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60話 偽りの勝利
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協会の敷地内には数百人の十字軍がいる。そいつらを全部倒して教皇をある場所に連れ込むのが、今回の目的だった。
俺は目の前にめらめらと燃えているカルツを見て、肩を竦める。それと同時に、一昨日の会話を思い出した。
『本当に大丈夫なの?私だけ素早く教皇を拉致した方が―――』
『いや、全員殺さなきゃ意味がないよ、クロエ』
いくら俺たちでも、訓練された軍隊を相手にするのは大変なはずだ。それを念じてクロエが言ってくれたんだが、俺は即座に首を振っていた。
『地方の十字軍は教会で何年間も、訓練を受けてから地方に派遣されるんだ。すなわち、そいつらも首都にいる十字軍と大して変わらないってことだよ』
そう、あいつらもきっと抱いていただろう。嫌がる女性を無理やりに搾取しながら、性欲の捌け口にしただろう。
教会の真相だって、あいつらは分かっていたはずだ。
それを聞いた途端に、クロエとニアの表情が険しくなる。隣にいるリエルも拳をぶるぶる震わせる。
『じゃ、どうするの?あの場には勇者も現れるはずだけど……』
的確な質問を投げてくるリエル。俺は一度拍手を打ちながらニヤッと笑って見せた。
『俺に考えがあるんだ』
だいぶリスクがあるし、魔力の消耗も高いはずだけど。
やつらを効果的に殺すためには、必要なことだと思った計画があったのだ。
『リエル、お願いがあるんだけど――――』
俺が構想した作戦の内容を説明すると、残りの3人が適切なアドバイスをしてくれた。
それから些細な修正を加えて、今回の作戦が出来上がったのである。
教会を徹底的に崩壊させるための作戦が。
「悪魔ぁああああああああああ!!」
カルツは長くは待たなかった。すぐに聖剣を抜いて、黄色いオーラ―を纏わせてから襲ってくる。俺は片手を高く上げてから、指を鳴らした。
パチン、と。
それと同時に、カルツの剣先が目の前まで迫る。
「ディバイン・オーラ―!」
――――早い。
前に戦った時とは比べにならない程度、カルツの動きは速かった。咄嗟に腰を反らして躱したけど、想像以上の速さに自然と目が見開かれる。
ヤツはそのまま剣を振り下ろそうとするけど、とっさに体内に魔力を集中させて体をずらすことができた。その後、俺はすぐに姿勢を低くして足をひっかける。
「くはっ!?」
カルツがバランスを失うと同時に、俺の蹴りがヤツの腹部に当たる。そのまま吹っ飛ばされて、ヤツの体が地面に転がった。
「ケホッ、ケッ……!貴様……!!」
「………」
アルウィン曰く、カルツは狂ったみたいに毎日のようにダンジョンを出入りしたらしい。そのおかげか、確かにヤツの成長は眩しかった。
「へぇ、強くなったな、お前」
「黙れ!!俺を侮辱するか、外道!!」
「いや、純粋に褒めただけだけど」
「貴様……!!絶対に殺す!!」
「……なんでここまで嫌われてるんだ?俺」
必要以上に嫌われている気がするが、別にどうでもいい。
前世で4年も操作したキャラだからそれなりに愛着はあるものの、今のこいつはもう―――敵でしかないから。
「くっ………くぁあああああ!!」
カルツはすべての魔力を湧き上がらせ、聖剣にすべての魔力を込める。黄色いオーラ―はヤツの腕の全部を飲みつくすほどかさばって、燃え上がる。
早さだけじゃなく、魔力量とそれを操作するテクニックまで上がったのか。俺は口角を上げた後、俺がゲームの中で愛用していた剣―――ブリトラを抜いた。
「カルツ様、支援します!!」
「魔法部隊はカルツ様を援護しろ!!カルツ様にバフをかけつつ、遠距離魔法を悪魔にぶち込むのだ!!」
