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番外編 クルミ
おでこのキス
しおりを挟むクロム兄様の居室はフォルド伯父様の邸にある。王宮の最奥。 ここに入るときに秋が「ここから先は警備がしっかりしてるからもう大丈夫」といって私を1人にして帰ってしまった。
ここに来るのは数年ぶりだ。
兄様が15の歳で学園を卒業してこちらに移った時、寂しくて毎日ここに来た。
広くて、何部屋も続いていて、部屋付きのメイドも事務処理をする宮女も何人もいる。
絶えず兄様に秋波をおくる彼女らを見て、ここには足が向かなくなっていった。
「クルミ?」
廊下の奥、兄様の部屋のドアが中から急に開く。
「兄様!っ、その、あの、沢山ご迷惑をおかけしてしまったので……お詫びにパイを母様と焼いたのです。私がつくったのは……不恰好ですが……」
秋のバカ。綺麗な方を持っていきたかった。
「おいで、中で一緒に食べよう」
クロム兄様はにっこり笑って言う。よかった、もう怒ってはなさそう。
宮女の給仕を断って、かつて、の事だけれど勝手知ったるクロム兄様のお部屋で紅茶を淹れる。
「ちょうど着替えに帰ってきていて良かった。次からは、僕の執務室においで」
「?あ、はい」
何だろ、ご自宅はダメだった?前はいつでもおいでって……
しゅんとした私をみてニコニコ笑う。
やっぱり何も言ってくださらない。
バルコニーの丸テーブルにお茶を並べ、パイを出す。不恰好なのばかりだけれど、その中でも1番綺麗なのを選んだつもり。
「久しぶり、いいにおい」
ナイフとフォークを使って食べるのかと思いきや、片手でもってそのままぱくついた兄様は美味しいと言って笑う。
どんな事をしていてもかっこいい人だなと思う。
「クルミ?鷹の王子に会いに行ってるんだって?」
「あ、はい、話を聞きたくて……」
「ふぅん、必ず秋を連れて行くんだよ?」
「はい…………この前は、ごめんなさい」
「はは、別に怒ってないよ。秋は立場上手合わせを増やしたけどね」
やっぱり。秋は私に何にも言わなかったけれど、きっと兄様達からも、父様からも理不尽に怒られたはず。わたしのせいなのに。
陽当たりのいいバルコニーに柔らかい木漏れ日が差す。サワサワと木が揺れる音がして気持ちがいい。
「くるみ、これを」
唐突に兄様が私の手に何かを握らせた。
ゆっくり開いてみると、それは心地よい魔力の乗ったグレーの小さな宝石が付いた指輪で。
「指輪…………これ、兄様の魔力が……」
「子供の頃の爪から作った。逆鱗ほどでは無いけれど少しの守りにはなる筈だ」
常に魔力が宿った指輪を精製するのは難しい。
逆鱗か、翼の爪、歯もかな?を入れる必要がある。他の部分だと、一定期間を過ぎれば消えていく。逆鱗なんて竜体になれなくちゃ取れないし、翼の爪や歯は残りにくい。それでも竜人はプロポーズの時は自分の魔力を直接込めた婚約指輪を作るのが慣わしだ。すぐに消えてしまうけれど。
これは、兄様の婚約指輪。
私が危なっかしいからお守りとして貸して下さった?婚約指輪を?幼いころの兄様の魔力が私を包む。前から、作ってあったのかもしれない。
————未来のお嫁さんのために。
「ありがとう、ございます。そろそろ母様が寂しがります。またお夕飯を食べにいらして下さい」
「ん、そうだね」
兄様はおや?という顔で一瞬私を見たけれど、やはり何も言っては下さらなかった。
「フォルド伯父様にこの後お茶に呼ばれているのです。兄様もお仕事なら一緒にいられて嬉しいです」
「あいつ…………はぁ、僕はこれから別の仕事なんだ。近衛は別の者がつくから、陛下とのお茶会、楽しんでおいで」
そう言って、兄様は私のおでこにキスをした(!!!)家族のキスだけど、初めてされてドキドキがヤバい!!!!心臓とびでそう!!!もう顔洗わない!!!!
あれ?今伯父様のことあいつっていった?兄様が?
うん、聞き間違いだよね。絶対そう。
◇◆◇
「クロムーーーっっ!!!おまえっ!!!成人までは耐えろって言っただろうが!!!伯父さん許さないぞ!!!!!!」
「何のことでしょうか、仕事がありますので御前、失礼します。クルミをくれぐれもよろしくお願いします。陛下」
「お前!!!!何をいけしゃあしゃあと!!!アロンド!刀持ってこい!!エルシーナもだす!!!」
「陛下、クロムには敵いません、諦めてください。秒でねじ伏せられて終わりです。時間の無駄です」
何をそんなに怒ってるんだろ、伯父様はいつも面白いなぁ。
面白いからクロム兄様も側近になるのオッケーしたんだろうな。
「僕のミニ天女が!!!可愛い可愛い姪っ子が!!!!!クソガキ!!!!」
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