【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番外編 クルミ

じじ達

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 図書室に入るとじじ達が子供達とオセロをしてあそんでいる。

 ルースの息子のナツと、あとは軍部の人の子供達、今は10人ぐらいいる。
ここに通わせてない子も多いから、本当にレスター兄様のおかげで竜人の数は爆発的に増えている。

「ナツ!久しぶり、げんきにしてた?また離れに遊びにおいで?」

「はい!!今度母上がお呼ばれしているのです!僕も護衛で参ります!!」

 ふふ、可愛いなぁ。糸目の垂れ目でいつもにっこり顔。ルースそっくりなのに、礼儀正しいのが逆に可笑しくて笑ってしまう。

「姫殿下、じじ共らにご用事ですかな?」
トムじぃが私を認めて立ち上がり、礼の姿勢をとる。私達だけならくるみと呼んで気安いのに、子供達に手本を見せているのだと分かる。

「あ、忙しかったらごめんね、差し入れと……」

「ふぉっふぉっ、もう今日はお開きの時間ですじゃ、これ子供達、うちへ帰れ。宿題わすれるなよ」
カカロじぃも立ち上がり子供達をドアへと追い込んでいく。
子供達は私に礼の姿勢をとり、元気に帰って行った。

「さあクルミ、じじ達と久しぶりにお茶をしようぞ」
ムートンじぃが嬉しそうにいそいそとお茶を淹れる。

 母様からの差し入れのフィナンシェをフレーバーごとにお皿に盛って出すと3人ともとっても嬉しそうに笑う。
母様はこの3人のじじ達の胃袋も掴んでる。

「さてさて、じじ共に解決できる話かのぉ」

 私が紅茶を一口飲んで、一息ついたところでカカロじぃが言う。
この3人には何でもわかってしまう。
私が王族っぽくなくて何でも顔に出てしまうのもあるせいかも。
アイラちゃんにもすぐバレたしね。

「じじ達は、兄様達や秋の教育は楽しかった?」

「わはは、そりゃあ神の采配かと思ったわい。神童の指導など、夢の様じゃったよ」

 やっぱり……兄様や秋がじじ達に学び出した1年後ぐらいから私も参加した。あの3人を指導するじじ達はそれはもう楽しそうだったのを覚えてる。

 何もかもが劣る私はその光景をいつもぼんやりと眺めていた。

「私は……普通、だったでしょ、ごめんね」
我慢していたのに、ポロッと涙がおちる。
私の涙腺は王族にはむいていない。

 3人が目を見開いて私を見る。
ムートンじぃは眉毛で見えないからわかんないけど、たぶん。

「はぁ、そういう事か。くるみ、よく聞きなさい。好きなことを見つける手助けと、頑張り方、歩き出し方を教えるのがわしらじゃ。王弟殿下も共通認識じゃと思う」

 トムじぃが言い、カカラじぃが続ける。

「くるみ、そこに振り幅は関係ない。どこまで進んだかはわしらはそこまで見ておらん。
悲しい思いをさせたか?小さなクルミにわしら3人は謝りに行かねばなるまいな」

 3本の手がワシワシと私の頭を撫でる。

「例えばのぉ、クロムには領地経営の知識と王家の歴史を叩き込んだあとは、あの子の好きにさせた。そうしたらまぁ、兄弟をフォローすることばかりなんでな、教師にでもなりたいのかと思って見ておったが、どうもお前達兄弟だけに発動するようじゃった。
だからクロムにはレスターへの助言と秋へのフォロー、クルミへの手助けに特化して教えて行った。どうすればレスターは動いて、どうすれば秋が楽しめ、どうすればお前さんが喜ぶかをあの子はいつも見てるじゃろ。それがあの子の好きな事じゃ」

 ムートンじぃが白い髭を触りながらゆっくりと言う。

 う、うん?そうかも。好きなことって、剣技とか、算術とか、絵とか、そういう事じゃなくて?

「レスターはのぉ…… あの子にはクロムと一緒に帝王学と、国政を少しさせた後は好きにさせた、そうしたら何をしたと思う」 
トムじぃがニヤリと笑う。

「剣術ですか?クロム兄様といつも手合わせしていたでしょう?強くなりたいって今でも言ってますし」

「いや?あいつは人員配置に興味を示した。当時の軍部の人事異動についてブツブツ文句をいい出したんじゃ。だから王宮の組織を回らせて、仮の人事を組ませて遊ばせた。加護の力もあるじゃろうが水を得た魚の様にやりおるぞ。本人が好きと認識してるかは知らんがの」

 配置?そんなの、好きとかそういう話?

「しゅ、秋は?」

「あやつか?秋は帝王学をかじらせて、領地経営と王家の文化系に特化して叩き込んだあとは好きにさせた」カカロじぃはしみじみ言う。

「秋の好きな事なんて、ないです。めんどくさがりだもの。それでもあの子は何でもできる」

「そうだな、秋はいつも手を抜くことばかり考えおる。それが好きなんじゃろ」

「え?」

「サボることが好きなんじゃよ。だから突き抜けてサボらせた」

「サボらせた?」

「刀が重いから持ちたくないと言えば鍛冶屋に行かせて軽くても切れる刀を作らせたし、王家の儀式はだるいと言えば内容が重複している儀式がないか調べさせた。あいつ、自分が楽するためならなんでもするぞ、楽しそうにな」

「でも、私が何にも出来ないのは変わらない」

「これ、出来ないことを数えるでない。そんな事は教えておらんぞ、何が好きかを考えなさい」トムじぃが注意してくる。

 何が好きか?私の好きなのはクロム兄様で、クロム兄様のおそばにいられるのが幸せで…………

「あぁ……ようやくわかった、おぬしの間違いはそこじゃな。女の子にありがちな間違いじゃ、好きなことを探せと言うと真っ先に好きな人のことを考える。クルミはいつもクロム坊を見て真似しようと頑張っていたが、そうじゃない」

 何ですぐにバレるんだろう。そんなに私分かりやすい?かぁぁと顔が熱くなり俯いてしまう。
じじ達はずっと私の気持ちを知ってたの?

「好きな物はを探すことではない。自分の人生の主軸に他人を立てるからおかしくなる。クロム坊の人生はクロム坊が考える。クルミはクルミの好きな物を探しなさい。
人ではなく、物、事じゃ。混同してはならん」

「…………………………」

 ぐうの音も出ない。
私はいつもクロム兄様の事ばかりで、兄様みたいに優秀になりたくて…………

「人、以外じゃクルミ。わしらから言えるのはそれだけじゃ。すぐに見つかるじゃろうて、見つけたら、また報告においで」

「人以外……」

 私の好きな事、それが見つかれば、私は少しは変われるんだろうか。
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