ブリトラに黒いオーラ―が纏われると同時に、カルツは再び駆け出す。俺も今回は躱すことなく、正面からヤツに飛び掛かった。
――――次第に空を覆いつくす、光の矢の雨。その下で、互いのオーラ―がぶつかる。
「死ね、死ねぇえええ!!」
「はっ、残念だな。ここで死ぬのはお前だからな!!」
剣がぶつかると同時に広がるエネルギーの波動。俺を断ち切ろうとするヤツの剣を防いで、首を狙った。
その剣を弾き飛ばしたヤツは、少しだけ距離を取って俺の腰を狙ってくる。それを躱してから、俺はそれから降ってくる光の矢を黒魔法で形成したシールドで弾き返した。
「撃て、撃て!!!悪魔を殺せぇえ!!!」
目まぐるしい状況の中、前世の記憶が俺の脳内をかすめていく。ちょうど、ゲームと同じ感覚だった。
気が狂うほど降り注がれるボスの攻撃。それを上手く躱しながら、最適のサイクルでスキルを叩き込んでいた俺。
そう、今回も同じだ。場が混乱するほど気持ちが良くなる。これは、ゲーマーとしての本能みたいなものだ。ランカーとしての魂だ。
俺は流れるように剣を動かしながらカルツの攻撃を防ぎ、矢を躱しながらスキルを撃つ。
「ダークピアス!」
空中から生み出された3本の大きな槍が、遠くにいる十字軍たちのところに突き刺さって爆発すると、悲鳴が上がる。
その間にも、俺とカルツの剣は恐ろしい勢いで互いの命を狙っていた。ぶつかって、弾き返されて、また迫る。
「う、うぁああああ!!!!!」
「なんだよ……くそ、化け物が!!」
「だ、大丈夫!!もうすぐだ!急いで魔方陣を組め!!」
黒と白が目まぐるしく飛び散る中、カルツの顔には徐々に焦りが生じて行く。最速で攻撃をしかけても全部弾き返されるのだから、当たり前だ。
『しかし……やっぱ足りないか』
一旦距離を取ってから、俺は息を整える。上手く立ち回ってはいるものの、状況はやはり不利だった。
魔力はあるものの、カルツを完全にねじ伏せられる剣のテクニックが足りないのだ。これはちょっと補う必要がありそうだ。
そうやって状況を確かめていた、その時―――
「カルツ様!魔法陣の構築が終わりました!!」
「ああ!!分かった!!」
リーダー格の男の声を聞いて、カルツが両手で聖剣を掴む。それと同時に、俺の足元から生まれる巨大な魔法陣。
『これ、ニアを攻略した時に使われた……!!』
察しはついていたけど、やっぱりこれか。ゲームの中でラスボスであるニアを攻略する時に使われた、神聖魔法の極意。
体の中の魔力を一から燃やし始める神聖魔法陣―――ジェネシス!
「これで終わりだ、死ねぇええ!!」
「くっ!?」
この一撃にすべてをかけたのか、カルツは体を覆いつくすくらいの巨大なオーラ―の一閃を、俺に放ってくる。
躱すことのできないくらい大きくて、俺は咄嗟に魔力を引き上げた。しかし、それと同時に―――
「くはっ……!?これ……!」
細胞が燃えるような苦痛が、俺を襲ってきた。足元の魔法陣は、そのまま光って――――
「ディバイン・フレアぁあああ!!!」
カルツのオーラ―と共に、俺を飲みつくした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…………………………」
「…………………………」
静寂の中、一人の少年が倒れていた。
100人近くの魔法部隊が組み上げた魔法陣と、勇者であるカルツがすべてを魔力を込めて振り下ろした一閃。
そのすべてが、光の一撃が悪魔を燃やして―――倒したのだ。
「や、やったぁあああああ!!」
「やった!!!!!!!俺たちの勝利だ!!!!」
十字軍たちの中で歓声が沸き上がり、希望が咲き誇る。悪魔を倒したのだ。あんなに恐れていた悪魔を、自分たちの手で!
