トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

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46話  1億ゴールド

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「ねぇ、聞いた聞いた?ラウディ商会が新しいポーションを売ってるんだって!」
「ラウディ商会?いや、あそこはちょっと信用なくない~?」
「今回はなんか違うって!!噂通りだと、教会の聖水すら治療できない病も治せるらしいよ!?」
「えっ、本当に!?」


パワーエリクサーが販売されてからやや2週間。帝国はこのポーションに狂い始めていた。

一つ飲んだだけでも体力と魔力を最大限まで満たして、あらゆる状態異常の呪いも回復できてしまう詐欺アイテム。

今までになかった革命的なポーションは、冒険者のみならず一般人たちの耳にも入るようになったのだ。


「ぷは~~!!生き返るな!あの教会のクソ聖水より100倍はマシだわ!」
「ははっ、その通りだな!何が聖水だ、高いだけでなんの効力もないただの水じゃねーかよ!はははっ!!」


そして、そのパワーエリクサーによって一番被害を受けた張本人が、ここに一人。


「くそ……!なにがどうなってる!なんであんなものが市場に出回ってるんだ!!」
「きょ、教皇様!大変です!人々がパワーエリクサーだけに注目しているせいで、聖水の販売利益がどんどん下がっています……!!」
「くそがぁあああ!!こんの……!!」


どうしてこうなった。教皇はパン!とデスクを叩きながら息巻く。

聖水の販売は献金と共に、教会でもっとも重要視される稼ぎ手段だった。この国で教会の権威は絶対的だから、帝国の人たちもなんの疑いもなく聖水を買い、教会へ献金をしてきたのだ。

しかし、最近の教会は露骨と言ってもいいほど、お金だけを欲しがっていた。

義務ではない献金を強要したり、嫌と言う人に信仰心がどうとか言いながら無理やり聖水を買わせたり。

そうやって不満が積もっていく日々の中で、突然パワーエリクサーが登場したのである。人々がそのポーションに熱狂するのは当たり前だった。

ただの井戸水に過ぎない聖水より、目に見える効果があるパワーエリクサーの方が何十倍は魅力的だから。

しかも、ラウディ商会―――リエルが決めた値段が教会の聖水よりずっと安いせいで、聖水が持つメリットなんて一つもなくなったのだ。


「ラウディ商会……くそ、あの小娘か!!あの時に母親と一緒に火あぶりにすればよかった!さんざん弄んでから捨てるつもりだったのに……!」


一般の聖職者たちが聞いたら気絶するほどの低劣な言葉が、教皇の口から出る。

彼はもう、聖職者ですらない存在だった。信仰心は物質と快楽が与えてくれる甘さに溶けて消え、残っているのは自分の権威をどう振りかざすかの浅ましい考えだけ。

彼は既に何十年前から、十字軍に命令をして街中のうら若い少女たちに黒魔法の薬――皇太子からもらった薬を飲ませてきたのだ。

その後に、彼女たちを教会の密室に連れ込んで、その体を徹底的に弄ぶ行為を何度も何度も、繰り返してきた。

そして、今回のターゲットの中にはリエルも含まれていた。自分の母親を火あぶりにした不俱戴天の仇に抱かれるとか、中々そそる状況ではないか。

しかし、あの娘は自分の商売に決定的な邪魔を入れてしまった。もうただ弄ぶことだけじゃ物足りない。


「俺の計画にヒビを入れた対価……しっかりと支払ってもらわないとな」


地獄みたいな経験をさせてやる。天国みたいな肉体の快楽も、感じれば感じるほど地獄になってしまうから。

教皇は黄ばんだ歯をむき出しにしながら、卑劣に笑うのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そして、同じくパワーエリクサーの販売から2週間が経った、リエルの屋敷で。


「ぐぇええええ……もうダメだ。もう作りたくない……やだ、助けてぇえ……」


俺は目をクルクルさせながら、大の字で床にぱたんと倒れてしまった。隣にいるクロエとニアは俺を見下ろしながらも、容赦のない言葉を投げてくる。


「ほら、なにしてるの?早くポーションの瓶を手に持ちなさい。ただでさえ数が足りないのよ?」
「ふふっ。これが、浮気者の末路」
「なんでだ……!なんで俺だけ24時間パワーエリクサーを作らなきゃいけないんだ!!なんか言ってみろよ、クロエ!」
「だって、そのエリクサーはあなたにしか作れないじゃない」


クロエはクスクスと笑いながらも、俺の肩をトントンと叩く。

ていうかクロエ、最近思ったけど俺がいじめられる度になんか楽しそうじゃないか……?どうしてこんなことが……!


