トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

文字の大きさ
97 / 111

97話  激突

しおりを挟む
「ぐる……ぐっ………」
「………………」


肌は剥がれて、片方の目は赤くなって、腕は歪な形にかさばって。

もはや、完全に人間だとは思えない姿をした昔の仲間を見て、ブリエンは目を細める。

もちろん、彼のことをこころよく思わない時もあった。行き過ぎた正義感や思い込みが嫌になる時もあったし、クロエと一緒に喧嘩をした時もあった。

だけど、こんな姿になって欲しくはなかった。


「……ふぅ」


しかし、そんな私情を混ぜれば動きが鈍くなり、あっという間に首が飛ぶだろう。

既に一度彼に襲撃されたからこそ、ブリエンは知っている。目の前の存在はカルツじゃない。

ただの、敵だ。


「ぐあぁああああああああ!!」
「マグナムショット!!」


ブリエンが矢を発射したのとカルツが飛び掛かったのは、ほとんど同時だった。

決して大きくはないが、鋭い矛先が至近距離まで迫ってきたら体が反応してしまう。カルツは反射的に矢を躱しながら、飛び掛かる勢いを殺す。

そして、その隙を利用してブリエンはできるだけ、カルツから離れた。

近距離戦は明らかにこっちが不利。何とかして打ち勝つためには、みんなのサポートをもらわないと……!!


「ちっ……!!」


こんなに早く相対するとは思わなかったから、ブリエンは顔をしかめる。しかし、計画に狂いが出るのは戦場ではよくあることだ。

彼女はさっそく、赤い色の矢をつがえて空に発射する。間もなくして大きな爆発音と煙が上がり、レジスタンスのリーダーであるキリエルの声が響く。


「強敵が現れた!!前衛部隊は退却しつつ、魔法部隊の半数はブリエン様のサポートに回れ!!」


事前に約束された信号。何時間ものの会議を経て決まった合図は、兵士たちの行動を変化させるには十分だった。

元々、ブリエンたちが図っていたのはゲリラ戦。

カルツの登場でややこしくなったが、威力の高い魔法を何発も敵の後方に食らわせることができた。所記の目的は達成したと言っても過言ではない。

前衛の兵士たちが戦いつつも下がるのと同時に、魔法部隊の標的はカルツになる。

やがて、屋根の上で雄たけびを上げている彼に向かって、魔法が降り注がれた。


「ライトニングスピア!!」
「ファイアボルト!」
「ぐるるっ!?」


退却している味方が巻き込まれないよう、小規模で組み込まれる魔法。

しかし、そういう魔法がいっぺんに10回以上も使われたら、カルツもブリエンを追えなくなる。

そんな状況であるにも関わらず、魔法のほとんどを躱している彼の動きが異常なくらいだった。


「っ……!?なんてヤツ……!」


慌てたような味方の声が聞こえるが、ブリエンは少しも揺るがない。彼女は冷静さを保ったまま弓を構える。深呼吸をして、敵を見つめる。


「アローストレイフ」


そして、速射が始まった。

人間の目には追い付けないスピードで、ブリエンは矢を連射し始める。普通の人の目には弓を構えている姿勢にしか見えないが、その弓からは数十本の矢が放たれていた。

目を見開き、超然と構えてカルツだけを狙うブリエン。魔法と共に行われた突然の連撃に、カルツが悲鳴を上げた。


「がぁああああああああああ!!!」


いくらグールになったとしても、視界を覆い尽くすくすほどの攻撃を躱しきれるはずがない。

結局、カルツの胴体に一本の矢が刺される。間もなくして5,6本の矢が同じところに突き刺さった。

彼の動きが、一瞬止まる。


「……っ!」


ブリエンはそれを見て、さらに速射のスピードを上げる。威力が足りないなら、数で解決すればいい。

いくらあなたでも、私の矢を100本も食らったらさすがに死ぬでしょうね!!


「今だ、魔法部隊!!」


キリエルの命令が下り、標的を正確に捉えた魔法部隊も一斉に魔法を組む。

無数の矢が、火の球が、雷の槍が、鋭い氷柱が一点にだけ集中される。


「勇者カルツを―――我らの敵を、殺せ!!」


地面が揺れるほどの大きな爆発。

ブリエンは、煙がある程度消えた後にようやく、カルツが立っていた建物が崩れているのを確認した。

完全に破壊されて、巻き込まれた敵兵たちの血が飛び散っているのを、彼女はしっかり目に留める。


「時間がない!私たちも早くいくわよ!」
「はい、ブリエン様!」


そして、次々と押し寄せてくる敵の群れを見て、彼女は背を向けた。

さすがに死んだんでしょうね……?生きているならとっくに飛び掛かってきたはずだし。

分からない。でも、今はとにかく作戦に従わないと!


「風魔法を使える者は素早く、味方にバフをかけろ!できるだけ遠く、敵との距離を作るんだ!!」


逃げているように見えるからか、敵兵たちの勢いが増しているように見える。

もとより、彼らは勢いという概念を感じられない人形たちだけど!!


「走れ、走れ!!死ぬ気で走れ、もうすぐだ!!」
「っ!?キリエル、危ないっ!!」
「はっ……!?」


そして、最後尾で敵を攻略していたブリエンは、とっさに隣にいるキリエルを抱えて地面に倒れ込む。

間もなくして、剣が振るわれる殺伐とした音が響き―――キリエルは、目を見開きながら状況を確認した。

振るわれたんじゃない。投擲《とうてき》されたのだ。隣に刺さっているのは、邪悪なオーラを纏っている剣。かつて、教会の聖剣だと言われたものであり――



「……ぐ、ぁ………!!!」
「ちっ……冗談じゃないわよ……!」


完全に肌が剥がれ、ゾンビみたいになったカルツの剣であった。


「敵はあそこにいる!!殲滅せんめつ、やつらを殲滅しろ!!!」


間もなくして遠くから響き渡る、敵将ゲーリングの声。

キリエルの顔が青ざめ、ブリエンは奥歯を噛みしめる。そして、カルツがもう一歩、彼女たちに近づいた時―――。


「……………ぐるっ?」
「殲滅、せんめ………つ」


カルツと帝国軍たちは、目にする。

空を覆うほど巨大な、何個かの黒魔法の塊《かたまり》と。


「オーラウォール!!」


キリエルとブリエンを包む、ドーム型の神聖魔法を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...