トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

文字の大きさ
16 / 111

16話  初めての戦い

しおりを挟む
クロエをここで会うのは、俺としても予想外の展開だった。なにせ、勇者パーティーがここに来るのはもう少し後のことなのだ。

本来のシナリオ通りだと、彼らは首都で厄介ごとに一度巻き込まれてからスラム街へ訪れることになる。だけど、何故だかクロエたちは今ここにいる。

……まあ、いいっか。クロエに早めに会うのは、こちらとしても本望だし。


「一緒に戦わない?俺たち、いい仲間になれそうだけど」


だから、舞い上がってこんな気恥ずかしいセリフも自然と吐けるのである。

この言葉に真っ先に反応したのはクロエじゃなく、ニアだった。


「……ふうん、あれを倒せばカイが浮気しないんだ」
「ニアはストップ!マジでストップ!あのボスがドロップする魔石は持って行かなきゃいけないから!」
「…………むぅ」
「というわけで、クロエ。ここは力を合わせてみよう」


正直に言うと、今の俺やニアにとってあのボスはひとたまりもない存在だった。

それでも、あえてクロエと一緒に戦おうとしている理由は簡単だ―――彼女を仲間に取り入れなきゃいけないから。

彼女はこの世界では珍しい暗殺者であり、その分有用なスキルをたくさん持っている。【境界に立つ者】を使ってスキルを吸収すれば、色々と役に立つだろう。

しかし、彼女を仲間にしたい理由はそれだけじゃなかった。


『……絶対に死なせたくないもんな。この子は』


クロエは俺にとって、ゲーム内でけっこう……いや、一番といっても過言ではないほど愛着があるキャラなのだ。

なのに、クロエは勇者《プレイヤー》の手で殺されることになる。どう足掻いても、ゲーム内でのシナリオは変えられないから。

そして、そのイベントが終わってから前世でどんなに辛かったのかを、俺は未だによく覚えていた。

だから、クロエだけはとにかく生かしておきたかった。仲間に取り入れることができるのなら、なおさらだし。


「……分かった。確かに、ここは他の手がなさそうだしね」


その切実さが通じたのか、クロエは頷きながら両手のナイフを握りしめる。

よし、ブリトラの性能も試すついでに、実戦経験を積もうじゃないか!


「ニア、悪いけど今回はあそこにいる人たちを守る形で戦ってくれない?お願い」
「………むぅ」
「……ふふっ」


ゲームのラスボスとは言っても、やっぱりまだ子供なんだよね。

俺は本格的に戦闘を始める前に、ニアの頭を軽く撫でてあげた。


「お願いね、今回だけだから」
「……うん。カイがそう言うなら、そうする」
「うん、ありがとう。ほら、クロエ。行くよ」
「……分かった」


クロエは不思議そうに俺たちを見つめていたが、間もなくして鋭い目つきでエインシャントグールを見上げる。

片方の羽が消えたせいでやや不安定なものの、ヤツは未だに飛んでいた。


『ぐる、かぁあああっ!!』
「唾が来る!クロエ、右に避けて!」
「ああ!!」


エインシャントグールのスキルは主に三つほどある。遠距離の爪かき攻撃、毒唾吐き、そして杖を持った物理攻撃。

やっかいな遠距離スキルが二つもある上に、空中から一方的に攻撃をかましてくるせいで、ゲームでも厄介な部類に入るモンスターだった。

だけど、今の俺たちにはちょうどいいサンドバッグに過ぎない。


「ダークサイトで一旦身を隠して!ヤツの背後に回りやすいように!」
「えっ、なんでダークサイトまで知っているの……?っ、とにかく分かった!」
「俺がヤツを挑発するから、その隙に!」


