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20話 動き出す危険
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クロエと色んなことを話した後、俺は宿の部屋で必死にニアを宥めていた。
なにせ、1分だけ手を繋ぐという約束を破って、5分も手を繋いでしまったのだ。
手を繋いだというそれだけのことで、ニアの頬はもう風船のようにパンパンになっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!俺が悪かったです!」
「……ぶぅぅうう」
「というか、ニアも理由は知っているよね!?俺の固有スキル、ニアも知ってるよね!?」
「ぶぅううう」
暗殺者には有用なスキルが多い。ダンジョン探索に限らず、日常的に使えるものまで揃っている。
だから、スキルをコピーする【境界に立つ者】を利用して、クロエが持っている色々なスキルを学ぼうとしたのだ。
手を繋いだ理由はただそれだけだと、ニアも分かっているはずなのに!
どうしてか、ニアは前世のラスボスっぷりを発しながらずっと俺を睨んでいた。
「私、カイが浮気しても構わない」
「構わないって顔じゃないよね!?さっきもクロエのことめっちゃ睨んでたよね!?」
「全然、構わない。カイは私を救ってくれた。私がカイに何かを要求する資格はない。だから、許せる」
「いやいや、そういう考え方はよくないよ~?資格とか一々気にしなくてもいいからね?」
「なら、浮気者のカイを許さなくてもいいの?」
「………………………いえ、今まで通りでお願いします」
許さなくてもいい?って言ったときの目が、目が……もう完全に殺気立っていたから、仕方がない。
ヤバいな、これ……なんでここまで執着されてるんだろう。まあ、ニアは可愛いし大切な仲間だから、別にいいけど。
ベッドで隣り合って座ったまま、俺たちはお互いを見つめ合う。俺はなんだかんだ言ってもニアを無視するつもりはないし、なるべく彼女の機嫌を取りたかった。
だから、俺は柔らかくニアの頭を撫でていく。
「ごめんね、ニア。いつも嫉妬させるようなことして」
「……撫でながら謝るの、ずるい」
「ふふっ、ニアのおかげでけっこう助かってるからね~?でも………」
言うか言わないか迷ったけど、俺は仕方なく口を開いた。
「……本当にごめんね。やっぱり、クロエのことはなるべく助けたいんだ」
「………」
はっきりとその旨を伝えると、ニアは一瞬複雑な顔になってから目をつぶる。
ニアはゆっくりと、考えながら沈黙を保つ。それから、ニアは頭を撫でている俺の手を両手で握って、自分の頬に寄せた。
俺の手に柔らかい頬を当てたまま、ニアは徐々に目を開く。
「分かった。カイがそう言うなら、私もクロエを助ける」
「……ニア」
「私は、カイが悲しむ姿を見たくないから」
信頼を寄せられている、って感じがして少しばかり感動が湧き上がった。ニアが俺に寄せている愛情を考えると、容易い決断でないのは確かなはずなのに。
……やっぱり、ちょっと申し訳ないなと思いつつ、俺はニアに語り掛ける。
「本当にいいの?俺、クロエを仲間入りさせるつもりなんだよ?ニアがどうしてもいやなら、もちろんやめるつもりだけど」
「ううん、カイがそうしたいなら従いたい。カイは、私にとって一番大切な人だから」
「……………ニア」
「カイがクロエを助けたいなら、私も彼女を助けるべき。でも……」
そこで、ニアは少し頬を赤らめてから、俺の人差し指に―――触れ合う程度の、優しいキスをした。
「たまにでいいから、私を見て欲しい」
「…………」
「私、カイに愛されたい」
………ここまでド直球にくるとは思わなかった。
心臓が高鳴りすぎて苦しくなる。儚い銀髪美少女に直接、目の前で愛されたいと語られているのだ。
ゲーム内ではあんなに悪魔のように見えたニアが、今じゃ愛くるしくて愛くるしくて仕方がない。俺は、ニアをゆっくり抱きしめてから膝の上に座らせた。
「……ぁ」
「本当にありがとう、ニア」
「………ふふっ」
後ろから抱きしめられるのが気に入ったのか、ニアは幸せそうな笑みをこぼす。
そのまま、俺はニアに語り掛けた。
「これからのことだけど……まずは言った通り、クロエを助けたいと思ってるんだ。ニアも、協力してくれる?」
「もちろん。それがカイの望みなら」
「ありがとう。で、どうやって助けるかを考えなきゃいけないけど……」
俺はニアを抱きしめたまま、ゆっくりとゲームのシナリオを思い出す。