「カイ、疲れたらパワーエリクサーを飲めばいい。魔力と体力、パンパン」
「お前には人の心がないのかよ!?」
「ない。だって、悪魔だし。クスクス」
「こんのぉお……!ニアさん?君も最近俺のこといじめすぎだと思いませんか?なんで俺の味方は一人もないの!?」
「私はカイが大好きだけど、カイはいつも他の女の子のために頑張ってる」
「…………………………………………………………………」
「ああ~~ニアのことまた傷つけちゃったわね~ふふふっ、この浮気悪魔」
「クロエ……!」


ていうか、ニアの好きって言葉は何度聞いても慣れないな。あまりにも真っすぐ好きって言われるから、ちょっと脳がフリーズしたくらいだし。

代わりに俺をからかってくるクロエに歯をギシギシさせていると、急に部屋のドアがぱたんと開かれた。


「か、カイ君!カイ君!!」
「えっ、リエルじゃん。どうしたの?ああ、完成したポーションはそこの隅っこに置いてあるから」
「あ、ありがとう!い、いや。それより大事なお知らせがあるの!大事なお知らせが!」
「えっ?」


はしゃぐ子供みたいなテンションで言うから、俺はつい体ごとリエルに向けて、床に座ったまま彼女を見上げる。

リエルはもはや目じりに涙まで溜めてから言った。


「ラウディ商会の借金、今日で全部返済し終えたのよ!!」
「……え?いや、返済が終わった……?えっと、借金いくらだっけ?」
「1億ゴールドだったよ!?1億ゴールド!!」
「……………」
「全部、全部カイ君のおかげだよ……本当にありがとう、ありがとう!!」
「う、うわああっ!?」


あまりの嬉しさに耐えられなくなったのか、リエルはダイブするように俺に抱き着いてくる。俺も反射的に腕を回してしまった。

柔らかいふくらみが胸板にあたって、一気に顔に熱が上がってきた。そして、それと同時に隣の二人も―――ニアとクロエも死んだ目で、抱き合っている俺たちを見つめていた。


「ありがとう、ありがとう……!!ううっ、うわあああん……本当に死ぬかと思った……本当に死にたかったよぉ……うわあああん!!」
「こ、この子また泣いてる……!ほら、落ち着きな?それほどの売り上げがあったなら、今も色々と忙しいんでしょ?早く仕事に戻らないと」
「うん……でも、嬉しくて。嬉しくて……!」
「……あはっ、もう」


別に、彼女のためだけにパワーエリクサーを作ったわけじゃない。

ただの清い水を聖水にして買わせている教皇に一泡吹かせてやりたかったし、クロエのアーティファクトをもらうためでもあった。

だけど、まあ……リエルに恩を返すと言う名目もあったから、別にいいっか。


「ありがとう、ありがとう……本当に、ありがとう……」
「もう何度も聞いたから。ほら、涙も拭いて……よし。あ、そういえば二つお願いがあるんだけどさ」
「うん。なんでも言って。カイ君のお願いならなんでも聞くから」
「…………そんなことむやみに言っちゃダメだからね?とにかく、一日だけ休暇をもらえないかな。ちょっと行きたいところがあるんだ」


ここまで商売が上手く行ったわけだから、教皇がじっとしているはずがない。必ず何らかの手を使って、ラウディ商会を潰そうとするだろう。

その過程では必ず物理的な戦闘が起こるだろうし、今から重視すべきものは――他ならぬ、戦闘力だ。


「そろそろアーティファクトをちゃんと買わないと。クロエとも色々と訓練しなきゃだし、ジンネマンさんを待たせすぎるのもちょっとアレだしね」
「うん、うん」
「それで、今俺の手持ちにあるのが400万だから、後100万ゴールドだけもらえないかな?」
「うん、あげる。100万だろうが1000万だろうが、カイ君には全部あげる」
「………………………………………………………………………」
「…………………………これが、本当に商会のボス?」


クロエの呆れたような声はまさしく、今の俺の気持ちを代弁してくれるものだった。

なにが起きてるんだ。いくらなんでもこれはちょっと……頭のネジが飛んだと言うか、悪い男に引っかかったらダメな子の典型例じゃないか。

そして、その会話をすべて聞いていたニアはぽつりと、小声でつぶやく。


「……カイがリエルを貢ぎマゾにしてる」
「その言葉どこで覚えた?ねぇ、どこで覚えたの、ニア!?」


とにかく、リエルの激烈な許可をもらった俺たちは、また3人で市場に出かけるのだった。
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