トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

文字の大きさ
90 / 111

90話  悪魔の提案

しおりを挟む
カルツから受けた傷が全部治った後、ブリエンはさっそく偵察任務につくことになった。

他ならぬ、自分がそうお願いしたからだ。エルフである自分は、視野も広く通常の人間より何倍も感覚が鋭いから。


「……これといった動きはありませんな、ブリエンさん」
「確かに、その通りだね」


レジスタンスの3人は望遠鏡で、リエルは目で。

高い山で皇室を眺めながら、彼らは短い会話を重ねた。この山の頂上まで登れば、皇室の内部まではいかなくても外部の城壁くらいは確認できる。

そして、皇室の付近にあるこの山の下には小さな村があって、ブリエンたちはそこを拠点として活動していた。

その場所を勧めてくれたのは予言の悪魔―――いや、もはや一般市民たちの間では救世主とも呼ばれているカイだった。


『ちなみに、無理しなくてもいいから』
『え?』
『自分の命を大切にしろってことだよ。君が死ぬとクロエが悲しむから』
『……ふうん』


初めては、ただの殺すべき敵としか思ってなかった。

悪魔が世界を飲みつくすなんて予言はあまりにも不吉だし、黒魔法の力自体も気に食わないから。

あの厄介な力は、よく人を狂わせて常識離れした事件を起こす。自分がまだエルフの村にいた時からずっとそう教われてきたから、カイたちに対する認識もいいはずがなかった。

だけど、最近はその偏見に少しずつヒビが入っていた。ブリエンは、カイに見送られる時に交わした会話を思い出す。


『カイ、だっけ?お願いがあるんだけど、一つだけいい?』
『うん。できることなら』
『……アルウィンとクロエを守ってくれる?あの二人、私にとって大切な仲間だから』


クロエは途中からパーティーを抜けたし、カルツの死によって勇者パーティーは完全に解散してしまったが……情は残っている。

ブリエンは未だに、アルウィンもクロエも大好きなのだ。彼女たちと最初から重ねた時間は、決して短くはないから。

まさか、そんな仲間たちを悪魔に託すなんて想像もしてなかったけど。

とにかく、カイはあっさりと頷いてくれた。


『ああ、そうするよ。二人は俺がちゃんと守るから、君は偵察任務と自分が生き残ることだけ考えるように』
『……どうして?』
『うん?』
『どうしてそんなあっさり引き受けてくれるの?私、カルツのパーティーメンバーだったのよ?元はとなら、私はあなたの敵だけど』
『…………………ははっ、まぁ』


当たり前なことを言ったつもりなのに、カイは予想もしなかったとばかりに笑っていた。

その後にしばらく間を置いて、唇を濡らした後に……


『俺にもちゃんと大切な仲間がいるから、その気持ちは分かるんだよ』


到底悪魔だとは思えない、温もりに詰まった答えを出して。

そのおかげで、ブリエンはここに来てからずっとカイのことを思い浮かんでいるのである。

全く悪魔らしくない悪魔。彼はレジスタンスにも丁寧に接することで有名で、黒魔法という物騒な力とは真逆の優しい人物だと言う。

……ブリエンがカイを初めて見たのは、ゲベルスの地下実験室。あそこでカルツをコテンパンに殴っていたカイに、あんな一面があるなんて。


「……調子狂うな、もう」


とにかく大事なのは、彼が敵ではないことだ。いざ味方にしてみると、ここまで心強い仲間もそうそういない気もする。

自分はしっかり、自分の役目を果たさなければ―――そう思っていた矢先。


「……あれ?」
「ブ、ブリエンさん!あそこ見てください!」
「ええ、見てるわ。なんか土煙が上がっているけど、あれは………貴族の騎士団?」


ブリエンは目を見開く。日が沈んだ夜でも、彼女の目には兵士たちが持っている旗の紀章がちゃんと見えた。

昔、カルツと一緒に勇者パーティーとして活躍した時に見たもの。名前までは覚えてないけど、あれは確かどっかの伯爵家の紀章だったはず。


「ブリエンさん、東の方にも動きが……!!」
「に、西の方も見てください!!あれは、ビアン侯爵家の騎士団です!!」
「…………………」


なんなの、これ。なにが起きているの?

まるで招集命令でも出されたかのように、貴族の軍隊が次々と皇室の中に入っていく。こんな夜中に、あそこまでの兵力が……?どうして?

――――いや、あそこまで大軍が集まる理由なんて決まっている。


「………ブリエンさん、これは」
「ええ、これは今すぐにでもオーデルに戻って、彼に報告した方がよさそうね」


ブリエンはごくっと唾を飲み込んで、深い息をこぼす。

戦争、という二文字が頭をかすめていく。戦争、そうだ。戦争。

皇子は貴族たちと力を合わせて、完全にレジスタンスたちを抹殺するつもりなのだ。

ブリエンは下の唇を噛んだ後、真横にいる男に指示を出す。


「あなた、確か風邪魔使いだったよね?今すぐにでもオーデルに向かう準備を―――」
「ぶ、ブリエンさん!!皇室を見てください、皇室を!!」


急に驚愕したような声が鳴って、ブリエンは眉をひそめながらも皇室の建物に目を向ける。間もなくして、彼女も驚愕して口を開いてしまった。


「…………なに、あれ?」


ここから確認できる皇室の建物全部が、赤黒い霧で覆われていた。

見るだけでも背筋がゾッとして、本能的な恐怖感と嫌悪感を呼び寄せるような霧。不吉極まりないそれを見て、ブリエンは拳を握りしめた。


「……まずいわ!!私はここに残ってやつらの動きを見守るから、あなたたちだけでも早く戻りなさい!戻って、早くカイにこのことを伝え――――」
「――――あぁ、じゃこれも伝えてくれるか?」


ブリエンがさらに言葉を重ねようとした瞬間。

異変は、突然訪れた。感覚を最大限までみなぎらせたと言うのに、気配もなく……怪物が急に現れたのだ。

背中から響くおぞましい声に、ブリエンは顔を青ざめて振り返る。すると、そこには文字通りの怪物がいた。

大人の男性より二回りほど背が大きく、皮膚は腐っているのか歪んでいるのか、すべてがどす黒い。

小さくて黄色い瞳だけが光って、偵察隊の5人を見つめていた。


「あ………………ぁ……」


未知の存在を目の前にして訪れる、圧倒的な恐怖感。

ヤバい、殺される―――ブリエンがそう思いかけた時に、かの怪物は急に両手を上げて見せた。


「あいつに伝えるんだろう?今そこで行われている儀式を」
「……………………え?」
「なら、それを伝えるついでに俺の提案も伝えておいてくれ。お前たちが敬う、例の偽物の悪魔にな」


頭の中で状況が追い付かない。この化け物はなにを言っている?

そもそも、なんで私たちを殺さない?提案ってどういうこと?ブリエンの頭が煩わしくなったのを知って知らずか、怪物は裂かれている口先を上げてから言う。


「俺はさ、ヤツと二人きりで話し合いがしたいんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...