トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

文字の大きさ
36 / 111

36話  温もりが広がる夜

しおりを挟む
「元いた世界ではまあ……よくある話だよ。出来のいい長男にだけ愛が注がれて、トラブルメーカーの次男はお構いなしってね」


俺は裕福な家庭で育てられ、小さい頃から親の期待に沿うことを求められた。だから、自分なりにたくさん努力を積んで頑張っていたと思う。

だけど、俺の兄はいわゆるなんでもできちゃう天才で、親の関心はいつの間にかその兄にだけ向かれるようになった。

兄弟仲は悪くなかった。だけど、俺たちの間には当然のように溝があって、その溝を埋める方法を俺たちは知らなかった。

自然と俺は枯れて行ったし、親は段々と俺になんの興味も持たなくなった。

会社を運営していた父は、俺が高校生になる前から既に兄を後継者として決めつけていて。

そうやって精神的に追い込まれる日々の中で、事件が起きた。


「学校って言えば分かるかな?まあ、この世界の魔法学院みたいな感じの施設があるんだけど、そこでちょっと……色々あってね」


すごく単純な話だ。

みんなからいじめられている子をかばったら、いつの間にかグルでいじめられるようになっただけ。

そして、その理不尽さに耐えきれなかった俺が何人かと喧嘩をして、親が呼ばれて…………その後にはもう、家でいない者扱いをされるようになったのだ。

家では恥さらしだと言われながら、学校では陰口を叩かれるようになって。

教科書はいつも濡れていて、家に帰ったら部屋に閉じ込められて、家族と一緒に食事することすら許してもらえなかった。

俺の居場所なんて、どこにも存在しなかったのだ。

自然とすべてが嫌になって、部屋に閉じこもってもう死んじおうかなと思った時に―――俺は、この世界を知るようになった。


「まあ、だから元いた世界に戻るつもりはないよ。俺にとっては、この世界こそが現実みたいなもんだから」


俺が知っているアレは、家族なんかじゃない。

この世界に実験体として転生して色々な苦労をしたけど、それでもやっぱり帰りたいとは思えなかった。

俺の居場所はここだし、もしこの世界がなかったら―――俺は間違いなく、自殺したはずだから。


「……だから、いっぱいゲームしてランカーになったんだね?」
「そうだよ。というか、やることがゲームしかなかったからね。俺の親は世間体を気にする人種だから学校は強制的に行かされたけど、勉強はほとんどしてなかったし」
「……そっか」


俺の話を全部聞き終えたクロエは、翳りが差した顔で少し俯く。

ニアは何も言わず、俺の手をもっとぎゅっと握ってくるだけだった。

隣にいると伝えるみたいに。俺がつけてくれた名前通り、君の近くで生きて行くと誓うみたいに。


「だから、帝国を滅ぼしたいってことか」
「そうだね。単純に気持ち悪いし、後半にはこの国のシナリオのせいでゲームがめちゃくちゃになるから」
「あはっ、まさかそんな理由だとは思わなかった。まあ、でも……」


クロエは後ろに両手をついて、ジッと俺を見つめてくる。

焚火に照らされたその綺麗な顔には、ちゃんとした笑みが浮かんでいた。


「いいじゃん。どんな理由でも、別に」
「……クロエ」
「じゃ、あなたは元いた世界では友達がいなかったってことよね?」
「………………………急に痛いとこつくのやめてくれない!?」
「あははっ!!ごめん、ごめん。傷をえぐるつもりはないんだよ?ただ……私はあなたと友達になっても全然いいって、伝えたかっただけ」
「えっ」
「私も友達いないもん。カルツはあんなだし、ブリエンとアルウィンは友達っていうより、仲間に近かったし」


クロエは苦笑交じりにそう言いながら、手を差し伸べてきた。


「だからさ、カイ。友達になろうよ。私、あなたならなんとなく信頼できそうだし」
「………クロ、エ」
「うん、なに?」
「助けてぇえ……て、手が。手がぁあ!!!!!」


そして、友達になろうって言われたとたんに、ニアは俺と繋いでいる手に力を加えてきた。

全く加減なしの、魔力までたっぷり込めた握力にポキポキッと、鳴ってはいけない音が右手から鳴り出す。

耐えられなくて身をよじったら、ニアはジト目でクロエを見つめながら言った。


「カイの初めての友達は、私」
「……ぁ、う、うん!!私は別に、ニアのこと無視してたわけじゃなくて!!」
「カイの初めては私。私の初めてはカイ。これ、絶対に変わらない事実」
「分かった!!分かったからこの手を離してくれぇえ!!ニアぁあ!!」
「……カイは、いつも私の目の前で浮気をする」