時と場合にあった指示を出しつつ、俺はヤツの正面に突っ立つ。これだけでも、ヤツの目は俺に向けられるだろう。

次に飛んでくる攻撃は間違いなく、爪と毒唾の連撃。パターンを分かっていながらもあえて避けないのは、試したいことがあるからだった。

そして予想通り、グールは俺に向けて―――空中で、爪をひっかいた。


『ぐるぁあああ!!!!』


ブリトラを構える。もし俺のイメージが合っていれば、この攻撃は――通じない。

直ちに剣を通じて伝わってくる魔法攻撃。一瞬鋭い痛みを襲ってくるかと思ったけど、算段は外れなかった。


『ぐるっ!?!?』
「ははっ……うわぁ、ヤバいじゃん。このスキル」


【境界に立つ者】、遠距離の魔法攻撃も吸収できるのか。

いくらモンスターのスキルでも、その根底にあるのは魔力だ。それを吸い取ってしまえば、攻撃は無効化になる。


『ぐぁああああ!!!!!!!!!』


攻撃が通じなかったことに憤ったグールは、今度は毒唾を吐こうとしている。だけど―――


「一人忘れてるだろ、お前……!!」
「―――ピアシング・スラスト!」


クロエがすぐに背後に現れて、二本のナイフを鋭く、ヤツの背中にぶっ刺した。


『ぎゃああああああああああ!!!』


痛みで飛べなくなったグールは、そのまま地面にぱたんと倒れる。俺はその隙に、大声でクロエに語り掛ける。


「クロエ、避けて!!」
「分かった!!」


それから、俺の剣の先から闇属性の魔力が集まり―――


「ダークピアス」


魔力の槍が、ヤツの頭を突き抜けた。






「ふぅ~~ようやくひと段落ついたか。みんな、お疲れ様~」

エインシャントグールがチリになった後、俺はドロップした魔石やアイテムを拾ってから満面の笑みを浮かべる。

しかし、何故だかクロエは納得いかない顔で俺を見つめていた。


「どうしてその表情なの?クロエ」
「……いや。なんで私にもアイテムを配るのかって。私、ほとんどなにもやってないのに」
「ええ?俺の指示にも従ってくれたし、見事に奇襲も成功させたじゃん。そこまで謙遜しなくても」
「いや、私はあくまで助けられる側で―――いや、やめるか。どうせ君は折れてくれなそうだし」


クロエは仕方ないとばかりに苦笑を浮かべてから、またもや俺をジッと見つめる。

いつの間に俺の隣に来たニアは、またジッとクロエを睨んでいた。うむ、なんでこうなった………。


「しかし、このままだとさすがに納得はできないかな。君たちは私だけじゃなくて、あそこにいるパーティーメンバーたちの命も助けてくれたしね」
「ああ、まだ気絶しているあちらの方ですか……」
「……こほん。それで、私一人でよければなにか恩返しをしたい。確かカイ……だったよね?頼みたいことがあるなら、なんでも言ってね」
「お、女の子がそんな言葉をやすやすと言うんじゃないよ……?」
「ううん?どうして―――あ、ぅっ~~~~!?!?!??!」


ううん~~~ようやく発言の危険性に気づいてくれたか。


「そうだぞ、クロエ?俺は男で、君は一応女性なわけだから。なんでもって下手に言い出したら、取り返しがつかないことになるからね?この先は気を付けるように。まあ、俺はもちろんそんなこと言わないけど―――――」
「……………………………………」
「……に、ニアさん?目が怖いですよ?なんで両目を光らせてるんですか!?」
「私、カイが浮気者でも許せる」
「全然許せる目つきじゃないよね、それ!?分かったから落ち着いて!!俺が悪かったから!」


しかし、困ったな……クロエに頼みたいことは確かにあるけど、ニアが聞いている今じゃ言い出すのは難しそうだし。

……ううん?待てよ?じゃ、ニアに聞こえないようにクロエに話をすればいいんじゃないかな?よし、なら適切な方法があるぞ。


「クロエ、ちょっとこっちに来て」
「………なんだよ、変態」
「そういうこと死んでも頼まないから!!ほら、ニアもそんなにキャーって威嚇したりしない!」


クロエは俺をにらみながら腕を抱えてはいたけど、仕方ないとばかりにゆっくりと近づいてくる。

そして、俺はニアの耳を両手でぐっと抑えたまま―――クロエに、顔を寄せてから言った。


「明日の夕方、時間ある?あるならちょっとお話したいことがあるけど」
「~~~~~~~~~~っ!?や、やっぱり変態じゃん、あなた!!」
「違う違う、そんなんじゃないって!!って―――に、ニア!?うわああああああああああっ!?!?」


翌日、スラム街で地震が起きたという知らせが帝国の新聞に載ることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...