「帝国万歳!!教皇様万歳!!」
「よかった……!!これで無事に日常に戻れる!!」
「ははっ、大変だったな~~これでまた俺たちの世界だ!!十字軍万歳!!」
これで、日常に戻れる。街の人々に敬われ、慰安のためという名目で女を抱き潰す日常をまた、送れる。
歓喜が支配する空間の中、カルツは不敵な笑みを浮かべて倒れているカイに近づいた。
「ははっ、あははははっ」
やっぱり、俺は間違っていない。
悪いのは悪魔だ。悪いから悪魔だと呼ばれているのだ。当たり前なことじゃないか。
聖剣に選ばれた俺は、必ず正しい道筋をたどるしかないのだ。俺は勇者だから。世界を救う救世主だから。
そんな思いを巡らせながら、カルツは聖剣を高く掲げて―――カイの首を刺す。
「死ね……死ね死ね死ね死ね死ね、死ねぇえ!!あはっ、あははははははは!!」
気持ちがいい。愉快すぎてたまらない。カルツは何十回もカイの体を聖剣で貫きながら、狂ったような笑い声を上げる。
「きひっ、きははははっ!!俺の勝ちだ!お前の敗北だ!!俺は間違っていない。仲間なんぞ、また探せばいいだけだ!!」
地下室で蹴られた分。言葉で侮辱された分。惨めな気持ちにさせられた分。
今までの鬱憤をすべて晴らすように、カルツはカイの体をボロボロにしていく。何分も、何十分も目の前の死体を毀損して、壊した。
それから1時間くらい経った後、彼はようやく聖剣を収める。
「ああ……ははっ、最高の一日だ。勇者をやってよかった……これで、俺の正しさが証明された……」
これくらいでいいか。後は、教皇様のところに行ってすべてを報告すれば終わりだ。
しかし、彼がそう思って振り返った、その瞬間。
「あ………うぐぅっ………う、ぁ……?」
一人の兵士が、苦しそうに自分の首元を掴んでいるのが見えた。
なんだ、体内の魔力が暴走でもしたのか。そう思っていた矢先に、急にその男の頭が回転する。
文字通り、頭が回転した。ドリルが回るように、出来上がった渦巻きのように頭が回転して―――そして、現れた顔を見て。
「………………………………………………………………………は?」
カルツは、驚愕するしかなかった。
だって、その顔は―――その忌々しい顔は、自分が先ほどまで串差しにしていた少年の顔だったから。
左側の赤目を光らせている、悪魔の顔が自分を見て笑っているのだ。
まるで、さっきまでは全部お遊びだったよと言わんばかりの表情で。
「期待した?」
「……………………………………………………………………………な、なっ」
それだけじゃない。
その少年の横に立っていた男の頭が、また回転し始める。その歪な状況は伝染するように広がって、数十人の頭が回って、数百人の頭が全部回って――――
数百に至る悪魔の眼差しが、カルツに注がれる。
「期待した?」
「楽しかったか?」
「楽しかったよな?ぷふっ」
「勝ったつもりでいたよな?」
「あはははははっ!!正義の勝ちだったよな、確かに!!」
「俺の正しさが証明された~~お前の敗北だぁ~~~~あはっ、あはははははははははっ!!!」
十字軍の歓喜が溢れかえっていたその空間には、悪魔の嘲笑と皮肉で満たされて行って。
未だに状況を飲み込めず、唇をぶるぶる震わせているカルツは―――思わず、手に取っていた聖剣を落としてしまう。
「前世で見た映画の中で、こんなセリフがあったんだ。大いなる力には大いなる責任が伴う」
そして、一番前に立っていたカイが、カルツに近づいた。
「その力を自分の劣等感解消のために使ったんだから、仕方ないよな?」
それから、カイはトラウマに残るほどの―――カルツが絶対に忘れられない満面の笑みを湛えながら、言う。