予定より早くクロエに会ったという狂いはあるものの、シナリオ通りに行けば―――間違いなく、あの事件が起こるはずだ。
スラム街の大虐殺事件。
そして、クロエの死。ゲベルスという男の登場。
それを全部防いでから、クソみたいなシナリオを少しでもいい方向に進ませるためには……やっぱり、ある程度は勇者と絡まなきゃいけないだろう。
「勇者たちと、しばらく行動を一緒にしようか」
「勇者たちなら、クロエが所属しているパーティーのこと?」
「ああ、彼らに機会を与えるつもりなんだ。この国の実態と状況を目の前に突き付けて、協力関係を結べたらいいなと思ってる」
上手く行けば、俺と勇者はいい仲間になれるだろう。このクソみたいな国を転覆させる、いい仲間に。
でも、上手く行かなかったとしたら―――俺と勇者は間違いなく、不俱戴天の敵になるはずだ。
「……シナリオ通りの性格じゃなきゃいいけどな」
俺はやや複雑な気持ちを抱えたまま、小声でつぶやいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王国の首都、オデールの宮廷で。
第2皇太子は目の前の男を見つめながら、ゆっくりと語り出す。
「それで、どういうつもりなんだい?ゲベルス」
ゲベルスと言われた糸目の男は、口角を上げながら言う。
「なにを、気にすることはなにもありません。私たちの計画に狂いはありませんから」
「……シュビッツ収容所が爆発された。悪魔が目覚めたのはさておき、その収容所にいた孤児たちが街中で噂をばらまいている。これが、計画の狂いでないとでも?」
「もちろんです。この国に他のゴミ捨て場はいくらでもありますし、幼いゴミたちの言い分に耳を傾ける人はいませんから。みんな、帝国は安全だと、この国は正義そのものだと思い込んでいる―――私たちが、そうしたじゃないですか。アドルフ様」
アドルフ、と言われた皇太子はニヤッと笑いながら、愉快そうにコーヒーを啜る。
それから深いため息をついた後、ゲベルスを見つめながら言った。
「悪魔たちがスラムにいるようだ。勇者をそちらに向かせたが、まだこれといった成果は出ていない」
「でしょうね。あの勇者はバカですから」
「てことで、君をスラムに向かわせたいんだが……お願いできるかな?」
「もちろんですとも。ちょうど首都で使えそうなゴミがなくなったところだったので。影という危険な芽を摘むことも兼ねて、勇者たちをさらに洗脳するのも兼ねて―――そろそろスラムに行った方がいいのでは?と私も考えておりました」
「やはり、君は話が早い。非常に助かる……ふふふっ」
ゲベルスは有能な人材だ。黒魔術師としての才能はもちろんのこと、民衆を扇動する能力や政治的な感覚なども素晴らしい。
伊達に、この危ない計画の責任者に任命したわけじゃないのだ。彼ならきっと、悪魔も簡単にねじ伏せていい実験体にするだろう。
なにせ、彼も無価値な人間たちにとっては―――悪魔なのだから。
「ああ、それともう一つ頼みたいことがあるんだが」
「はい、なんでしょうか?」
「勇者パーティーの中で一人、反逆者がいるらしい。あいつも収容所出身だと聞くが……君ももう気づいているかね?」
「ああ、もちろんですとも。確か、クロエって名前でしたっけ?」
「そうだ。で、あの女もしっかり排除しておきたいんだ。勇者を敵に回したら困まるからな」
「勇者が敵……ですか。あはははっ!!」
「なにがそんなにおかしい?起こり得るかもしれないぞ?」
「いえいえ、そんなことは起こらないかと思います。なにせ、彼は正真正銘のバカなので」
「……そうか。なら、頼んだぞ。ゲベルス」
「はい。皇太子さまの仰せのままに」
しばらく間をおいた後、ゲベルスは卑劣な笑みを浮かべてから言った。
「あの悪魔たち―――影と、クロエを、この手ではっきり消し去って見せましょう」
なにせ、1分だけ手を繋ぐという約束を破って、5分も手を繋いでしまったのだ。
手を繋いだというそれだけのことで、ニアの頬はもう風船のようにパンパンになっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!俺が悪かったです!」
「……ぶぅぅうう」
「というか、ニアも理由は知っているよね!?俺の固有スキル、ニアも知ってるよね!?」
「ぶぅううう」
暗殺者には有用なスキルが多い。ダンジョン探索に限らず、日常的に使えるものまで揃っている。
だから、スキルをコピーする【境界に立つ者】を利用して、クロエが持っている色々なスキルを学ぼうとしたのだ。
手を繋いだ理由はただそれだけだと、ニアも分かっているはずなのに!
