トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

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109話  終止符

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俺には、ニアと一緒に収容所を脱出する時にもらった二つの固有スキルがある。

一つは、すべての精神攻撃が無効化される覇王の資質。そして、もう一つは………境界に立つ者。

すべての魔力を、魔法を吸い寄せて奪い取るスキル。


「ぐ……ぁ……!!!!!」


体が貫かれ、激痛が走る。魔力が巡っていない体なら即死してもおかしくない状況だった。

しかし、魔力を体内に無理やり行き渡らせて、俺はかろうじて意識を引き留めた。いわば負けん気であり、執着でもある。


「なっ……!!魔力が……!!」
「あ、がぁあああぁあああああああああああ!!!!!!!!!!」


絶対に、絶対に守りたいという願いが生み出した狂気。口の周りが黒い血でべとべとになりながらも諦めきれない、未来。

掴まった刀身が、段々と薄らいでいく。嵐みたいに吹きすさぶ黒い魔力が俺を包む。

体内にあるものとは性質が違う案内人の魔力が、どんどん流れてくる。激しい頭痛と眩暈がして、前に倒れそうになった。

遠くから、ニアの声が聞こえてくる。


「ダメ、ダメぇえええええ!!!!!!!!!」


さっきもそうだったけど、今まで聞いたことのない声の大きさだった。

ニアがすぐに俺に駆け寄ろうとすると同時に、案内人が悪霊を操って、俺の体に刺されている剣を引き抜こうとする。


「この気違いめ……!!まさか、わざと俺の攻撃を……!?」
「ケホッ、ゲホッ……!かあっ、がぁああああっ……!!」
「う、うぐぁあああ!?!?」


凄まじいスピードで魔力が吸収されるのを防ぐため、案内人はできるだけ俺から離れようとする。悪霊が持っている剣を放して、距離を取ろうとする。

しかし、それよりも前に、俺は前に駆け付けた。


「くはあああっ!!!!!」
「な、なっ……!?!?」


剣がさらに深く突き刺さり、心臓の下まで魔法の刃で切り裂かれる。血が益々出て、もう頭の中が痛みで破裂しそうになった。

しかし、それでもいい。この命と引き換えて、守れるなら。

すべて、終わらせるなら!!


「命が惜しくもないのか!!このイかれ野郎が!!」


案内人の顔には、驚愕を通り越した恐怖が浮かんでいる。俺がずっと笑いながら自分に近づいているからかもしれない。

いや、もしくはヤツの胴体が徐々に縮まっているからか。


「あ、ぐぁあああああ!?!?」
「がああああああああああああ!!」


魔力の急流で込み上がる嘔吐感を、すべて咆哮ほうこうに書き換えた。存分に血を吐きながらも、今まで俺が持っていた以上に膨大な魔力を無理やり、汲み上げた。

案内人が呼び寄せた悪霊と胴体が半分ほど小さくなったところで、俺は飛び立つ。ほとんどすべての力を振り絞った跳躍だった。

体に刺されていた諸刃の剣もすべて俺の体の中に吸収され、黒い魔力となる。

力が抜けそうになる腕に無理やり力を入れて、剣を形成させた。


「ゲホッ、ゲホッ……!!し、ね……!!!」
「きっ、さまぁあああああ!!」
「もう、くたばれぇええええええええええ!!!」


紛れもない自殺攻撃。案内人はすぐに悪霊を消して掌に球体を作るが、その大きさと威力はさっきの魔法とは違って、しょうもない。

狙うは心臓。マテリアルキューブ。ヤツをこの世から完全に消し去るための一撃……!!


「あ……ぁああ……!?!?」


空を覆い尽くすほどの巨大な剣が、俺の手のひらに握られる。吸収された魔力と、己の体にあるすべての魔力を注いで作り出した、最後の一撃。

突き刺した。突いて、貫いて、ヤツの瞳が見開かれるのを見た。


「ぐはっ……!!あ、くま……!!あくまあああああああああ!!」


案内人の悲鳴が耳に入った後にはもう、何も聞こえなかった。

圧倒的な光。そう、圧倒的な光だけが私を覆い隠して。


「し、ねぇえええええええええええ!!!!!!!!!!!」


持っていた剣が爆発する感覚しか、残らなかった。










「……………」


すべてが真っ黒な世界。

目を見開くと、一つの門と共に圧倒的な闇が俺を迎えてくれた。門の先には、現実が見える。

……俺が元いた世界だ。


「…………………」


無事に、終わったんだろうか。

ちゃんと守れたんだろうか。ニアも、クロエも、リエルも、ブリエンも、アルウィンも。他のレジスタンスや街の人々も。

ちゃんと、守れたのだろうか。音もないこの世界では、その有無が分からない。


「……………」
「新たな案内人は現れない」


門をジッと見つめていたその瞬間、後ろから聞きなれた声がした………敵の声だ。

振り返ると、闇の中でもはっきり捉えるほど鮮明な、案内人の姿が見える。ヤツの体は徐々に、片っ端から塵になって散って行った。


「俺は、世界のことわり
「……」
「俺は次元の意志。あらゆる世界線を網羅もうらする者。新たな案内人は、現れない」
「……みんなは無事か?」


ひび割れていない、鮮明で低い声が響き渡る。ちゃんと俺の声だ。

案内人は、無表情で俺を見つめながら言う。


「ふふっ、人間の意志は運命さえ書き換えられるのか」
「………」
「次元を破った者。世界線の境界に立っている者よ。お前には選択肢がある」


それを言うと同時に、また新たな門が現れた。本能的に、その門がどちらに繋がれている門なのかが分かった。

みんながいる、俺が戻るべき世界だ。


「なんで、俺に選択肢があるんだ?俺は死んだはずじゃ―――」
「それは、そちらの世界に向かえば自然と分かるだろう」


沈黙が訪れる。もはや下半身が消えて、上半身と顔だけが残っている案内人は、未だに無表情で俺を見つめているだけだった。


「……一つ聞いてもいいか?」
「ああ」
「なんで俺によくしてくれる?お前は、お前に与えられた使命を俺のせいで果たせなかったはずだ」
「………」
「こんな親切に説明までしてくれるなんて。今度は何を狙ってるんだ?」
「俺は死ぬ」


当たり前だけど、予想はしてなかった言葉に目が見開かれる。そんな俺の反応は我関せず、ヤツは言葉を続けた。


「世界の秩序を守るためだけに生きてきた俺は、もうすぐ死ぬ。義務て点綴てんていされた俺は死ぬ。だから、最後くらいは、少し揺さぶられてもいいと思った」
「………………」
「案内人が無くなれば、それぞれの世界の運命はまた狂い始めるだろう。まぁ、俺に続いてまた新たな案内人が生まれるかもしれないが……一つにまとまっていた世界が散らばった以上、それらをすべて制御することはできない」
「………つまり?」
「これは、俺の個人的な好意ってことだ」


上半身が無くなって、ヤツの顔だけが浮かぶ。

醜い怪物の顔は、見たことないくらい緩んで、笑みに似たなにかを湛えていた。

そして、最後に。


「楽しかったぞ、カイ」


その言葉だけを残して、案内人は完全に消えてしまった。


「……………………ふぅ」


また一人取り残された空間で、俺は深いため息をつく。そして、ゆっくりと歩き出した。

元いた世界に繋がる門じゃなく、みんなが待っている―――俺がいるべき世界へ。


「……もう二度と現れるなよ」


苦笑しながらその言葉をこぼして、勢いよく門を開くと――――

落ち着いた温もりと同時に、みんなの声が聞こえてきた。
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