「責任を果たすつもりすらなかった貴様は、それ相応の罰を受けなきゃ」
俺は目の前にめらめらと燃えているカルツを見て、肩を竦める。それと同時に、一昨日の会話を思い出した。
『本当に大丈夫なの?私だけ素早く教皇を拉致した方が―――』
『いや、全員殺さなきゃ意味がないよ、クロエ』
いくら俺たちでも、訓練された軍隊を相手にするのは大変なはずだ。それを念じてクロエが言ってくれたんだが、俺は即座に首を振っていた。
『地方の十字軍は教会で何年間も、訓練を受けてから地方に派遣されるんだ。すなわち、そいつらも首都にいる十字軍と大して変わらないってことだよ』
そう、あいつらもきっと抱いていただろう。嫌がる女性を無理やりに搾取しながら、性欲の捌け口にしただろう。
教会の真相だって、あいつらは分かっていたはずだ。
それを聞いた途端に、クロエとニアの表情が険しくなる。隣にいるリエルも拳をぶるぶる震わせる。
『じゃ、どうするの?あの場には勇者も現れるはずだけど……』
的確な質問を投げてくるリエル。俺は一度拍手を打ちながらニヤッと笑って見せた。
『俺に考えがあるんだ』
だいぶリスクがあるし、魔力の消耗も高いはずだけど。
やつらを効果的に殺すためには、必要なことだと思った計画があったのだ。
『リエル、お願いがあるんだけど――――』
俺が構想した作戦の内容を説明すると、残りの3人が適切なアドバイスをしてくれた。
それから些細な修正を加えて、今回の作戦が出来上がったのである。
教会を徹底的に崩壊させるための作戦が。
「悪魔ぁああああああああああ!!」
カルツは長くは待たなかった。すぐに聖剣を抜いて、黄色いオーラ―を纏わせてから襲ってくる。俺は片手を高く上げてから、指を鳴らした。
パチン、と。
それと同時に、カルツの剣先が目の前まで迫る。
「ディバイン・オーラ―!」
――――早い。
前に戦った時とは比べにならない程度、カルツの動きは速かった。咄嗟に腰を反らして躱したけど、想像以上の速さに自然と目が見開かれる。
ヤツはそのまま剣を振り下ろそうとするけど、とっさに体内に魔力を集中させて体をずらすことができた。その後、俺はすぐに姿勢を低くして足をひっかける。
「くはっ!?」
カルツがバランスを失うと同時に、俺の蹴りがヤツの腹部に当たる。そのまま吹っ飛ばされて、ヤツの体が地面に転がった。
「ケホッ、ケッ……!貴様……!!」
「………」
アルウィン曰く、カルツは狂ったみたいに毎日のようにダンジョンを出入りしたらしい。そのおかげか、確かにヤツの成長は眩しかった。
「へぇ、強くなったな、お前」
「黙れ!!俺を侮辱するか、外道!!」
「いや、純粋に褒めただけだけど」
「貴様……!!絶対に殺す!!」
「……なんでここまで嫌われてるんだ?俺」
必要以上に嫌われている気がするが、別にどうでもいい。
前世で4年も操作したキャラだからそれなりに愛着はあるものの、今のこいつはもう―――敵でしかないから。
「くっ………くぁあああああ!!」
カルツはすべての魔力を湧き上がらせ、聖剣にすべての魔力を込める。黄色いオーラ―はヤツの腕の全部を飲みつくすほどかさばって、燃え上がる。
早さだけじゃなく、魔力量とそれを操作するテクニックまで上がったのか。俺は口角を上げた後、俺がゲームの中で愛用していた剣―――ブリトラを抜いた。
「カルツ様、支援します!!」
「魔法部隊はカルツ様を援護しろ!!カルツ様にバフをかけつつ、遠距離魔法を悪魔にぶち込むのだ!!」
ブリトラに黒いオーラ―が纏われると同時に、カルツは再び駆け出す。俺も今回は躱すことなく、正面からヤツに飛び掛かった。