どうしてか、ニアは前世のラスボスっぷりを発しながらずっと俺を睨んでいた。
「私、カイが浮気しても構わない」
「構わないって顔じゃないよね!?さっきもクロエのことめっちゃ睨んでたよね!?」
「全然、構わない。カイは私を救ってくれた。私がカイに何かを要求する資格はない。だから、許せる」
「いやいや、そういう考え方はよくないよ~?資格とか一々気にしなくてもいいからね?」
「なら、浮気者のカイを許さなくてもいいの?」
「………………………いえ、今まで通りでお願いします」
許さなくてもいい?って言ったときの目が、目が……もう完全に殺気立っていたから、仕方がない。
ヤバいな、これ……なんでここまで執着されてるんだろう。まあ、ニアは可愛いし大切な仲間だから、別にいいけど。
ベッドで隣り合って座ったまま、俺たちはお互いを見つめ合う。俺はなんだかんだ言ってもニアを無視するつもりはないし、なるべく彼女の機嫌を取りたかった。
だから、俺は柔らかくニアの頭を撫でていく。
「ごめんね、ニア。いつも嫉妬させるようなことして」
「……撫でながら謝るの、ずるい」
「ふふっ、ニアのおかげでけっこう助かってるからね~?でも………」
言うか言わないか迷ったけど、俺は仕方なく口を開いた。
「……本当にごめんね。やっぱり、クロエのことはなるべく助けたいんだ」
「………」
はっきりとその旨を伝えると、ニアは一瞬複雑な顔になってから目をつぶる。
ニアはゆっくりと、考えながら沈黙を保つ。それから、ニアは頭を撫でている俺の手を両手で握って、自分の頬に寄せた。
俺の手に柔らかい頬を当てたまま、ニアは徐々に目を開く。
「分かった。カイがそう言うなら、私もクロエを助ける」
「……ニア」
「私は、カイが悲しむ姿を見たくないから」
信頼を寄せられている、って感じがして少しばかり感動が湧き上がった。ニアが俺に寄せている愛情を考えると、容易い決断でないのは確かなはずなのに。
……やっぱり、ちょっと申し訳ないなと思いつつ、俺はニアに語り掛ける。
「本当にいいの?俺、クロエを仲間入りさせるつもりなんだよ?ニアがどうしてもいやなら、もちろんやめるつもりだけど」
「ううん、カイがそうしたいなら従いたい。カイは、私にとって一番大切な人だから」
「……………ニア」
「カイがクロエを助けたいなら、私も彼女を助けるべき。でも……」
そこで、ニアは少し頬を赤らめてから、俺の人差し指に―――触れ合う程度の、優しいキスをした。
「たまにでいいから、私を見て欲しい」
「…………」
「私、カイに愛されたい」
………ここまでド直球にくるとは思わなかった。
心臓が高鳴りすぎて苦しくなる。儚い銀髪美少女に直接、目の前で愛されたいと語られているのだ。
ゲーム内ではあんなに悪魔のように見えたニアが、今じゃ愛くるしくて愛くるしくて仕方がない。俺は、ニアをゆっくり抱きしめてから膝の上に座らせた。
「……ぁ」
「本当にありがとう、ニア」
「………ふふっ」
後ろから抱きしめられるのが気に入ったのか、ニアは幸せそうな笑みをこぼす。
そのまま、俺はニアに語り掛けた。
「これからのことだけど……まずは言った通り、クロエを助けたいと思ってるんだ。ニアも、協力してくれる?」
「もちろん。それがカイの望みなら」
「ありがとう。で、どうやって助けるかを考えなきゃいけないけど……」
俺はニアを抱きしめたまま、ゆっくりとゲームのシナリオを思い出す。
予定より早くクロエに会ったという狂いはあるものの、シナリオ通りに行けば―――間違いなく、あの事件が起こるはずだ。
スラム街の大虐殺事件。