ぶうと頬を膨らませながらも、ニアは俺の手を離して仕方ないとばかりに息をつく。

本当に、アルウィンから治癒魔法を奪わなかったらどんなことになっていたのやら……。

俺が涙を流しながら自分の右手に治癒魔法をかけていると、クロエは噴き出しながらも言ってくる。


「でも、友達だったの?私はてっきり、その……二人とも、そういう仲だと思ってたのに」
「……………………」
「え?そういう仲って……あ、いや!!俺とニアは、その……!!」
「……正解。私とカイは友達でありながらも、そういう仲」
「いやいや、普通に友達だよね!?もちろん普通の友達よりはもっと大事だけど、恋人とかじゃな――――――――くはないかも~~うん。なくはないかも、あはははっ!!」


ものすごい殺気を向けられたので、俺は生き延びるために必死にウソをつくしかなかった。くっそ……このラスボスめ!!


「クロエは、カイの浮気相手だけどいい人」
「いやいや、私は別にカイのことなんとも……………なんとも、うん。思ってない、し………」
「……やっぱり浮気相手」
「そ、その話はもういいじゃん!とにかく、ニアもカイも私を助けてくれてありがとう!!もう何度も感謝したけど、これだけはもう一度言いたかった!」
「……ふふっ。やっぱりいい人」


珍しくニアは微笑みながら、俺の隣で立ち上がった。

そのままクロエのところまで行って、ニアはしゃがみながらも手を差し伸べる。


「私にはカイがいるけど、カイ以外の友達はいない」
「えっ……」
「だから、私からのお願い。友達になって欲しい」
「…………………………………………」


急な誘いに驚いたのか、クロエはしばらく固まったまま動かなかった。それは俺も同じで、まさかあのニアからあんな言葉が出てくるとは思わなかった。

クロエはしばらくニアの手を見つめたまま、ぽつりと声を洩らす。


「いいの?本当に?」
「……実はちょっと複雑だけど、いい」
「ぷふっ、分かってる。カイを奪ったりはしないから……たぶん」
「……やっぱり浮気相手」
「あははっ!!でも、私がニアに勝てるわけないし」


なんだか意味の分からない会話をしながら、クロエはしばらくした後にゆっくりと、ニアの手を握り返す。

女の子同士の握手が行われ、二人の顔にある温もりが徐々に空気に滲んで行く。


「よろしく、ニア」
「……うん。クロエは、私の友達」
「ふふっ、嬉しい」


素直な感想を口にしながら、クロエは治療を終えた俺に目を向けた。


「カイ。私、頼みがあるんだけど」
「うん、なに?」
「私、どうしてもあなたたちの仲間になりたい」


想像以上に強い意志を宿しながら、クロエは言い続ける。


「もちろん、あなたたちって影だし……帝国の敵だし、悪魔だし、色々リスク高いとは思うけど」
「いやいや、そう聞くと俺たちがめっちゃ悪いみたいじゃん……」
「実際にも悪く見えてるからね?でも、私を助けてくれた恩を返したいし、なにより私が……私が、君たちと一緒に行動したいの」
「……クロエ」
「足手まといにはならないと思うよ。あ、もちろん君たちの力に比べたらなんてことないけど、最善を尽くすつもりではいるから……だから、お願い」


焚火の明かりが舞っている洞窟の中。

惨事が起きたとは思えない、綺麗な星空の下で。


「私を、君たちの仲間にしてくれないかな」


クロエはもう一度、俺に手を差し伸べてきた。


「おまけに、君の友達にもなりたいかも」
「…………………」


……ある程度、初めから計画していることだった。本来死ぬ予定だったクロエを助けて、仲間入りさせる。

何度も頭の中でシミュレーションを回したし、実際にその通りになったから……当たり前のように感じられても、おかしくないのに。


「……………そっ、か」


俺の心の奥からは、たまらない嬉しさと安堵が湧き上がっていた。

自然と手が動いて、俺の手がクロエの手に重なる。力を込めて何度か手を振ったら、クロエの顔に幸せの笑みが咲く。


「……じゃ、仲間兼友達で、よろしく」
「ふふっ、うん。よろしくね、カイ」
「ああ、これからもよろしくな、クロエ」


暖かさが広がる魔法の夜。

俺は、この世界で二人目の友達を作ることができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...