――――次第に空を覆いつくす、光の矢の雨。その下で、互いのオーラ―がぶつかる。
「死ね、死ねぇえええ!!」
「はっ、残念だな。ここで死ぬのはお前だからな!!」
剣がぶつかると同時に広がるエネルギーの波動。俺を断ち切ろうとするヤツの剣を防いで、首を狙った。
その剣を弾き飛ばしたヤツは、少しだけ距離を取って俺の腰を狙ってくる。それを躱してから、俺はそれから降ってくる光の矢を黒魔法で形成したシールドで弾き返した。
「撃て、撃て!!!悪魔を殺せぇえ!!!」
目まぐるしい状況の中、前世の記憶が俺の脳内をかすめていく。ちょうど、ゲームと同じ感覚だった。
気が狂うほど降り注がれるボスの攻撃。それを上手く躱しながら、最適のサイクルでスキルを叩き込んでいた俺。
そう、今回も同じだ。場が混乱するほど気持ちが良くなる。これは、ゲーマーとしての本能みたいなものだ。ランカーとしての魂だ。
俺は流れるように剣を動かしながらカルツの攻撃を防ぎ、矢を躱しながらスキルを撃つ。
「ダークピアス!」
空中から生み出された3本の大きな槍が、遠くにいる十字軍たちのところに突き刺さって爆発すると、悲鳴が上がる。
その間にも、俺とカルツの剣は恐ろしい勢いで互いの命を狙っていた。ぶつかって、弾き返されて、また迫る。
「う、うぁああああ!!!!!」
「なんだよ……くそ、化け物が!!」
「だ、大丈夫!!もうすぐだ!急いで魔方陣を組め!!」
黒と白が目まぐるしく飛び散る中、カルツの顔には徐々に焦りが生じて行く。最速で攻撃をしかけても全部弾き返されるのだから、当たり前だ。
『しかし……やっぱ足りないか』
一旦距離を取ってから、俺は息を整える。上手く立ち回ってはいるものの、状況はやはり不利だった。
魔力はあるものの、カルツを完全にねじ伏せられる剣のテクニックが足りないのだ。これはちょっと補う必要がありそうだ。
そうやって状況を確かめていた、その時―――
「カルツ様!魔法陣の構築が終わりました!!」
「ああ!!分かった!!」
リーダー格の男の声を聞いて、カルツが両手で聖剣を掴む。それと同時に、俺の足元から生まれる巨大な魔法陣。
『これ、ニアを攻略した時に使われた……!!』
察しはついていたけど、やっぱりこれか。ゲームの中でラスボスであるニアを攻略する時に使われた、神聖魔法の極意。
体の中の魔力を一から燃やし始める神聖魔法陣―――ジェネシス!
「これで終わりだ、死ねぇええ!!」
「くっ!?」
この一撃にすべてをかけたのか、カルツは体を覆いつくすくらいの巨大なオーラ―の一閃を、俺に放ってくる。
躱すことのできないくらい大きくて、俺は咄嗟に魔力を引き上げた。しかし、それと同時に―――
「くはっ……!?これ……!」
細胞が燃えるような苦痛が、俺を襲ってきた。足元の魔法陣は、そのまま光って――――
「ディバイン・フレアぁあああ!!!」
カルツのオーラ―と共に、俺を飲みつくした。
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「…………………………」
「…………………………」
静寂の中、一人の少年が倒れていた。
100人近くの魔法部隊が組み上げた魔法陣と、勇者であるカルツがすべてを魔力を込めて振り下ろした一閃。
そのすべてが、光の一撃が悪魔を燃やして―――倒したのだ。
「や、やったぁあああああ!!」
「やった!!!!!!!俺たちの勝利だ!!!!」
十字軍たちの中で歓声が沸き上がり、希望が咲き誇る。悪魔を倒したのだ。あんなに恐れていた悪魔を、自分たちの手で!
