掛けると、フレンは驚いた顔でこちらを見つめた。そして複雑そうな顔をしながら顔を背ける。
やはり勇者についての会話を聞かれてしまっていたか。
『魔力開放Ⅱ』で空を飛び、フレンの元まで移動する。これでもう無視はできないぞ。
「集中、できてないみたいだな」
「それは……はい、そうですわね」
自分が一番分かってるんだ、集中できていないことくらい。
じゃないと、ミスを連発しない。普段冷静なことを一番知っているのは自分なのだから。
「……その、わたくしのご先祖様、なのでしょうか?」
「……はい?」
あ、そうだ。そうだったよ。
俺はてっきりフレンが勇者の子孫ではないことにショックを受けているものだと思ってたが、そうじゃない。
よく話す知り合いである俺が勇者で、自分の先祖だと知って動揺していたのだ。
なら、今ここでそうだよと言って落ち着けることもできるではないか。
本当にそれでいいのだろうか。
フレンの先祖は俺ではない。それは確かだ。今ここで俺が先祖で勇者だと言うのは簡単だ。だが、それは嘘になる。
嘘をつくのは嫌だった。俺は、長い期間一緒に過ごしてきて、フレンを仲間と認識している。
だから、嘘はつきたくない。
「そうなのでしょう!? 貴方が伝説の勇者様で、わたくしのご先祖様ですわ!」
「……違うんだ。フレン」
「へ? で、でもわたくし聞きましたわ!」
フレンの状況から考えれば聞いた内容でそう考えるのは当然だ。
しかし真実はそうではない。
「俺が勇者なのは合ってる。だけどさ、俺に子供はいないんだ」
「ど、どういうことですの?」
「……お前のご先祖様は、俺じゃない」
きっぱりとそう言った。
俺は勇者で、お前のご先祖様は俺じゃない。それだけで、全てを伝えることはできただろう。
数秒考えたフレンは、呆けた顔で何もない空間を見ていた。
「わ、わたくしは……勇者の子孫じゃ、ありませんの?」
「そういうことだ」
「そんな、嘘、嘘ですわ! だって、そうやって生きてきたんですの! わたくしはどうすればいいんですの!?」
余計なことだったかもしれない。このまま伝えずに濁して、多少は指示が出せる状態のままにしておいた方がよかったのかもしれない。
そうならないように、フレンを元気づける必要がある。
「今までみたいに堂々とすればいい」
「でも、わたくしは勇者じゃ……」
「いや、お前は勇者だ」
自らを勇者じゃないと繰り返すフレンに、俺ははっきりとそう言った。
勇者じゃない? そんなわけないだろう。俺も、フォトも、フレンも、みんなも勇者になれるんだ。
「いいかよく聞け。勇気あるものは皆勇者なんだ。俺だって、たまたま選ばれて勇者になっただけで特別な血があったわけじゃない」
「……」
「お前は勇者の誇りを持って戦ってきたんだろ? なら、お前はもう立派な勇者だよ。お前の剣が光るのがその証拠だ」
勇者の光、それは勇者であろうとした者が使える光。
フォトが使えるのは、俺に憧れていたから。俺が使えるのは、勇者として生きてきたから。
そしてフレンが使えるのは、勇者の子孫として戦ってきたから。
もしかしたら、気持ち次第で誰でも使えるようになるのかもしれない。
そのくらいには気の持ち方というものは重要なのだ。子孫じゃないからなんだというのか。
「だから立て。落ち込むな。魔王が目の前にいるんだぞ、勇者が動かずに誰が動く」
「……ええ、やりますわ」
「それでいい。じゃ、俺は行くから後は頼むな」
暗い空気から一転、少し明るめの口調でそう言った俺は『魔力開放Ⅱ』を発動させたまま飛び立つ。
ふわっと『フライ』とは違う感覚。「はいっ! キール様!」という元気のある声が聞こえたので、俺は満足して魔王候補の元へ向かった。
ディオネ、取り逃がしちゃったからな。今度は仕留める。
* * *
キールはフレンちゃんを慰めに行った、そして僕は交代して魔王候補との戦闘。
くうう! かっこいいな僕! 颯爽と現れた主人公だよこれ!
「……何ニヤついてんの? きっも」
「は? いや、きもとか言うなよ! バーカ!!!」
「何こいつ」
しまった、挑発に乗って取り乱してしまった! これでは相手の思う壺だ。
その割には全く攻めてこないし呆れている気がするけど、多分これも作戦だね。その手には乗らないぞ。
「っと、行かせないよ。僕がここで倒してやる」
「やれるもんなら……やってみろ!!!」
キレーネ? だっけ。キレーネは細剣を振るうと、こちらに向かって突撃してきた。
インフェルノが避ける。速いけど、そこまでじゃないかな。キールとの戦闘を遠くから見てたから瞬間移動が使えるのは知ってるけど、素早くなるのは一瞬だけみたいだね。
なら、こっちも全力で倒せばよし! ヴァリサの考えに似てる気がして少し嫌だけど、やるしかない!
「『ドラゴンアームズ』武装!」
「ユケ、リュートヨ!」
『ドラゴンアームズ』の発動により、僕の体の周りに鎧が現れる。
今のモードはインフェルノ。炎の竜鎧だ。この状態ならば翼状の鎧を使って空を飛ぶことができる。
突如現れた真紅の鎧に、キレーネは一瞬たじろいだ。チャンス、今しかない。
「だりゃあああああああああ!!!」
「あっつ……! この、こんのおおおおおおおおお!!!」
広範囲の横振り、それによる炎がキレーネの肌に触れた。当たった!
だが、それでキレーネはさらに怒ってしまう。これ以上暴れられても困る、相手が奥の手を使う前に、倒して見せる!
「インフェルノ! ライトニング! ブリザード! 一斉にブレスだ!」
「ウム!」
「いいだろう」
インフェルノとライトニングは返事をした。ブリザードは、うん。クールだからさ、あいつ。仕方ないよ。
返事はしていないが、ブリザードもブレスの準備に入っている。よかった、聞こえてた。
三頭のドラゴンが魔力を口元に集め、放った。三本のブレスがキレーネを襲う。
「この、程度!」
「まだまだ! ひっさーつ! 『ドラゴブラスト改』ッッッ!!!」
それに加え、僕の『ドラゴブラスト改』が別方向からキレーネの逃げ道を塞ぐ。
ブレスを瞬間移動で避けたキレーネは、その攻撃も瞬間移動で避けようとする、が。こちらの攻撃の方が速い。
やっぱり、連続での瞬間移動は範囲が狭くなるんだね。かなり重傷を負わせたし、このまま倒せるかな。
「チッ! 次こそ、コロス」
「こわっ!? って、待て! あーもう、行っちゃったよ」
風魔法使いが飛べるとあんなに速く飛べるんだね。
こっちは被害ゼロだし、いいんだけどね。ここで倒せればもっとよかったんだけど。
「って、ゴーレムもやばいな! 倒さなきゃ」
今から追いかけても遅いし、僕は今まで通りに雑魚戦かな。キールももう少ししたらフレンちゃんと話せるはずだし、今のところは順調だね。
あのゴーレムにはまだまだ何かありそうだし、力は使いすぎないようにしよう。
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