そして、クロエの死。ゲベルスという男の登場。
それを全部防いでから、クソみたいなシナリオを少しでもいい方向に進ませるためには……やっぱり、ある程度は勇者と絡まなきゃいけないだろう。
「勇者たちと、しばらく行動を一緒にしようか」
「勇者たちなら、クロエが所属しているパーティーのこと?」
「ああ、彼らに機会を与えるつもりなんだ。この国の実態と状況を目の前に突き付けて、協力関係を結べたらいいなと思ってる」
上手く行けば、俺と勇者はいい仲間になれるだろう。このクソみたいな国を転覆させる、いい仲間に。
でも、上手く行かなかったとしたら―――俺と勇者は間違いなく、不俱戴天の敵になるはずだ。
「……シナリオ通りの性格じゃなきゃいいけどな」
俺はやや複雑な気持ちを抱えたまま、小声でつぶやいた。
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王国の首都、オデールの宮廷で。
第2皇太子は目の前の男を見つめながら、ゆっくりと語り出す。
「それで、どういうつもりなんだい?ゲベルス」
ゲベルスと言われた糸目の男は、口角を上げながら言う。
「なにを、気にすることはなにもありません。私たちの計画に狂いはありませんから」
「……シュビッツ収容所が爆発された。悪魔が目覚めたのはさておき、その収容所にいた孤児たちが街中で噂をばらまいている。これが、計画の狂いでないとでも?」
「もちろんです。この国に他のゴミ捨て場はいくらでもありますし、幼いゴミたちの言い分に耳を傾ける人はいませんから。みんな、帝国は安全だと、この国は正義そのものだと思い込んでいる―――私たちが、そうしたじゃないですか。アドルフ様」
アドルフ、と言われた皇太子はニヤッと笑いながら、愉快そうにコーヒーを啜る。
それから深いため息をついた後、ゲベルスを見つめながら言った。
「悪魔たちがスラムにいるようだ。勇者をそちらに向かせたが、まだこれといった成果は出ていない」
「でしょうね。あの勇者はバカですから」
「てことで、君をスラムに向かわせたいんだが……お願いできるかな?」
「もちろんですとも。ちょうど首都で使えそうなゴミがなくなったところだったので。影という危険な芽を摘むことも兼ねて、勇者たちをさらに洗脳するのも兼ねて―――そろそろスラムに行った方がいいのでは?と私も考えておりました」
「やはり、君は話が早い。非常に助かる……ふふふっ」
ゲベルスは有能な人材だ。黒魔術師としての才能はもちろんのこと、民衆を扇動する能力や政治的な感覚なども素晴らしい。
伊達に、この危ない計画の責任者に任命したわけじゃないのだ。彼ならきっと、悪魔も簡単にねじ伏せていい実験体にするだろう。
なにせ、彼も無価値な人間たちにとっては―――悪魔なのだから。
「ああ、それともう一つ頼みたいことがあるんだが」
「はい、なんでしょうか?」
「勇者パーティーの中で一人、反逆者がいるらしい。あいつも収容所出身だと聞くが……君ももう気づいているかね?」
「ああ、もちろんですとも。確か、クロエって名前でしたっけ?」
「そうだ。で、あの女もしっかり排除しておきたいんだ。勇者を敵に回したら困まるからな」
「勇者が敵……ですか。あはははっ!!」
「なにがそんなにおかしい?起こり得るかもしれないぞ?」
「いえいえ、そんなことは起こらないかと思います。なにせ、彼は正真正銘のバカなので」
「……そうか。なら、頼んだぞ。ゲベルス」
「はい。皇太子さまの仰せのままに」
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