「帝国万歳!!教皇様万歳!!」
「よかった……!!これで無事に日常に戻れる!!」
「ははっ、大変だったな~~これでまた俺たちの世界だ!!十字軍万歳!!」
これで、日常に戻れる。街の人々に敬われ、慰安のためという名目で女を抱き潰す日常をまた、送れる。
歓喜が支配する空間の中、カルツは不敵な笑みを浮かべて倒れているカイに近づいた。
「ははっ、あははははっ」
やっぱり、俺は間違っていない。
悪いのは悪魔だ。悪いから悪魔だと呼ばれているのだ。当たり前なことじゃないか。
聖剣に選ばれた俺は、必ず正しい道筋をたどるしかないのだ。俺は勇者だから。世界を救う救世主だから。
そんな思いを巡らせながら、カルツは聖剣を高く掲げて―――カイの首を刺す。
「死ね……死ね死ね死ね死ね死ね、死ねぇえ!!あはっ、あははははははは!!」
気持ちがいい。愉快すぎてたまらない。カルツは何十回もカイの体を聖剣で貫きながら、狂ったような笑い声を上げる。
「きひっ、きははははっ!!俺の勝ちだ!お前の敗北だ!!俺は間違っていない。仲間なんぞ、また探せばいいだけだ!!」
地下室で蹴られた分。言葉で侮辱された分。惨めな気持ちにさせられた分。
今までの鬱憤をすべて晴らすように、カルツはカイの体をボロボロにしていく。何分も、何十分も目の前の死体を毀損して、壊した。
それから1時間くらい経った後、彼はようやく聖剣を収める。
「ああ……ははっ、最高の一日だ。勇者をやってよかった……これで、俺の正しさが証明された……」
これくらいでいいか。後は、教皇様のところに行ってすべてを報告すれば終わりだ。
しかし、彼がそう思って振り返った、その瞬間。
「あ………うぐぅっ………う、ぁ……?」
一人の兵士が、苦しそうに自分の首元を掴んでいるのが見えた。
なんだ、体内の魔力が暴走でもしたのか。そう思っていた矢先に、急にその男の頭が回転する。
文字通り、頭が回転した。ドリルが回るように、出来上がった渦巻きのように頭が回転して―――そして、現れた顔を見て。
「………………………………………………………………………は?」
カルツは、驚愕するしかなかった。
だって、その顔は―――その忌々しい顔は、自分が先ほどまで串差しにしていた少年の顔だったから。
左側の赤目を光らせている、悪魔の顔が自分を見て笑っているのだ。
まるで、さっきまでは全部お遊びだったよと言わんばかりの表情で。
「期待した?」
「……………………………………………………………………………な、なっ」
それだけじゃない。
その少年の横に立っていた男の頭が、また回転し始める。その歪な状況は伝染するように広がって、数十人の頭が回って、数百人の頭が全部回って――――
数百に至る悪魔の眼差しが、カルツに注がれる。
「期待した?」
「楽しかったか?」
「楽しかったよな?ぷふっ」
「勝ったつもりでいたよな?」
「あはははははっ!!正義の勝ちだったよな、確かに!!」
「俺の正しさが証明された~~お前の敗北だぁ~~~~あはっ、あはははははははははっ!!!」
十字軍の歓喜が溢れかえっていたその空間には、悪魔の嘲笑と皮肉で満たされて行って。
未だに状況を飲み込めず、唇をぶるぶる震わせているカルツは―――思わず、手に取っていた聖剣を落としてしまう。
「前世で見た映画の中で、こんなセリフがあったんだ。大いなる力には大いなる責任が伴う」
そして、一番前に立っていたカイが、カルツに近づいた。
「その力を自分の劣等感解消のために使ったんだから、仕方ないよな?」
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